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第74話

3/22 1800 ピンポーン… インターフォンが鳴り、凪は来客を招き入れた。 「ヤッホー! 久しぶりーっ! スゲーいい家だねっ! 広~い!! え、わんこもいるのっ? うわーっ!可愛いー!」 平九郎の目当ては手土産のケーキらしく、尻尾をブンブン振りつつ目線は箱から離れない。 来客の正体は翔で、みなが珊瑚に会わせる約束をしていたらしい。 この後、珊瑚も含めてLinksの食事会兼ミーティング兼少し早いみなの誕生日会なので会うのはその時でも良かったのだが、翔は一刻も早く会いたかったらしく、高そうなケーキを持参の上、気合いの入ったファッションで現れたのだ。 「それでっ! 俺の天使はどこかなっ?!」 「天使…?(苦笑) 紅葉と珊瑚なら2階だけど…」 呼んで来ようかと言おうとした時、バタバタと階段を駆け降りる足音が聞こえた。 この足音とリズムは紅葉だ。 凪は職業病ともいえるリズム感で双子の足音を聞き分けられる。 「うわーんっ! 凪くんっ!! 珊瑚が苛めるーっ!! またチューしたっ!!」 また兄弟喧嘩?珊瑚のイタズラらしく、紅葉が凪に泣き付く。 「珊瑚っ!! テメェ、いい加減にしろよっ!!」 『お前』から『テメェ』に呼び方が変わるくらいには凪も手を焼いている…。 「えっ! 双子天使のキスシーン?! 見たかったぁ…っ!!」 「あ。翔くん? こんにちは!」 「紅葉くんっ!! 久しぶりっ!!相変わらず可愛いね。 ケーキ買ってきたからあとで珊瑚ちゃんと食べてね。」 「わぁー! ありがとうっ!! 見ていい? …キラキラいっぱいっ!美味しそう…っ!」 今すぐ食べたいと顔に出ている紅葉。 そっと凪を見上げる辺り、いろいろ分かってきている。 「…一口だけな。晩飯入らなくなるから…」 紅葉がフォークと皿を取りに行ってる間に珊瑚が下に降りてくる。 「ねー、ネット調子ワリーんだけど!」 「あ? 知らねーよ。 とりあえず一回落として立ち上げ直せよ。」 「誰…?」 翔が珊瑚を見て訊ねる。 女だと思い込んでたのだろう、男…(しかも紅葉166cmより大きく珊瑚は173cm)が現れて固まっている。 「あんたこそ誰?」 失礼な態度でそう言い返した珊瑚はカウンターに置かれたケーキの箱から今まさにフォークを取りに行き戻ってきた紅葉が食べようとしていたらしい1つを選んで、手掴みで口へ運んだ。 「あーっ!! それ僕のケーキっ!!」 「…そうなの? もう食っちゃった、ごめんね?」 悪びれる様子もなくそう言って、食べる手を止めない珊瑚。 「ダメダメーっ!! 珊瑚、返してよっ!!」 珊瑚の手から奪い取ったケーキ…の残骸?を頬張る紅葉。 2人で取り合い、手も口元もクリームまみれだ。 「お前ら2人とも行儀悪いっ!!」 凪に怒られ残りのケーキを没収された紅葉と珊瑚は手と顔を洗いに行く。 洗面所でまた揉めている声が聞こえて凪は眉間を押さえた。 1900 都内焼き肉店 「男なんだけど…っ!」 「女だとは言ってないよね。 同じ顔でしょ?」 翔の嘆きにみなは平然と答えた。 「っ!! 確かに…、同じ顔だけど……おとこ…。」 翔は予想外の事態にガックリと肩を落とした。 「みなちゃんお誕生日プレゼントっ!!」 「平九郎だ。可愛い…。よく見つけたね。 ありがと。」 大きめのぬいぐるみに満足そうな彼女。 「凪くんが見つけてくれたの。 もう1つのと迷ったんだけど、この子の方が可愛いって。」 「凪もすっかり親バカだねー(笑) あ、待って。 この子焼き肉臭くなる…(苦笑)」 光輝が店員さんに頼んでごみ袋をもらい、その中にぬいぐるみを入れて口を縛った。 見た目は可哀想な扱いだが、これで多少は匂いも防げるだろう。 珊瑚は誠一と夜空の写真の話で盛り上がっていた。合宿中に誠一の記録した星空の動画をiPadで眺めながら光の屈折率がどうとか小難しい話をしている。 「珊瑚くん、オーロラとか撮りたいの?」 「どーかな…。 いつか撮ってはみたいけど、めちゃくちゃ金かかるからね。技術も運も必要だし…。 とりあえず今回は桜。」 「あ、そーだ! 珊瑚、アルバムのジャケ写撮ってよ。」 みなが思い出したように提案する。 「え? いーけど、金くれんの?」 「ボスは光輝くんだから聞いてみて。」 「…お兄さん、いくらくれんの?」 「うーん…出来高制かな。 作品って今見れる?」 珊瑚はスマホを操作して何枚か写真を見せた。 「Shine(光)」とテーマ付けされたフォルダには植物や自然風景の写真が主で、小さな教会のステンドグラスが輝く写真や夕焼けがキレイな海辺の写真もあった。 「すごいね…。」 みんなが覗きにくる。 「キレイー!」 「わー、本格的だね。」 「僕、珊瑚の写真好き。」 「どう?」 得意気に言う珊瑚に光輝も笑顔で答えた。 「契約書用意してちゃんとした額払うよ。 アルバムにクレジットも載せる。」 珊瑚も満足そうに頷いた。 「ねー、キレイなおねーさんの写真とかないのー?セクシーなやつー!」 翔がチューハイを煽りながら間延びした声で聞くが珊瑚は一気に不機嫌になって言い返す。 「俺は人物は家族とか恋人とか特別な人しか撮んないの!動物も苦手だし。 大体なんで女のハダカなんて撮んなきゃいけねーんだよ!頼まれてもイヤだね。 ハダカ撮るなら男がいい。絶対撮るだけで終わらねーけどな!」 「珊瑚らしーい…!」 そう言ってみなが笑っている。 「えー…珊瑚くん…ゲイなの?」 翔が直球で聞くが珊瑚は動じなかった。 「だったらなんか文句あんの?」 「珊瑚を苛めないで…っ!!」 何故か紅葉が涙目で庇うが、「こいつは苛められて泣くタイプじゃねーよ」と、凪がフォロー(?)する。 「せっかく日本に来たのに、全然遊べない。 ゲイタウンもダメだって言うし…、家ではイチャイチャ見せつけられるし…」 「別に見せつけてねーよ(苦笑)」 「もー、ストレスっ! ちょうどイケメン揃ってるし、とりあえず全員キスさせろっ!」 珍しく誠一が爆笑している。 「お前…、ちょっと光輝んとこで禁欲の修行してこいよ。」 凪はそう呟いた。

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