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第60話
3/10 Links合宿初日
1日早く現地入りした誠一から合宿先の貸別荘にある調理器具を確認した凪は足りない物を自宅から持ち出すことにした。
合宿期間は2週間、なるべく自炊をして食費を抑え、スケジュールも予定より押しているので出来るだけ曲作りとに時間を使いたいところだ。
しかし自宅用の小さめとはいえドラムセット一式と紅葉のベースにバイオリン、2人分の衣服に加えて平九郎の荷物までとなると大荷物になり、光輝の車(メンバーの移動車)に少し乗せてもらい出発する。
「じゃあみなを乗せてから行くから。
あとで合流出来たらしよう。」
「了解。こっちは犬に合わせるから…遅れそうなら連絡する。」
「気をつけてね。」
1140
SAで休憩する光輝とみな。
「紅葉たちもうすぐ着くって。」
「じゃあ軽く何かつまんでからいこうか。
寒いから中で待ってよう?」
屋内で珈琲を飲みながら世間話をする2人。
「昨日何してた?病院は?」
実はピアノの弾きすぎで腱鞘炎になってしまったみなは、再び病院通いの日々だったのだ。
「大丈夫。無理しなきゃ弾いてもいいって。
ってか、病院で骨折ドラマーに会ってさ。」
「…LiT Jの翔くん?」
「診察室が騒がしいと思ったらヤツだったの。向こうも私に気付いてギプス外れたからご飯行こうよって。」
「着いてったの?
大丈夫だった?」
「ご飯だけ。普通にご馳走してくれた。」
「でもあの人みなちゃんのコト好きでしょ…?」
「顔が好みらしいよ。ってか、いろいろ話して友達になった。」
「友達…?
それは…えっと、健全な友達?」
「うん。」
「ならいいんだけど…。」
でもやっぱりちょっと心配だなぁと呟く光輝。
~回想~
整形外科待合室。
右手首に違和感を覚えたみなが病院を受診したのが2週間前。
曲作りに集中しすぎて1日8時間ほど、ピアノを弾いたり、パソコンに向かっていたり、保存食になるパンを作っていたため腱鞘炎になっていたのだ。
痛みはさほどないが、後々影響が出たりピアノを弾けなくなっては大変なので通っている。
先ほどから診察室から聞こえてくる若い男の悲鳴にイラつきながら会計を待つ。
「もー、超恐かったぁ。
…って、あれ?どこの美人かと思ったらLinksのみなちゃんだっ!こんなとこで奇遇だねーっ!どーしたのっ?」
喧しい男に見覚えがあり、ため息をつくみな。
「もう終わったの?
俺もー!ほら、見てギプス卒業ー!
ね、このあと暇?ご飯行かない?
奢るよ!
右手が自由になったら行きたかったとこがあるんだよねー!」
「うるさい。
分かったからちょっと黙ってくれる…?」
周りの患者 からの視線に堪えられずそう告げたみな。
仕方なく流れで食事に行くことになった。
連れて行かれたのが割りとちゃんとしたイタリアンのお店だったので、少し警戒するみな。
「そんな警戒しなくても…(苦笑)
ここ美味しいんだよ。好きなの頼みなー!」
「何狙い?」
「うーん、友達?」
「女の子紹介して欲しいの?」
「あ、それもお願い出きるなら嬉しいんだけど…!
普通に友達になろーよって話。」
10個年上の男にそう言われて益々怪しむみな。
「確認だけど、変なことなしだよね?
あんた音楽の腕はいいのに、チャラいからイマイチ信用出来ない。」
「えー!女の子でも友達には手出さないよ!
みなちゃんは男キライ?ってか苦手だよね?
だからなしで。健全にお友達!(笑)
ってか、ライバルが光輝じゃ無理だからそこは諦める。マジ、顔はめっちゃタイプなんだけどねー。」
「一応訂正しとくけど、光輝くんとは付き合ってない。」
「マジでっ?!
いや、この前のLIVEの日、わざわざ雪の中迎えに来たから付き合ってるんだと思ったー。
まぁ、少なくても向こうは本気だよね、あれは。」
「私が言うのもなんだけど、あの人、いろいろぶっ飛んでるからさ。」
「確かに…。俺より五個くらい年下だけど、バンドの売り込み方とかLIVEの構成とか何から何まで手腕がスゴすぎてこわい。」
「そうだね。いつも振り回されてる。
でも…私、今回手痛めてピアノ弾けなくて。
今まで曲作りはピアノなしでも出来てたんだけど、なんか全然作れなくて結局ゲネプロ止めちゃったんだ。でも何も言わずに休ませてくれてるし。まぁ、明日から合宿だからあの人また鬼になるのかも知れないけど(苦笑)」
「えっ?!合宿っ?!
Linksスゲーね。体育会系なの?
ってか、襲われたりしないか心配にならないの?」
「メンバーだよ?そこは信用してる。
そこ崩れたらバンド終わるって誰でも分かるし。
ってか、年末のツアー中もみんなで一部屋に泊まったし。噂はいろいろあるけど、今までも夜通しSE作ってたり、作業で2人きりとかあっても何もないよ?」
「マジで尊敬する、光輝、神っ!
そーいえば、天使の紅葉くんと凪は相変わらず?」
「一緒に住み始めたとこ。天使?」
「あの子はマジ天使っ!!
えー、同棲羨ましいー。
俺にも天使降ってこねーかな…。」
「…同じ顔ならもう一人いるけど?」
「マジでっ?!
きょーだいっ?!いくつ?!
一生のお願い!紹介して!」
「…合宿終わる頃、日本に来るはずだから会わせてあげよっか?」
「是非!!お願いします!
あ、デザートも食べなよっ!」
翔の申し出を遠慮なく受けたみなは紹介相手がもう一人のいとこで男であることは内緒にしておこうと心に秘めたのだった。
~回想終わり~
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