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第97話
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七夕の日から紅葉と別居し始めて4日…
正直、凪のコンディションと機嫌は最悪である。
「ってか、別居って響き良くないな…。
帰ったのは紅葉の実家じゃなくて俺の実家だけど…
帰ったと言うよりは預けてるだけだけど…!」
紅葉も平九郎もいない自宅は静か過ぎて、つい独り言を呟いてしまう凪…。
もはやここで一人暮らしをしていた時どうやって生活をしていたのかが思い出せないくらいだった。
1人の風呂も、食事も、睡眠も…全部自分1人の方が自由で気楽なはずなのに、全くもってつまらない。
紅葉から貰った左手首のブレスレットが凪の支えだ。
仕方ないのでプライベートの全てをテキトーにして、紅葉が抜けた分の仕事とヴァイオリン探しに全力を尽くす。
ようやく手札も揃ったので、これから踏み込みに行く。凪は殴らない、殴らない、殴らない…自分に言い聞かせて弁護士と合流して目的地へと向かった。
1655
都内マンション
「こんにちは。」
「神谷さん!本当にきてくれたんですか?
帰国したてじゃないんですか?」
「うん、そうなんだけど…、むしろさっき日本に着いたばかりなんだけど…話すなら早い方がいいと思って。」
「どうぞ、狭いけど上がって下さいっ!
マジ神谷さんから楽団の紹介とかすごすぎてー!」
嬉しそうに語る男が紅葉にしつこくつきまとい、紅葉の大切なヴァイオリンを奪った小山内
神谷と呼ばれた男性…彼はヴァイオリン科の4年生でトップの成績を誇る実力者。因みに紅葉の後輩、コンクールで伴奏を頼んでいた風夏の兄だ。
彼は妹から頼まれて留学先のフランスから予定より早めの帰国した。
神谷を招き入れるために玄関のドアを少し大きく開いた小山内…
その瞬間、力いっぱい一気にドアを全開にして開かせる。
反動で飛び出して来た小山内の顔を見下すのは、黒い笑顔の凪だ。
後ろには弁護士(めちゃくちゃ若いが生物学上みなの実父、紅葉のおじにあたる)も控えている。
「なっ何?!」
「どーも…。
あんたが俺の恋人に吹っ掛けてきたっていう最低野郎?」
凪の一言に固まる男…小山内
咄嗟にドアを閉めようとするが、凪が片手で押さえているドアはびくともしない。
神谷は小山内に告げる。
「ごめんね、楽団の勧誘はウソ。
妹の先輩で俺の優秀な後輩にもあたる子に悪さしたって?」
「とりあえず中で話しましょう。
私が間に入ります、Linksの顧問弁護士をしている弘中です。」
小山内は拒む隙もなく部屋に3人を通した。
広く新しい部屋は親に用意してもらった物らしい。
「まどろっこしいのキライだから大事なことから言うわ。
1、あいつのヴァイオリン返して。あれはお前ごときが手にしていいものじゃねーんだよ。」
凪の怒りは相当なもので、その圧倒的な威圧感で普段饒舌なはずの小山内すら余計なことを話すことが出来ない。
弁護士が「凪さん、落ち着いて下さいね」と声をかける。
小山内は部屋の片隅に放置されていた紅葉のヴァイオリンケースを持ってきて、ローテーブルに置いた。
「…神谷さん、悪いけど中確認してもらえる?」
間違いなく紅葉のケースだが、ヴァイオリンの専門知識がない凪は神谷に楽器のチェックを頼んだ。
神谷はケースを開けると丁寧に状態を確認していく。
「持ってきただけでそれには触ってないよ。」
「てめぇは余計なことしゃべんな。」
「凪さん…冷静に。」
「…問題ありません。」
チェックを終えた神谷の声に凪はアイコンタクトで礼を言う。
「2つ目、写真のデータどこ?
今ここで、俺の前で削除しろ。
やんないなら学校側に全部バラす。
お前がやってることは盗撮、恐喝、窃盗…犯罪だからな。」
「そんなことしたらお前らの関係も…ホモだってこともバレるぞ!」
「だから何?」
「バンドも家族もめちゃくちゃにしてやる!」
「やれば?
つーか、この数日でやってないってことはただの脅しだろ?
金でも欲しいの?」
「っていうか…」
「…紅葉狙いってこと?
やり方が卑怯すぎんだよ!
とりあえず…殴っていい?」
「それはダメです。」
弘中弁護士が間に入って止める。
「センセーは一回席外せよ。」
「凪さん…っ!あなた格闘技経験者でしょう?
手を出したらこちらの分が悪くなります…。
紅葉くんも悲しみますよ?」
そう宥められて凪は一呼吸置いた。
「メンバーはとっくに知ってるし、俺の家族も紅葉の家族も俺たちが付き合ってることも同棲してることも知ってる。
あいつがどんだけ家族を大事にしてるか知ってるの?そのヴァイオリンが両親が遺した唯一だって分かってんのかよ!」
「…紅葉くんの同級生たちだけじゃなくて、他の学年の後輩たちもずっと校内を探してたんだよ…。」
神谷が補足するが小山内は無言のままだ。
凪は価値観が違い過ぎると感じながらもなんとか冷静に続けた。
「バラしたいなら好きにすればいい。
さっきも言ったけど、その場合はこっちも学校と警察にバラす。で、お前は逮捕される。」
「なっ!!そんなわけ…!」
動揺する小山内に構わず凪は続けた。
「うちのリーダーは3年間の執着愛の末に結婚したばっかで嫁さんのこと溺愛してんの。
その嫁さんっては紅葉の親戚。2人ともお前に怒りまくってる。
紅葉が精神的ダメージで楽器弾けなくなったらツアーも出来なくなるから訴えるって。
誠一はお前と同い年だけど、頭の出来が全然違う。しかも女の子との繋がりの広さがスゲーの。
お前に個人練習を理由にセクハラされたって証言集めてくれてる。
もう一度言う?…お前は絶対逮捕される。」
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