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第50話

16:30 まだ眠っている紅葉に少し出掛けると声だけかけて、車で翔のもとへ向かう凪。 念のためLINEとメモにもすぐ帰るから待っているよう伝えておく。 1700 近くのパーキングに車を停めて翔のマンションへやってきた凪は右手以外は元気そうな翔の姿を見てホッとする。 「もー、マジバカでしょ?! 年上だけど言わせてもらうけど、翔くんバカでしょっ?!」 「今2回言ったよね?ひどい。」 「まぁ、元気そうで良かったけど。 ってか上がってもいい? これ置きたい。」 「何?差し入れ? 買ってきてくれたのー?」 翔が紙袋の中身を覗きながらいい匂い~と呟く。 「手作りだけど平気? 他人の作ったもん食える人?」 「えー!マジでっ?! 手料理なんて久々ー! 全然気にしないし、むしろ嬉しい! 何でも食うよ。 ってか凪が作ったの?!料理人だったんだもんね?!うわっ、プロの味?中身見して!」 テンション高くよく喋る翔に苦笑しながらこっちが和食、こっちが洋食とザックリ説明する。 「片手で食べれるようにロールキャベツとか小さく切ってるから。冷蔵庫入れていい? って、ビールしか入ってないんだけど…()」 「凪って神なの?! 女なら嫁にしたい…。 拝んどこ。」 「アホなこと言ってないで資料寄越してくれる?(笑)」 翔は説明しながらLiT JのLIVE資料を渡した。 「了解ー。 リハも出るから。他のメンバーさんにも言っておいて?」 「頼むね。俺もなるべく顔出すし。」 「他は? せっかく来たし、何か手伝う?」 見渡す限り綺麗に片付いてるが、片手では何かと不便だろうと手伝いを申し出る凪。 翔は一瞬考えて思いきって告げた。 「あのさ、風呂入れてくんない? 髪洗えてないから気持ち悪いんだよね。 無理ならいーけど。」 「え、風呂? …いーけど、ちょっと待って。」 凪はスマホを取り出して紅葉に連絡する。 さっきのLINEは既読になってて「まってる」とひらがなの返信が来ていたので起きたようだ。 漢字の苦手な紅葉のために2人はいつもひらがなとカタカナのLINEだ。 「ケガしてるせんぱいをふろにいれるけど、ウワキじゃないから」と返して翔に向き合う。 「彼女ー?待たせてるならいーよ!十分してもらったし、悪いから帰ってあげて!!」 「いや、平気。 あー、言いそびれてるんだけど、俺が今付き合ってる相手って男なんだよね。」 「男っ?! えっ、マジっ?! 凪ってバイだったっけー?」 「バイってか、一応男は初だし他はないかな…って感じ。 そう、だから一応断っておかないとみたいな?あ、ごめん。翔くんが気持ち悪いとかなら風呂は止めるけど。」 「なるほど…。 へぇー…。俺は偏見ないよ? 友達もバイもゲイもいっぱいいるし。 迷惑かけついでに髪だけ洗ってもらっていーい?彼氏ちゃんの話も聞きたいし。 俺マジで最近潤いないからさー、デリヘル孃呼んで風呂だけ入れてもらおうかと考えてたんだよねー。利き手なしじゃヤれないし…いや、ヤれなくはないかなー?でもなんか全力出せないしとか思って…」 「翔くん、それ介護だから(笑) デリヘルじゃなくてヘルパー呼ぶ感じじゃん(笑)」 「えー?そっかー!(笑)」 2人は下らない雑談をしながらお風呂が出来るのを待った。 結局、タオルで下を隠してもらって翔の髪と全身を洗う。右手はラップとビニール袋で防水対策済みだ。 背中まで伸びた明るい茶髪は確かに一人で洗うには大変だろう。 着替えを手伝い、ドライヤーまでかけてやる。 「至れり尽くせり、至福ですよー。 いつも彼氏ちゃんにやってあげてんの? 乾かすのウマイー。」 「まぁ、一緒にいるときはやるよね。」 「凪って尽くすタイプだったんだねー。 ってか、ずっと気になってんだけど、腕のアザヤバいよ? 何プレイ?(笑)」 「え、アザんなってる?(苦笑) しがみつかれただけだって。」 「やっぱ男の子だね、握力スゴいー。」 バイオリンとベースを奏でる紅葉は左手の握力が強いらしく、無我夢中だとたまに凪の腕に痕が残るのだ。 「付き合ってどんくらいなの?」 「まだ全然。3ヶ月とか。」 「うわっ!! 一番ラブラブな時だよね。 ごめん、こっちの仕事入れたら休みなくなるでしょ?彼氏ちゃん大丈夫?怒らない?」 「理解あるから大丈夫。ってか、彼氏ちゃんってビミョー(苦笑)」 「えー、だって名前知んないしー。 今度紹介してよ。」 「まぁ、そのうち紹介しますよ。」 帰宅後は多少復活した紅葉に抱き付かれて「僕もお風呂入れてっ!!」と可愛いヤキモチを妬かれて、2人で仲良くお風呂に入り、リクエスト通りの夕食とデザートにイチゴを出せばすっかりご機嫌が直ったらしい。 「凪くん、僕明日学校行くよー。」 「あれ?休みじゃなかった?」 「賞もらったからいろいろあるみたい。 あと卒業公演の話かなー。 凪くんは練習?お家にいる?」 「ん。これから曲覚えて自主練かな。 …手伝ってくれる?」 曲を覚えるのが得意な紅葉にそう頼むと嬉しそうに微笑んだ。

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