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第62話
一方、家電量販店に撮影許可を得た3人はカメラを回しながらみなが欲しいといったホームベーカリーを選んでいた。
「パン焼くの?スゴいね!」
「これに材料入れてスイッチ押せばいいだけだよ?みんなで食べようよ。」
「ホントに?!まさか合宿で焼きたてパンが食べられるとはっ…!え、誕プレがこれでいいの?」
「けっこう高いけど、いい?」
「いいよ。ホットプレートも買おっか?」
「やった!誠ちゃんお金持ちーっ!」
誠一はみんなで使えるからとコーヒーメーカーと自分用に天体観測用の機材もプラスしていてトータルの金額にビックリする。
「なんかすごい金額になってる…。
ここモザイクかけよ。」
荷物を車に乗せて煙草を吸ってくるという誠一と一度別行動になる。
「せっかくだから光輝とも買い物デートしておいで。」
光輝からも誕プレをと言われ、みなが指差したのはパーカーとヒートテックだ。
「え、これ?」
「こっち寒いからこれがいい。
あとモコモコのルームシューズ!」
「いいよ。」
目当てのものを買って、ブラブラしながらさっきの家電量販店の隅にあった電子ピアノを弾くみな。
「鍵盤が重い…
音が……電子機器の音。」
文句を言いながらラヴェルを弾いていると人集りが出来る。
飽きたのか切り上げたみなは電子バイオリンを借りる。
「なるほど、こういう仕組み?
簡単に音は出るけど才能がない…。」
「もういいの?バイオリン…欲しいなら買う?」
「ううん。これはいらない。」
彼女にとっては楽器と電子楽器は別物らしく、売り込む店員に断りを入れて店を出た。
珈琲を飲んで休憩しながら、買い物するものを候補にあげていく。
「お皿足りないから少し欲しいな。」
「いいよ。まだ時間前だけど買いに行く?」
「行こう。時間勿体ない。
グループLINEしとく。凪がいれば食材買えるでしょ。先に選んでてもらおう。」
フットワークの軽い2人は即断即決即行動。
どんぶりになりそうな器と朝食プレート、大きめのマグ、タオルや洗剤も購入。
他のメンバーと合流して食料を買い込む。
大型冷蔵庫だったので、4~5日分を一気に買うことにし、すごい量になった。
「ビールと水は昨日ケースで買っといたよー!」
誠一はワインとチーズを選んできていた。
酒好きの自炊出来ない独身男子代表だ。
「これ、自分のお金で買うの。」
紅葉はカゴいっぱいのお菓子…。
「いいよ、買ってあげる。」
光輝はそう言って笑うと紅葉の荷物をカートに乗せた。
「1日2食でいいんだよな?
みなと紅葉は朝どーする?紅葉の分も頼んでいい?」
「いいよ。
グラノーラとかパンケーキだから作るってほどでもないけど…。
ってか、起きるの早いから昼は私作るよ?」
みなはきちんとと野菜やフルーツも持ってくる。
会計は光輝がクレジットカードで支払う。一応合宿費で宿代と食費で一人二万ずつ集めたが、ほとんどは光輝の自腹だろう。
「凪とみなは食事作ってくれるのに多いくらいもらってるし、紅葉と誠一は学生だし。
いろいろあったから、結束力深めるための合宿でもあるからさー、気にしないで。」
帰宅後の話し合いで活動時間は食事、休憩込みで12時~0時を目安とし、近隣に今滞在している人はいなさそうだが、個人練習も含めて音を出しての練習は10時~21時と決めた。
あとはミーティングや動画や音の編集作業となる。
みなが夕食の仕込みをしている間に他のメンバーは楽器や機材の支度をする。
ひと足先に終えた紅葉は凪がドラムセットを組み立てる様子をスマホで撮影していた。
「ふふっ。」
「紅葉、それアップ用?」
「個人用っ!」
ファンサイト用かと思った撮影は紅葉の凪コレクションだったらしく、皆が吹き出した。
「いつでも見れるでしょ!
…こっちきて手伝って。じゃがいも、大根、人参、ネギ切って。」
「はぁい…。
うわっ!お水が冷たいー!」
この日は初日なので軽く音合わせをして、光輝のもってきた新曲を少し進める。
2015 夕食
メニューはみなと紅葉が作った豚汁と凪の作った鶏の照り焼き、きんぴら、ご飯
「「美味しい…!」」
普段外食派の光輝と誠一は手料理に感激しているようだ。
「豚汁、温まるねー!」
「これネギ繋がってるんだけど…! 」
「ネギ食べると風邪ひかないんだって!
いっぱい食べてねっ!(笑)」
歪な野菜は紅葉が切った物だが、まぁ食べられれば良いとみんなで和やかに食事をする。
食後、片付けを光輝と誠一に任せてみなはピアノを弾き、凪と紅葉は平九郎の散歩へ。
「さっむ…!」
都会より冷え込む夜。吐く息が白い。
街頭もほとんどないので、懐中電灯を片手に付近を散策する。
手を繋いで歩きたいという紅葉と恋人繋ぎをしてゆっくり歩いていく。
葉音や虫の音が聞こえ、夜空の星も東京で見るのとは比べ物にならないくらい輝いている。
「紅葉の実家もこんな感じ?」
「そうだね。もっと田舎かなぁ~。
寒いけどなんか落ち着く。」
「なんかそんな感じするな。
紅葉は都会よりこういう所に住みたい?」
「うーん…。
凪くんと一緒ならどこでもいいよ。」
可愛いことを言ってくれる紅葉にキスをして、抱きしめる。
このまま車に連れ込んでしまおうかと思ったが、平九郎がいることを思い出し、メンバーの待つ貸別荘へ戻るべく歩き始めた。
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