86 / 144
第86話
※本編と違いNLの話になります。
直接関連がないので飛ばしてもらっても大丈夫です。
5/10 945
みなは中卒だと思われているが、実は通信制の高校に通っている。彼女は学校という集団に馴染めず、制服を着ることに大きな抵抗があるだけで頭は良いので順調に進学し、今年が卒業の年だ。
オンライン授業が主で、普段は自宅で授業を受けているが、実技が必要な体育や音楽の授業には登校も必要で、今日はその登校日だ。
ヤンキーや不登校、複雑な家庭環境など問題を抱えた生徒が多いので体育は個人競技の持久走と縄跳び。
彼女はどちらもトレーニングで慣れているのでさっさと終わらせ、持久走に関してはそのタイムに陸上部の顧問がスカウトにくるくらいだ。
音楽の授業では癖のヒドイ下手くそな講師のピアノ演奏をイライラしながらなんとか聞き流す。
何でもいいから楽器演奏をするようにと課題が出ていて、友人…というか、クラスメートたちはいつも安物のギターを持ち込んでこれまた騒音としか思えない演奏を繰り広げたり、カラオケの真似事でスマホで音楽を流しながらひどい歌を歌う者も、ピアノで『ねこふんじゃった』を弾く者までいる。
偽物の制服で着飾った女子高生たちはお喋りに夢中だ。
この惨状にみなはいつも頭痛を覚える。
音楽講師も同じなようで「誰かショパンとか弾けないの?これじゃあ動物園よりヒドイじゃない…」と嘆いていた。
みなを見付けると、八つ当たりなのか知らないが成績をチェックし「あなた、去年も課題パスしてない?出席率がギリギリよ?今日何でもいいから2つ演奏しなさい。」と告げた。
みなは威圧的な講師の態度が気に入らないが、単位は必要なので立ち上がってピアノの前に立つ。
それまでピアノ前を陣取っていたヤンキーの男は割りと話せる男なので、椅子を譲ってもらう。
「あれ?ピアノ弾けるのー?
タララララ~ってエリーゼのなんとか…だっけ?あれ弾いてよー。」
「…今日って何日だっけ?」
「え?5月10日だけど?」
「…じゃあ5番と10番…?
…えらい組み合わせだけど…まぁいいか。
センセ!5番と10番で!ちゃんとチェックしてよ?」
「え…っ?」
そう言うとショパンのエチュードから5番を弾き始めるみな。『黒鍵のエチュード』と言われる5番はその名の通り黒鍵を酷使するハイテンポで複雑な旋律で
続けて10番ハ長調の曲も演奏難易度がかなり高いのだが、完璧に奏でていく。
彼女をピアニストの娘だと知らない講師やクラスメートたちは驚き、しかしあまりに完璧な演奏に騒ぎ立てることも出来ずに見守った。
演奏が終わると彼女は一瞬自分の両手を見つめて、席を立つ。
「約束通り2曲弾いたから…。
あ、チャイム鳴った。
…仕事あるから帰っていい?」
5/13 12:00
珍しく事務所に顔を出したみなは仕事中の光輝に声をかける。
「忙しい?
カナをお遣いに出してもいい…?」
「…いいよ。」
今や事務所の経理も手伝うカナは耳が聞こえないので電話にこそ出れないが、その仕事の正確さとLIVEやイベントでの現場対応もすっかり板につき、Linksにとってなくてはならない存在となっている。
カナのLinksへの愛は深く、初期の頃のイベントに遊びに来た彼女は耳が聞こえないこととその日が自分の誕生日なのだというメモを見せると、みながカナを抱き締めてHappy Birthday to youを歌ってくれて、声は聞こえなくても伝わった音の振動とみなの温もりに彼女を絶対的存在としていて、誠心誠意尽くしてくれている。
みなも彼女がいることで精神的に落ち着くらしく、プライベートでも仲良くしているようだ。
真面目な仕事振りを評価し、光輝は来月から彼女を社員にすることを決めて、事務所で彼女の両親と面談もした。
みなは彼女にメモを見せてお金を渡してお遣いを頼んだようだ。
支度を済ませたカナは光輝に頑張って!と手話で伝えた。
何をだろう?と思ったが、そのまま仕事を続ける光輝。
ともだちにシェアしよう!