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第51話

1/28 紅葉の学校 「もーちゃん! 卒演のコンマス断ったって本当っ?!」 クラスメートに聞かれて紅葉はホントだよー!と答えた。 コンテスト上位入賞した紅葉に卒業公演のコンマスの打診がきたのは当然の流れだったが、紅葉は「自分自身の中で課題が見つかったのでしばらくはそこに向き合いたい」と断ったのだ。 ざわめく教室内に担任も加わりもう一度紅葉を説得する。 「ストラド貸してもらえるんだよ?」 「僕、自分の…お父さんのバイオリンがいい。 ストラド…短期間で弾きこなす自信ない。」 なんて勿体無い!と嘆く友人たち。 じゃあ誰がコンマスをやるかという話題になり… 「あのね、コンマスは潤くんがいいと思う。 いつもみんなの意見をまとめてくれるし! 僕はそういうのあんまり得意じゃないから…。 それに…このクラス好きだけど、僕は留学生で半年くらいしかここにいないし…やっぱり3年間一緒に頑張った人の中から選ばれるべきだと思う。」 そう告げると担任は感涙しながら抱き締めてくれた。 クラスメートたちもすごいいいこと言った!と喜んでくれて大いに盛り上がる。 「先生、卒業試験、簡単にしてね?」 ちゃんとお願いも忘れなかった。 1/29 209 紅葉の眠るベッドに帰宅した凪が入ってきて、ギュッと紅葉を抱き締めた。 「ん…? 凪くん…! お帰りなさいー。 リハーサルお疲れ様。」 「悪い、起こした?」 「いいの。一緒に寝よ? それとも…する?」 「寝よ…。今日ちょっと疲れた。 このまま抱っこして寝ていい? 紅葉と寝るだけでも俺めっちゃ癒されるんだよね。 で、朝しよ?」 くすくすと笑って頷くとおやすみとキスをして瞼を閉じる紅葉。 凪も紅葉を抱き込み、指先を絡ませて眠る。 明日(日付的には今日だが)はLiT Jのツアー初日。 埼玉での公演だ。 いろいろな音楽を聞いて勉強したい、凪について行きたいと言う紅葉に負けて当日のリハーサルまで同行させる予定だ。 9:00 先に起きた紅葉が簡単に朝食を用意してくれていて、感激した凪は朝食の前に紅葉を食べにかかる。 「ん、遅刻しちゃうよ?」 「分かってる。ちょっとだけ…!」 1012 急いで支度を済ませて車で埼玉へ向かう。 赤信号で手を繋いだり、凪が紅葉の内股に手を入れてイタズラしたり… いつも以上にラブラブなドライブだ。 「や。ダメ…っ。そんな触ったらしたくなっちゃう…!」 先程は触っただけでタイムアップになってしまったので、燻る熱をもて余した紅葉が赤くなる。 「かわい。 じゃあキスして? ほっぺでいいから。」 紅葉が頬に唇を寄せた瞬間横を向き、唇を合わせる凪。イタズラが成功して笑い合う。 「もー!() 危ないからちゃんと前見て運転して!」 1240 会場に到着した凪は紅葉を連れて楽屋へ行き、スタッフに声をかけ、機材を運ぶ。 数人に手伝ってもらいながらドラムセットを組み立てる合間に翔を見付けて挨拶をした。 「おはよー、凪!今日は初日よろしくね! ってか、この前の差し入れ! めっちゃ美味しかった!マジでありがとう! お礼はまとめてするね。」 「礼とかいらないよー。 LIVEよろしく…。 紅葉おいで? 翔くん、うちのベースの紅葉。 今サポートだけど4月から正式にメンバーになる予定。 紅葉、俺の先輩の翔くん。 昔スゲー世話になったんだ。 俺より年上だからなるべく敬語使うように。 …ごめん、日本語話せるけどあんま敬語とか出来ないから…」 「いーよ、いーよ!気にしないで。 よろしくねー!噂以上にキレーな子っ!! あれだよね、ボーカルちゃんのイトコだっけ?あの子もめっちゃ美人だけど、君はまた違うねー!」 「はじめまして!紅葉です!! 凪くんがお世話になります! よろしくお願いしますっ!」 元気に挨拶とお辞儀をした紅葉は背中にしょっていたリュックの蓋が開いていたらしく、漫画のように中身をぶちまけた。 その様子に翔は爆笑して床を転げ回る。 対面して1分で紅葉のことが気に入ったらしい。 「何、こんなにタオルとかスポドリ持ってきてんのー?重いっしょ?」 「凪くんのサポートをしようと思って…。 失敗しちゃった…。」 シュンとする紅葉の頭を撫でて、ほら、とキーケースを渡す。 「落とすなって言ったばっかじゃん! こっちの小さいポケットに入れたら?」 「わーっ!ごめんなさいー。そうするー!!」 凪からもらったばかりの合鍵とキーケースを受け取って、きちんと仕舞う紅葉。 2人の様子を眺めてた翔の視線に気付いた凪がきちんと紹介する。 「翔くん、これ俺の恋人。 この通りちょっと抜けてるから作業の間、面倒見ておいてくれる?」 「了解ー!」 「じゃあ、俺戻るから。 …荷物ちゃんと確認しろよ?」 ステージに戻って作業に入る凪。 紅葉はしばらく固まって、しゃがみこんだ。 翔は驚いて駆け寄る。 「どーしたっ? 何か見つからない?」 「凪くんがっ…」 「え、何?」 「…初めて恋人って紹介してくれたぁー!!」 どーしよ、嬉しいー。 と顔を覆う紅葉に翔も自然と笑みが溢れた。

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