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第92話

2018 3人で夕食を囲み、デザートに早苗から手土産でもらったフルーツゼリーを食べながらお互いの近況を伝え合いながら談笑する。 「そういえば、紅葉くんから同棲だって聞いたけど…!」 「お前…話したの?」 「ごめんなさい…。」 「紅葉くんは謝らなくていいのよっ! 凪っ!」 和やかな雰囲気から早苗が凪に怒り出してオロオロする紅葉… 母親の性格を分かっている凪は特に気にせずぶっきらぼうに答えた。 「これから話そうと思ってたんだよ…」 「あなたいつもそれじゃない! 東京の学校に行く時も、仕事辞めてバンドをやる時も…っ!」 「毎度毎度すみませんね…。 こちらの紅葉くんと真面目にお付き合いしてます…。」 「同棲までするならそういう大事なことはちゃんと報告しなさいよ。」 「…え、何? 男同士だから反対するとかじゃなくてそこ?(苦笑) 俺、24にもなって親に説教されてんの?」 凪が苦笑すると早苗は凪にしっかりしなさいね、と苦言した。 それから2人の馴れ初めを聞き出した早苗は紅葉が一年間凪に片想いをして、来日したのだと聞くととても驚いていた。 「紅葉くん…それはちょっとすごいわ…。 去年紅葉くんが日本に来てからだと思ってたのに…! 私も結婚して東京から京都へ移ってそれなりに苦労したと思ってたけど、国を越えて海を越えて来ちゃうなんて…ドラマみたいねっ!! 一体凪のどこがそんなに良かったのかしら… 多少見てくれはマシかもしれないけど、本当に普通なのに…」 「ちょっと…、ひどくない?(苦笑)」 「凪くんはとっても優しいよ。 一緒にいられるだけで僕はすっごく幸せ!」 「可愛い…っ!! ねぇ、本当にうちの子でいいの? 凪、絶対離しちゃダメよ。」 「分かってますよー。 跡継ぎはヨシくん(義弟)がいるからそっちに頼んでね。俺の血は入らないけど、紅葉の血縁ならそのうち孫代わり?も出来るんじゃない?」 みなが光輝と結婚するのだと話せば早苗も嬉しそうだった。 「あと、紅葉の弟たちもいっぱいいるしな。」 先日のチャット中に紅葉の家族とモニター越しに撮った写真を見せれば、可愛い可愛いと喜ぶ早苗。 休みだろうから電話してみれば?と凪が言うと紅葉はドイツの家族に連絡をとった。 今日も元気な弟妹たち。 末っ子の誕生日らしく、ピンク色のドレスを着た妹の嬉しそうな様子に紅葉も笑顔を見せる。 「さっちゃんお誕生日おめでとう! Happy Birthday!」 早苗は勉強中の英語で凪の母親だと挨拶すると、着物姿の彼女に「Japanese Prices!」「ゲイシャさん!」と大盛り上がりだった。 向こうはまだ真っ昼間だというのにまた一緒にビールで乾杯しようという祖父に凪も笑う。 早苗はいつかみんなで自分の働く旅館に泊まりにきてねと伝えた。 家族交流を終えて和んだところで早苗にお風呂を勧めた。 凪と紅葉はキッチンに並んで後片付けをする。 「紅葉、今日ありがとな。 あといろいろごめん…。」 「ううん、凪くんママに許してもらえて良かった…。」 ホッとした表情の紅葉に凪も安心して、皿洗いの手を止めてそっとキスをする。 「あの、ごめんなさい?」 絶妙なタイミングで早苗が声をかけてきて驚く2人… 紅葉は気まずくて思わずシンクの陰にしゃがみこむ。 「…風呂入ったんじゃなかったの?」 「邪魔するつもりじゃなかったのよ? お化粧落とし忘れちゃって…、お仕事でメイクするわよね?もしあったら貸してくれる?」 凪が対応しにバスルームへと向かった。 22:20 「明日何時の新幹線?」 早苗がお風呂からあがって、紅葉も交代で…さすがに今日は一人でバスルームへ向かった。 凪はお茶を出しながら母親に帰りの時間を確認する。 「確か1430だったと思うけど…。 明日もお仕事?」 「そーだけど… ランチくらいはご馳走しますよ…。」 先ほど母の日のこともつつかれた凪は、名誉挽回というか、少しは親孝行をと思いいくつかお店をピックアップして見せる。 「そうね…フレンチがいいわ。 紅葉くんも来れるかしら?」 「どうかな? 学校だったはずだけど… あとで聞いとく。」 「…凪は幸せね。あんないい子に一途に想われて…。」 「…まぁね。ってか、本当に反対しないの?」 「しないわよ。あなたも幸せそうな顔してるし、あとは元気でいてくれればそれで充分…。 今度2人で帰ってきたらちゃんとお父さんにも報告しなさいね。」 「はいはい。 ちゃんと両方に挨拶します。」 2人が話していると紅葉がバスルームから出てきた。 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すが、髪がまだ濡れている。 「お前ちゃんと乾かしてないだろう?」 「そうかな? 大丈夫、そのうち乾くよ!」 意外とズボラな紅葉の代わりに凪は世話を焼く。 「ダメ。風邪ひくし、髪も傷む。明日の朝、寝癖で泣くはめになるぞ?」 「えっ?!」 「ほら早く…!」 「わぁー、やってくれるのー?」 結局いつも通り凪に髪を乾かしてもらう紅葉はご機嫌だ。 早苗もそんな2人を微笑ましく見守る。 「ふふ、仲良しねー。」 翌日、大家に挨拶に言った早苗は「今後とも息子たちをよろしくお願いします。」と手土産(都内で京都の漬物を購入した)を渡して頭を下げた。 ランチは親孝水入らずでと遠慮する紅葉を「凪と2人より紅葉くんと一緒がいいわ」と言い、3人でホテルフレンチを楽しみ、早苗を見送った。 「今度は2人で帰省しろって。」 「ほんと? また温泉入りたいっ! あ、へいちゃんもいいかなー?」 「風呂はダメだけど、実家なら大丈夫だろ。 離れもペット可のとこ作ったらしいし。 夏休み…取れたら恋人として家族に紹介したいから連れて行っていい?」 「嬉しい…っ!」

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