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第55話※微R18

2/15 900 「あれ?朝だぁー!」 目覚めた紅葉がベッドに座って目を擦る。 「おはよ…。相変わらず早いな…。」 学生でもあるため、ミュージシャンの生活リズムにしては早起きの紅葉。 「凪くんおはよう。 ごめんね、昨夜寝ちゃったみたい。」 「よだれ垂らして寝てた。 チョコの夢でも見てた?」 「ウソーっ? あと付いてる?」 凪にからかわれながら口元を袖口で拭く。 「あとで顔洗えば?」 「うん。…あとで?」 「おいで?」 再び布団に呼び戻されてくっつく2人。キスを繰り返し、舌を絡め、足を絡め…紅葉の服を捲ったところでハッとする凪。 「ヤバい…、一件用事あったんだ。 うわー…。ごめん、あとでな?」 「うん…。用事、何?」 「この家借りてる大家さんに挨拶。 ルームシェアしたいって言ったら顔見せろって言うからさー。頭の固いじーさんなんだよ。 紅葉時間ある?すぐ裏だけど、一緒にきて?」 その前に百貨店で煎餅でも買うかと言い、ベッドから起き上がる凪。 紅葉に手を伸ばすが、なかなか布団から出てこない。 「ちょっと待って…っ!先に行ってて?」 「あー、治まんない?俺しよっか? それとも一人でする?」 「一緒がいいから我慢する…! …あとで?」 「ん、あとで。」 軽いキスをして支度に取りかかる。 1100 凪の住んでいる家は賃貸だが比較的築年数の浅い一軒家。 部屋数は2LDKにプラス本格的な防音部屋付き。駐車場も2台分あり、広くて使いやすいキッチンにカーテン、照明、ダイニングテーブル付き。 明らかに音楽好きなファミリー向けに建てられたであろうこの家は相場より安めの家賃にも関わらず凪が入居するまでしばらく空き家だったらしい。 理由は最寄り駅からは少し遠いことと、立地条件だ。この家は大家である人物の敷地内に建てられている。 つまり敷地内同居物件。しかしそこに住むべき…恐らくは息子家族の姿はない。 おおかた、嫁さんが大家である舅や姑にイビられて出ていったとかいう典型的な形であろうと凪は予測している。 入居の時も大家と面談があり、仲介役の不動産屋の営業は直立不動で立ちすくむだけ。 凪は収入や生活スタイルを聞かれ、ごみ捨てのルールまで細かく言われてゲッソリしたのを覚えている。 それでも音だけでなく振動がかなり響くドラムを家で練習出来るこの家の環境は魅力的で諦められず、二度の面談をこなし、更新時にはこうして大家に手土産まで渡しているのだ。 住み始めて2年目、角が立たないよう注意を払い、女の子も連れ込まないようにしていた家にまさか男の恋人と住むことになるなんて… 表向きはルームシェアと伝えてあるが… とにかく大家と揉めないことを願って、すぐ裏の大家の家を訪ねた。 「遅い! 11時を5分も過ぎとる!」 「…すみません…。」 会ってすぐ怒鳴られる。 もう帰りたい。と思う凪。 「こんにちはっ! 苺買ってきたの!おじいちゃんも食べる?」 紅葉のいきなりのおじいちゃん呼びにギョっとする凪。 しかし大家は紅葉を見てなんだと呟いた。 「同居人てお前さんか? おなごかと思ったが… 名前はなんだったか…」 「紅葉だよ。」 「そうだ。あの女優と同じ名前だったな。 4月から聖音大と言ってたな。 そうか、ここから通うのか。 バスならすぐだぞ。」 「うん!お天気の日は自転車にしようかなって。」 「それならガレージに置けばいい。 私は今年70で、免許も返納して車も処分するから好きに使いなさい。」 「ホント? ありがとう! 良かったね、凪くん! おじいちゃん車ないとお買い物大変だから僕またお使いお手伝いするね!LINEしてね!」 「ネットスーパーと宅配があるが、そうだな、急に物入りの時は頼むとしよう。 紅葉、煎餅食うか?」 「うん!お煎餅好き。」 玄関を上がり当たり前のように奥へ入っていく紅葉…。 「え、何? 知り合いだった?」 とりあえず2人の後に続き、今まで一度も出してもらったことのない緑茶の湯呑みを見詰めながらそう聞くと… 「凪くん忙しかった間にごみ捨てしに行ったらおじいちゃんに会ったの。重そうだったからお手伝いして、お煎餅もらった! それから仲良くなってお友達だよ。」 70才と18才が友達? 人類みんな友達にするつもりかとさえ疑う凪。 「この前は商店街で迷子になっとったから拾って連れてきたぞ。全く、言葉の不自由な子に使いをさせるなんて…!」 「すみません…?」 「凪くん悪くないよ!とっても忙しかったから僕がお手伝いしたいってお願いしたの。 もう迷わないもんね!」 聞けば最近は凪の家に一人で来る度に顔を出していたらしい。ペットボトル飲料など重い物を差し入れたり、故郷の話をしたらじいさんの息子家族が近くに住んでいることが分かり意気投合したのだとか…。 因みに孫と紅葉は同年代らしく、孫の代わりに紅葉を可愛がってる勢いだ。 「はぁ…。」 としか言えない凪。 結局、紅葉が住むことは2つ返事で了承され、屋根つきのガレージまで無料で借りられることになった。 気難しい老人まで心を開かせる紅葉に感心しながら、これでなんの心配もなく同棲生活をスタート出来ると安堵する凪だった。

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