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第46話
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どうやら紅葉の伴奏を務める予定のピアノ科の女の子が突き指をしてしまったらしく、代わりにみなに伴奏を頼めないかと紅葉の学校の教師から頼まれる。
「え、やだ。
…ってか補欠の子は? いないの?」
「今向かってるけど、渋滞にハマってるらしくて…。しかもその子は紅葉くんと合わせたことが二回しかない…。」
「えー…。
突き指って小指?…折れてないなら弾けない?
指一本くらいなくても弾けるよ。」
「クロイチェルだぞ!無茶言うなっ!」
「私なら弾くけど…。
え、ピアノの子、出なくても成績はいーの?」
熱があっても鎖骨を折られてもステージに立ち歌い、パフォーマンスをこなした彼女は平然と告げた。
「彼女はまだ二年生だから…。
まぁ実績はつかなくなるが…。」
「あ、そ。
紅葉がどーしても私とって言うなら出るけど、貸しだからね!
あと、そこの子!譜面くらい捲ってよ?」
端的にそう言うと楽譜を持ってその場を後にするみな。
凪と紅葉は慌てて彼女を追った。
「大丈夫。
集中したいだけ。
確かに毎日のように練習には付き合ってたから弾けるけど、人に聴かせられるレベルだとは思ってない。ちょっと本気出さないと。紅葉の足引っ張りたくない。そんなことしたら母に怒られるよ。」
そう言って人気のないベンチに座り、楽譜を捲るみな。
凪は簡単に食べられる昼食を買いに行く。
ついでに光輝にも連絡を入れた。
みなも出ると言うとソッコー来るという返事を聞いて笑う凪。
紅葉はみなの隣のベンチに座りごめんね、と謝った。
「あの子、ホントに突き指?
なんか拗らせたでしょ?」
「…コンクール終わったら付き合って欲しいって言われた…。好きな人いるから無理だよって断ったらあんなに優しくしてくれたのに何でって。
女の子に優しくするのはマナーだからだよ。って言ったら怒っちゃって…。」
「呆れた。子供過ぎるね。
学生だからって責任感無さすぎ~。
紅葉はアホー。何勘違いさせてんの?
バカ正直に言い過ぎだし。
まぁ、女の子は無理だもんね?
そこは仕方ないよねー 」
「凪くん以外は考えられない…。」
「俺が何…?」
「凪くんっ?!」
思ったより早く戻ってきた凪に驚いた紅葉は顔を赤らめながら立ち上がる。
「なんか光輝がメシ買ってくるって。もう着くらしい。」
「渋滞は?」
「まだダメ。よく分からねーけど、バイク捕まえたらしいよ?」
補欠の子もそのくらいの気合いを見せて欲しいと思いながら楽譜を捲るみな。
紅葉は凪のジャケットの裾を掴んで彼を連れ出した。
人気のない建物の陰で伴走予定の女の子とのいきさつを説明する。
凪はちゃんと断ったならいいと告げ、紅葉の頭を撫でた。
上目遣いで凪を見詰める紅葉はどこか不安そうだ。
「まぁ…いつも通り弾いたらいいよ。」
周りに人の目がないことを確認した凪は一瞬だけ唇を合わせた。
途端に嬉しそうに笑顔を見せる紅葉。
ギュっと凪の首に抱き付いてからみなの元へもどる。
さすがに人前で手を繋ぐことは出来ないなぁと凪の指先を眺めて歩いていると、凪がジャケットのポケットの中に紅葉の手を導いてこっそり手を繋いでくれた。
途中で突き指をしたと言っていた子に会った。
「風ちゃん!
どーしたのっ?!」
紅葉が駆け寄る彼女は右手首にしっぷを巻いていた。痛いと言っていたのは左手の小指だったはずだが…
「あ、さっき躓いて転んでしまって…」
「大丈夫?」
「はい…。少し捻っただけなので…。
紅葉先輩…!
私、こんな大舞台初めてで…その、プレッシャーで突き指なんて大袈裟なこと言ってしまったんです…。だからバチが当たったのかな…。
結局伴奏出来なくてごめんなさい。」
「そっか…。
みんな巧くて緊張するよね。
風ちゃんと出れないの残念だけど、気にしないで。怪我早く治るといいね。」
「ありがとうございます。
あの…聞いてもいいですか?
紅葉先輩の好きな人って…もしかしてあの背の高い方……?彼氏さんなんですか?」
「えっと……あの……うん。
あ、でも内緒にしてね。」
「っ!!…分かりました!
あ、そうだ!
楽譜捲るのは左手でも出来るのでやらせて下さい。」
「分かった。ありがとう。無理しないでね。」
彼女とまた後でと言って凪のもとへ戻る。
「何て?」
「今度は転んだんだって!可哀想…!
えーっと、日本のことわざでなんて言うんだっけ?」
「…泣き面に蜂、だな。」
2人がみなのもとへ戻ると既に光輝が到着していて、楽譜を捲りながら音源を聞いている彼女にゼリー飲料を与えている。
「あいつら早くくっつけばいーのに…。」
「ねーっ!」
2人は笑い合って合流する。
サンドイッチを摘まんで本番へ。
「ピアノのタッチ確認したいから音合わせするふりしてくれる?」
彼女のリクエスト通り、演奏前に一音奏でてチューニングする。
~ベートーベンバイオリンソナタ9番~
流石に凪の実家や家での練習時のようにニコニコ顔を合わせながらアドリブを入れてと言うわけにはいかなかったが、時折目線を合わせながら奏でていく。
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