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第59話※微R18

一先ずその日は病院でもらった試供品のドッグフードと念のためペットシーツを何枚かひいて、寝床代わりに古い毛布を与えた。 平九郎は慣れるまでリードに繋いでいたが、ひとしきり部屋の中を歩き回ると落ち着いたので放して好きにさせているが、基本的に紅葉にくっついて歩き、姿が見えなくなるとキューキュー鳴いている。 初日だし、仕方ないと気の済むまで撫でてやる紅葉。 「可愛いー!ふわふわになったね! 凪くんも触ってみる?」 「噛まない?」 「大丈夫だよ!」 凪が恐る恐る手を伸ばすと、鼻先で凪の匂いを嗅いだ平九郎はフンっと鼻息を吐いてどこかへ行ってしまった。 「…何、俺、嫌われてんの? 一応ここの家主なんだけど…。」 「まだ慣れてないからかなぁ? 明日、平九郎のお皿とかご飯買いに行ける?」 「あぁ。いーよ。店調べよっか。」 2人で凪のスマホを覗きながらペットショップを検索する。 飼育に必要な物も調べて紅葉がだいぶ上手に書けるようになった日本語でリストにしていく。 夜、寝室へ向かう2人についてくる平九郎…。 リビングの寝床で寝るように言うがドアを閉めるとクークー鳴くので、仕方なく招き入れることに…。 紅葉が毛布をひき、おやすみと言うとクルリと一周回って寝そべったので安心してベッドに上がる。 凪とキスをして、イチャイチャしながら寛ぐ。 そのまま服を脱がしにかかる凪を「平九郎が見てるから…!」と止める紅葉。 「見てねぇよ、寝てる。」 と、覆い被さる凪。 「あっ、ん。 も、ダメだよぉ。」 紅葉もその気になったところでワンと言う声の邪魔が入る。 「何…?」 「あ、平九郎…!起きちゃった?」 「いーから、続きしよう。 お前はあっち。」 「ん、でも…っ! あっ、や、凪くんっ!」 …ワンっ! 「………集中出来ない。」 ため息をつく凪。 どうやら紅葉が凪に苛められてると思ったようで、紅葉を守っているつもりらしい。 「…俺ライバル認定されてんの…?」 「ごめんね、凪くん…。 僕も恥ずかしいからまた今度ね? …平九郎、大丈夫だから寝よ?」 そんなことがずっと続き、凪はどうしたものかと悩んでいた。 紅葉の学校がほとんど休みになり、卒業式の翌日から同棲予定、実質的には今も半同棲中の一番満月の時期にこの状況は辛い…。 お風呂でしようにも体制的に紅葉の負担になるし、平九郎はバスルームの外からも様子を伺っているのだ。 2人とも気になっていつも中断することになっている。 紅葉がいない時は凪と平九郎で過ごしているのだが、粗相などはしないものの明らかに距離をとられている。 動物を飼ったことのない凪は試行錯誤しながら平九郎を手懐けようと頑張っていた。 「鶏肉余ってるから茹でてあげてみるか…!」 茹でて小さく刻んだ鶏肉をおやつに与えれば気に入ったようで尻尾を振ってもっと!という表情を見せる平九郎。 凪は少しだけ追加してやり、そっと頭を撫でてみる。 「うまいか?」 そう聞くと手を舐めてきたので、これはいけるのでは?と思った。 時々肉をやり、あえて目の前でキスやハグをする。 「これは苛めてんじゃなくて愛だから。 な?」 「ん。凪くん、好きっ!」 イチャイチャしてても少しは大人しく待っててくれるようになった頃、卒業式、引っ越し、同棲、そしてバンドの合宿が待っていた。 卒業式…正確には語学研修の修了式は無事に終わり、紅葉の担任は号泣していたらしい。 「お前はホント、実技はパーフェクトなのに卒試はオマケ合格だったからな! 大学行ってもちゃんと漢字の勉強しろよ!」 「先生、新婚さんなのに苦労かけてごめんね。僕ドイツの高校もオマケだったんだ!大学も頑張るね!」 担任はすごく心配そうな顔をしていたらしい。 卒業式のあとは引っ越し前日ということで、記念にみなと一緒のベッドで眠った。 「なんか手のかかる子をお嫁に出す気分…寂しいな。ケンカしたら戻ってきていいよ?」 「大丈夫だよー!!これからも家族だから遊びに来るし、みなちゃんも来てね!平九郎、可愛いよ!」 「犬、合宿に連れていくでしょ?楽しみにしてる。」 みなからは同棲記念にペアのマグカップと紅葉がこっそり使っていた高い化粧水の新品を貰った。 翌朝、凪が紅葉と荷物を迎えに行くといろいろ注意事項を言われる。 「これが貴重品。パスポートとか銀行の通帳、保険証関係と病院の診察券。月に1度喘息の薬もらうの忘れないでね。歯医者と予防接種は自分じゃ行かないから連れて行って。」 「了解。紅葉、帰ったら自分で金庫にしまって。」 「うん。」 「あとこれはおばあちゃんから…料理のレシピだけどいる? 字が達筆だから全然訳せてないけど…。故郷の味だから…たまに作ってあげたら喜ぶと思う。」 「俺預かっていい…? 知り合いにドイツ人シェフがいるから訳せるか聞いてみる。」 「うん、よろしく。」 「ありがとう、みなちゃん。」 2人はハグをして別れを告げる。 まぁ、すぐに会える距離だし、仕事でも会うのだが…。 「…また合宿でね。 凪、末長くお願いね。」 荷物を少し片付けていたが、どうせすぐに合宿だからと切り上げて、この日は強引に寝室に籠った。 時折キューキュー鳴く声は聞こえていたが、線引きは大事だと言って、2人きりの時間を過ごした。 「終わったら部屋に入れるから…。 今日は抱く。しばらく抱けないし…。」 「合宿の間は我慢?」 「そーだな。平九郎だけじゃなくて、みんなに声とか聞かれたらイヤだろ?」 「…やだ。」 「じゃあ今しよ。」 「ん。」 2人は見つめ合いながらキスをして、ゆっくりと抱き合った。

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