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第99話
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あのあと、凪は弘中弁護士のお説教を聞き、事後処理を済ませたあと仮眠をとり、早朝から実家のある京都へ向かった。
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母屋の庭で平九郎と遊ぶ紅葉を見つけると名前を呼び「お待たせ。」と、ヴァイオリンケースを掲げた。
紅葉は涙で顔をぐちゃぐちゃにさせながら、凪のもとへと一目散に走り、彼に抱きついた。
「なぎ、くんっ!」
「約束、ちゃんと守っただろ?」
頷いて、ありがとうと何度も言った紅葉は凪から受け取ったケースの中身を開けるとヴァイオリンを抱き締めて号泣した。
外の風が気持ち良い縁側に座り、こちらも4日ぶりの再会となった平九郎の頭を撫でる凪。
左手は紅葉と繋ぎ、赤くなった目元を覗くと目尻の辺りにそっと唇を落とした。
それから顔をあげた紅葉と改めてキスをした。
「寂しかった?」
問いかける凪に紅葉は頷いた。
「寂しかったし、すごく会いたかった。
でも…おとうさんもおかあさんも義くんも旅館のお姉さんたちもみんな優しくしてくれたよ。」
家族への呼び名がより親しいものに変化していることに驚きと喜びを感じる凪。
「俺も会いたかった…。」
心を込めてそう告げるとしっかりと紅葉を抱き締めた。
母親の早苗から毎日報告を受けてはいたが、塞ぎがちだった紅葉が凪の家族と過ごす中で少しずつ元気を取り戻してきているようでホッとする。
東京より他人の目がなく、落ち着いた雰囲気のこの場所へ連れてきて良かったと思い返す。
「凪? …お帰りなさい。もう用は済んだの?」
早苗が顔を出し、凪に声をかける。
「ただいま。うん、おかげさまで…。
ホントにお世話になりました。」
「いいのよ。昨日も2人で氷屋さんに行ったり、私も楽しかったから…。 泊まって行けるの?」
「今日中に帰らないと…。」
仕事のスケジュールが詰まっているため、今日1日のオフをとるだけでも大変だった。
「そう…。 じゃあお昼ご飯くらいは一緒に食べましょう。」
早苗にそう言われて凪は頷いた。
普段はバラバラに休憩をとる義父と義弟も揃い、4人で賄いをいただく。
凪は義父と義弟にも東京での問題が解決したとだけ伝えて、紅葉が世話になった礼を伝える。
2人にも紅葉との関係をきちんと話そうとするが、既に早苗から聞いているのか、それとも堅苦しいのが苦手なのか、まるで遮るように切り出されたのは…
「じゃじゃーんっ!! これは何でしょうか?」
早苗が2人の前に差し出したのは1枚のカード
今月発足したばかりのLinksのファンクラブ会員証だった。
オンライン会員は前からあったため、毎月の会員金額ランク別に3パターンの会員証があり、早苗が見せたのは一番上のランクのもの。
そしてまさかの義父と義弟もそれに続いて会員証を出して見せたのだ。
「何やってんのー?(笑)」
「だってファンだし~!
凪、アルバムのポスター持ってきてくれた? サイン入りの!」
さっき紅葉にもサインを入れてもらったのであとで渡すと答える凪。
義父もいつもの優しい笑顔で2人に向き合う。
「公私共に2人を応援しようってことでみんなで入会させてもらいました。
お父さんはちゃんとお小遣いから払っています!」
「父さんはメンバーの動画とかより平九郎の写真と動画を見てるよ(笑)」
「そっか…平ちゃんも帰っちゃうのか…。
お客さんにも大人しくて可愛いって評判良かったのに…。」
義父は平九郎にメロメロらしい。
「そういえば、紅葉くんがお土産コーナーのレイアウト変更手伝ってくれてめっちゃ好評なんだよっ!!お礼代わりにお土産にお菓子用意しとくから忘れないでよ~!」
「義くん、ありがとう。」
義弟は温泉好きの紅葉のために毎日貸し切り風呂の空いてる時間になるとこっそり紅葉に使わせてくれていたらしい。
ネタになるからと、ファンクラブの会員証を掲げた3人の写真を撮って休憩したあと、紅葉の荷物を纏める。
義父は平九郎の写真を撮りまくり、義弟はお菓子を大量に持ってきてくれた。
「これ紅葉くんが書いた七夕の短冊。
片付けようと思ったけど、あっという間に願い事叶ったみたいだし、縁起が良さそうだから持って帰ったら?」
そう言って渡された短冊には"はやく凪くんと会えますように"と書かれていた。
行方不明だったヴァイオリンのことより、凪に会いたいと願ってくれた紅葉の気持ちが嬉しくて凪はありがとうと言って受け取った。
「凪…帰る前に寄ってくれる?」
仏花を手にした早苗に声をかけられた凪はもちろんと答えて、車に母を案内した。
小一時間程、車を走らせると小高い丘の上に凪の実父の眠るお墓がある。
「私は先週の月命日にも来たし、お盆にもまた来れるから平ちゃんを見てるわ。
2人で挨拶してきなさい。」
早苗から花と線香を受け取り、少し戸惑い気味の紅葉を連れて凪は父のもとへ歩いた。
先週早苗が来たときに掃除も済ませたのだろう、お墓の周りはキレイだったので、お花と水だけ取り替えて線香に火をつける。
「紅葉もおいで。」
「僕も…いいの?」
「いいからおいで。俺の父さんがここに眠ってる…。作法とかいいから一緒に手だけ合わせてくれる? ドイツのやり方でもいいよ。」
凪にそう言われて紅葉は彼の横に立ち墓前で手を合わせる。
「父さん、俺の恋人の紅葉だよ。
2年ぶりの墓参りでいきなり男の恋人連れてきたから相当ビックリしてるだろうけど…(笑)
…俺の一番大事な人。めちゃくちゃ美人でしょ? 心もスゲーキレイなんだよ。
これから先、俺と紅葉のことも見守って下さい。」
紅葉も何か言いたいことあったら言葉にしてもいいし、心の中で言ったらいいよと凪が教えてくれた。
「凪くんのお父さん…
お父さんの大事なゴルフクラブを壊しちゃったのに凪くんのお誕生日にドラムセットを買ってくれてありがとう。お父さんのおかげで僕は凪くんに出逢えました。感謝します。
どうか僕が凪くんの側にいることをお許し下さい。」
「…ありがと。
お前…、母さんからいろいろ聞いたね?(笑)」
2人は笑顔でお別れを言って車へ戻った。
「遠回りになるから駅まででいいわ。」
早苗の言葉に最初から最後まで甘えて、近くの駅へ送る。
「紅葉くん、また会いましょうね。平ちゃんも。」
「ホントにありがとう。おかあさん…!」
「身体を大事にして…凪のことお願いね。
凪、運転気をつけて帰るのよ。」
「母さんも。親父と義くんにもよろしく。」
またねと言い合って、2人は東京を目指した。
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