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第87話

※すみません、NLの話が続いています。 飛ばしてもらっても大丈夫です。 2人きりになった事務所で、みなはノートPCに向かう光輝に1枚のディスクを差し出した。 「これ、光輝くんでしょ?」 「ん?あ、…うん。」 「デモ出来たの?私まだ聴いてないのに…。 しかも置きっぱとか危ないよ?」 「一応、みなの誕生日でロックかけてる。 お母さんなら絶対解るでしょ?」 イタズラっぽく笑う光輝。 「お花も…ありがと。 忙しいのにお参りしてくれたんだね。」 時間が取れずに夜中にお墓参りに行ったという光輝によく夜中に行けたねと笑う彼女。 光輝は仕事の手を止めて2人分のコーヒーをいれた。 みながコーヒーに視線を落としたまま話始める。 「つい3日前かな…? ちょっとした勢いでショパンを弾いたの。」 彼女の母親が大好きだったショパン。 病気が判り、当日16だった一人娘のみなにピアノと生きる術を教え込み、財産を整理し、娘の後見人をたてた。 彼女がピアノを弾くのに体力の限界がきた時に娘の前でショパンの『別れの曲』を弾いてピアノを手離したのだ。 それ以来、みなはショパンを弾けなくなっていた。 「1年半振りなのに、メンタル的に絶対弾けないって思ってたのに…意外とちゃんと弾けて…何だろう?不思議なことに母を感じたんだよね。」 両手を眺める彼女は少し嬉しそうだった。 「…ちゃんと受け継いでるよ。」 「そうなのかな…? 結局『弾けない』って壁作ってたの自分だったんだなって分かったけどさ… 孤独感とか喪失感ってこの先も変わらないの…?」 家族を亡くしている光輝の意見が聞きたくて、そう呟く。 「そこは、うん、変わらないかな…。 未だにあの時こうすれば良かったとか後悔もするし、夢にもみるよ。 でも…写真や夢でしか会えないから内容がイヤな夢でもちょっと嬉しかったりもする。 乗り越えるとのはまた違うのかもしれないけど、悲しみに浸り続けてもネガティブから抜け出せるわけじゃないし…。 俺の場合は…音楽、バンド活動にプラスの感情をもって打ち込めてるから、仕事は大変なんだけど、楽しいから。そのおかげでポジティブに前に進めてる感じかな。」 「負の感情を上回るってこと?」 「そうだね。俺の中で共存してる。 それでいいと思ってる。」 「そっか…。 あのさ、ごめん、あんまり覚えてないんだけど… 去年、私休んだよね? 母が亡くなってから…確か、LIVEに穴あけたよね?今日、母に会いに行ったらふと思い出して…」 「うん。 一番ツラい時だったから覚えてなくて当然だよ。」 人間の本能的な防御反応なのだと光輝は言った。 「光輝くんが休めって言ってくれたんだよね。『今、休まないと一生歌えなくなるぞ!』って怒られたんだった…(苦笑) ごめん、今さらだけど後始末、大変だったよね。」 直前のキャンセルで迷惑をかけたことも覚えていない彼女はきちんと謝るが、光輝は自分も家族を亡くしてからしばらくは相当荒れていたから気にすることないと笑う。 「そうだったかなー。 今歌えてるんだからもういいじゃん。」 今日は母親の命日なのでオフだったみなに明日からまた忙しいよーと言う光輝。 みなは笑って彼を呼んだ。 「光輝くん…?」 「ん? そーいえばカナちゃん遅いね?」 「カナにはゆっくり二時間くらいランチとショッピングでもしておいでって言ってあるよ。 ねぇ…結婚しよっか?」 「そーなんだ? …待って、疲れのせいかな? 今幻聴が…(苦笑)」 「イヤならいいんだよ。」 笑顔一転、立ち上がる彼女を引き止める光輝。 「本当に…? え、結婚だよ?…いーの?」 「スランプの時もだったけど…私を止めてくれるのは光輝くんだけだから。 一人で生きてくより、前向きになれそうだし。」 「すーっごい嬉しいんだけど、全然現実感がなくて… とりあえず婚姻届書いてもらっていい?」 「事務的…っ!!(笑) ペン貸して? あ、でも出す日は決めていい?」 「はい、これ使って。 え、うそ、本当に書くの…?」 「書くけど? 判子ないや…。 ねー、聞いてる? Linksの結成日に出すのが条件ね? 大安だか仏滅だか知らないけど、いーい?」 「はい…。そこはもうどーでもいいや。 結婚してくれるなら。 え、ホントにサインしたの…?」 「じゃー、手続きやらスポンサーへの説明やらもろもろよろしく。」 彼女から用紙を受け取った光輝はそのままカナが戻って来るまでフリーズしていたそうだ。

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