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第61話

1350 「わぁーい!着いたぁ! 森だぁー! 木のお家ーっ!」 喜ぶ紅葉とは対称的にみなはコートの前を合わせた。 「…寒いんだけど…!」 山奥の貸別荘は綺麗だが、都会と比べると日中なのに冷え込む。 出迎えた誠一も室内なのにダウンを羽織っていた。 「お疲れ様ー。 Wi-Fiと小型スピーカーの設置は終わったよ。 でも暖房が付かない…。 今朝寒すぎて凍死するかと思った。」 「エアコンないの?」 室内を見ると薪ストーブがあった。 「YouTubeでやり方見たけどうまく付かない。」 「あ、僕出来るよー! ドイツのおうちにこれあるから! 平九郎、危ないから待っててね。」 紅葉が手際良くストーブに火を入れる。 すぐに暖まる室内にホッとするメンバー。 「ありがとう! スゴいね!紅葉くんいなかったら風邪ひくとこだった。」 「紅葉ストーブ係りね。」 大事な任務を任されて嬉しそうな紅葉。 凪は頭を撫でて、機材と荷物を運ぶ。 「僕手伝うからみなちゃんは休んでていいよ。 手痛いでしょ? あ、ピアノこれでも大丈夫?」 部屋に置かれていたのはアップライトタイプのYAMAHAだ。 みなは鍵盤を往復させて音を確める。 「うん。調律も、タッチも大丈夫。 ありがとう。」 凪と光輝は機材はリビングに置き、私物は2階の寝室へ運ぶ。 「ってか、部屋割りどーする?」 凪が確認すると、誠一が答えた。 「ごめん、僕、夜は観測したいから奥のバルコニーのある部屋使わせてもらってる。機材多いから狭いし、出入りするから同室だと寒いかも…。 階段挟んで左側にツインが二部屋。 えーっと、カップルで使う? 僕は気にしないから任せる。 合宿って言ってもプライベートは自由だもんね?」 4人は無言でしばし考える。 結局… 「ごめん、凪…!」 「いや…。」 珍しくみなが心底申し訳ないといった表情で謝った。 みなと紅葉と平九郎、凪と光輝の部屋割りになった。 凪は内心荒れていた。 平九郎がきてからほとんど抱き合えていないのに部屋まで違うとなれば合宿中は本気の禁欲だ。 我慢出来なくなったら車かラブホかな、そんな暇あんのかと遠い目で考える。 「光輝、もー、早くなんとかしろよ。」 「ごめん…。どっかで休みいれるから…。」 貸別荘の周りは夜になると真っ暗で運転するには危険らしく、片付けは後回しにして先に買い出しに出かけることになった。 「平九郎、お留守番しててね? ちゃんと帰ってくるから大丈夫だからね!」 紅葉はそう言い聞かせて、薪ストーブの火を控えめにして暖かい場所に平九郎用のベッドと紅葉の匂いのついた服を置いた。 「大丈夫。さっきSAで散歩させたし、移動で疲れてるだろうから寝るよ。行くぞ。 車どーする?荷物増えるなら2台か?」 凪はそう言って紅葉にコート、マフラー、手袋を渡す。 「私誠ちゃんの車乗りたいっ! 高級車ー!あ、ついでに企画動画撮ろう! 光輝くん後ろ乗って撮ってよ。」 いつものファンクラブ会員用の動画も今回はたくさん撮って随時アップする予定で、一部は新規会員加入キャンペーンにもなるので一般向けにも公開予定だ。 「誠ちゃん…これだいぶイジったよね?」 改造された誠一の車にテンションの上がるみな。 「少しね。 でも昨日来るときバンパー擦った気がするんだよね…。」 「車高低いもん()こんな山道擦るに決まってるよー。ってか、今また当たった!」 「いーよ、もう…。帰ったらまとめて直す。」 車で約30分、大きなショッピングモールに到着する。 光輝が皆に告げた。 「今から一時間、自由行動で各自買い物とか好きに過ごしていいよ。 で、時間になったらここに集合してみんなで食材と日用品を買いに行こう。」 皆了解と言い、みなと光輝、誠一は家電量販店へ向かう。みなの誕プレを買う企画らしい。 凪と紅葉は束の間のデートとして、ペットショップへ向かった。 「平九郎のオモチャあるかなぁー!」 楽しそうな紅葉の後を追いかけて進む凪。 すっかり平九郎に夢中の紅葉。可愛いのだが、ちょっとばかり自分のことを後回しにされている気がしている凪。 あれもこれもと選ぶ紅葉に苦笑する。 「…凪くん疲れた? ごめんね、休憩する? さっき珈琲屋さんあったよね。 これ買ってくるからそしたら行こう?」 「ん。」 凪の素っ気ない態度に焦る紅葉は彼の手をとって珈琲ショップへと急いだ。 凪の好きな珈琲と自分用にカフェラテをテイクアウトする。 「ここで飲まないのか?」 凪が聞くと紅葉はカップを両手に持ったまま答えた。 「ここでもいいんだけど…2人で車で飲まない?寒いかな?」 紅葉の提案にのり、2人は凪の車へ移動した。 荷物を置いて、広い後部座席で並んで座る。 「…怒った??」 不安そうに聞く紅葉に凪は手を繋いで怒ってはないと言う。 「しばらく部屋も別になるし…、紅葉は寂しくない?」 「寂しいよー。…凪くんと一緒に寝たい。 ごめんね。…許してくれる?」 「じゃあキスして? 煙草持ってこなかったから口寂しいんだよね。」 「ん…っ。」 キス1つで凪の機嫌は直ったのだが、せっかくなのでヤキモチテンプレートを楽しむことにする。 「俺と平九郎どっちが好き?」 「えっ? 2人とも好きだよ!でも好きの種類が違うのー。平九郎は守ってあげなきゃって感じで、凪くんはね…ずっと一緒にいたい好きなの。」 へぇ、と感心する凪。 「じゃあ俺の好きなところ10個言って?」 「任せてっ! カッコいい、すごく優しい、好きって言ってくれる、手がおっきくて背が高い、ドラムが上手、ご飯も美味しいのいっぱい作ってくれる、運転する時の仕草がすごいカッコいい、キスが上手、あと…ヤキモチやいてくれるのが可愛いっ!」 得意気に答える紅葉に笑い出す凪。 「笑った顔も大好き。」 「俺も好きだよ。 そうやって一生懸命で一途なとこ。」 2人は笑顔でキスを交わした。 「夜、散歩しよっか。」 「平九郎も?」 「ん、いーけど。たまには2人で。 2人の時間作ろう。」 「うんっ!!」 しばらく車内でイチャイチャした2人は店に戻り、買い物を楽しんだ。

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