93 / 144

第93話

6/19 1636 梅雨らしい雨…というか大雨が降りしきる中、凪は紅葉の通う音大の前に車を停車させた。 課題もテストもリテイクになった紅葉を迎えに来たのだ。 紅葉は一生懸命両立を頑張っているが、バンド活動の方が忙しくてどうしても練習時間やテスト勉強の時間が足りていない。 凪はリスケになった仕事の穴埋めを他のメンバーと共に分担したり、プライベートの時間もこうして出来るだけ協力しようと今日のような雨の日の送迎を申し出た。 「ありがたいけど、最近一気に忙しいな…。」 デートも身体を重ねることも出来ていない。 同棲してなかったら普通に自然消滅の流れだ…。 Linksは6/9にアルバムをリリース&配信スタートさせて、その反響は売り上げと共に順調。 メンバーは連日、宣伝活動に飛び回っている。 ここでの成果が来月からのツアーに響いてくるので、小さな仕事だろうが、同じ説明を何十回しようが、ひとつひとつ丁寧に対応していくしかないのだ。 6/9といえば、光輝とみなは無事に入籍をすませたらしいが、なにせ結成日兼アルバムの発売日だったので仕事でスケジュールが埋まっていて、代理人が手続きを行ったようで本人たちはまだ同居すらしていないそうだ。 それでも光輝の左手薬指にはプラチナの結婚指輪と手首には高級腕時計までもが輝いていて…(誠一が光輝に聞いたら両方ともカルティエで時計は婚約指輪のお返しだと言っていた)ラジオの公開録音などでも指輪をつけたままの光輝にファンは相当騒ぎ立てているようだ。 みんな何事も起きなければ良いと願いながら仕事に励む。 紅葉はモデル業とバンド活動で顔が売れてきたことで、大学内でも写真を撮られたりしてしまうようで…大体は高校時代の同級生たちが追い払ってくれるらしいのだが、いつも誰かと一緒にいられるわけではないし、不安は拭えない…。 それもあって凪はなるべく送迎をしているのだ…。 因みに紅葉の日本での保護者はLinksで世話になっている弁護士からみなと結婚して紅葉と親戚になった光輝に変わった。 光輝からも大学側に紅葉のプライバシーに配慮するように言ってもらったのだが… 凪は紅葉と同棲していても社会的には『他人』でしかいられない自分に少し疎外感のようなものを感じながら窓の外を眺めた。 しばらくすると遠くから見慣れた姿が歩いてくるのが見えて、凪はホッとする。 どうやら友人も一緒らしい。 「お待たせ。今日も来てくれてありがとう。」 「お疲れ。 友達? 良ければ一緒に送るけど…?」 本降りの雨が跳ね返って、みんな足元までびしょ濡れだ。防水カバーをかけてても手元の楽器が心配なのだろう、自分の身体より優先して傘を傾けているので髪や肩も濡れてしまっている。 「あ、でも知らない男の車に乗るとか抵抗あるよね…!」 凪が警戒心をなくそうとサングラスを外してそう言うと、紅葉の友人らしい女の子2人は顔を見合せて笑った。 「紅葉くんのカレシさんなら大丈夫ですよね。」 「バス全然来ないみたいで…すみませんが駅まで乗せてもらえますか? このあとレッスンもあって…!」 「もちろん。 早く乗りな。 あ、後ろにタオル多めに積んできたから良かったら使って。 ほら、紅葉も乗って。」 「さすがっ! 『イケメンで何でも出来るカレシ!』 紅葉くんの話通りですね!」 「え、何? お前学校でどんな話してんの?(苦笑)」 「ふふっ。ひみつー!」 紅葉は嬉しそうな顔で笑い、凪は濡れた髪をタオルで丁寧に拭いてやってからハンドルを握った。 車内で聞けば、2人は紅葉の課題提出に付き合って残ってくれていたらしく、凪はお礼を言った。 「私たち、家は普通のマンションで練習場所がないから学校でって思ってたので全然大丈夫ですよ!」 「まさかこんな大雨になるとは思わなかったけどねー(苦笑)」 「だね。でも紅葉くんのカレシさんにも会えたらラッキーかも!」 「そうだね。 あの、カレシさん…! 紅葉くん多分4年生かな?バイだって噂の先輩たちにしつこくされてて…!紅葉くんが男の人が好きだとか噂立てたりして…さすがにちょっとマナー違反だから私たちも、友達もみんなその先輩に怒ってて…いつも男子たちが間に入ってくれるんですけど、気をつけた方がいいと思います!」 「けっこう周りの女の子の友達もカラオケに誘われて…、あ、遊びじゃなくて、スタジオ代わりに楽器の練習場所でよく使うんですけど…!それで練習見てあげるとか言って手出してくるみたいで…。」 「最悪だね。それ…! 4年? 誰か知り合いいない? 兄弟とか…」 「あ、風夏ちゃんのお兄さん4年生だったかも! でも留学してて…」 「夏休みだから戻ってくるかもよ?」 「面倒かけるけど、ちょっとアポとってもらえるかな?」 「分かりました。紅葉くん、連絡するからちゃんとカレシさんに伝えてね!」 「ありがとう。 僕より2人も気をつけてね。 凪くんはいい人だけど、車も危ないよ!」 「本当…。2人も気をつけて。 紅葉も、絶対ついて行くなよ?」 「分かった。」 そう約束して駅までの道を進めた。 2人を駅まで送り、自宅な戻ってからも念をおす凪。 「マジで気をつけてね。 お前に何かあったら…俺この仕事続けていく自信もなくなる…。」 「凪くん…。うん…! 凪くんのドラム大好きだから、そんなことならないようにちゃんと気をつけるよ。 ずっと一緒に続けようね。」 2人はそう約束して抱き締めあって眠りについた。

ともだちにシェアしよう!