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第107話

7/29 815 コンビニで朝ごはんを調達し、タクシーを呼びメンバーの滞在先であるホテルへと帰ってきた2人… 鍵を開けて部屋へ入ろうとすると、隣の部屋から光輝が顔を出した。 「あ、おはよー。」 何事もなかったように、今ちょっと朝食を買いに行ってました風を装い、挨拶をする凪… 「お帰り。…朝帰り? まさに夏を満喫って感じだね?」 足元のお揃いのビーチサンダルに視線を落とした光輝に微笑まれたが、背後に黒い何かが見えて2人は一瞬固まる。 言葉は優しいが「LIVE前になにヤってんだよ」とでも言いたそうだ…。 紅葉は小さい声で「ヒ…ィっ!」と言ってしまった程だ。 彼(光輝)は誠一の気遣いでこのツアーでは新妻と同室だったのだが、みなが「この人がいたらLIVE前に集中出来ないでしょ!」とキレたため、部屋を追い出されて急遽別に部屋をとって、結局1人寝になり大変不機嫌なのだ。 「あー、えっと…何かあった?」 「今日のLIVEの出来具合で東京と北海道のフェスにも参加出来るかもしれないから、気合いい入れてね。…って昨夜何回か部屋に言いに行ったんだけど…」 「マジかぁ…! スケジュール空いてるとこ? 休みかと思ってた。」 「…全然応答ないからさっきLINEしたとこ。 凪も紅葉も、しっかり頑張ってね! …キスマーク見せ合ってる場合じゃないからね?」 「はいぃ…っ!」 そう告げるとバタンっとドアの音を立てて部屋に入っていく光輝… 「こわかった…っ!」 「…朝飯食いながら今日のイメトレしよ。 あと、みなをなんとか出来る?」 「このフルーツゼリーみなちゃんにあげてくるっ!!」 自分用のデザートに先ほど買ったゼリーを従姉妹の部屋へ差し入れに行く紅葉… 凪は先に部屋に戻り、セットリスト通りの曲順で音を流せるように準備し始めた。 11:08 野外音楽フェス Links登場 オープニングSEを流し、メンバーが順にステージに上がる。 最後がボーカルのみなで、Linksのロゴが入った黒い日傘で顔を隠して歌い始め、間奏の合間にステージ上に傘を下ろして客席を煽っていく。 真夏の太陽の下、まだまだ知名度の高くはない彼等のパフォーマンスに肉眼で見えないほどの大勢の観客が盛り上がってくれた。 会場に設置されたモニターにはきちんとLinksのロゴが入るように凪の定番のバスドラムや先ほどの日傘を始め、ドリンクのカバーなどLinksオリジナルのグッズが配置されている。 無駄なMCをしなくても圧倒的な歌唱力と演奏力で周りを惹き付け、メンバーの端整な顔立ちも彼等の武器となっていく。 「このバンドカッコいいね!」 「みんなイケメンとか珍しいっ!」 「ボーカルの子、女の子…? 低音もキレイー!ベースの子と似てる!」 「あ、化粧品のモデルの子だよー!」 話題性も十分だ。 紅葉は遠くの観客を見るのに夢中で、ステージの前まで行き過ぎて、慌てた光輝に服を掴まれて後ろに戻されていた。 クルリと凪の方を振り向いて「危なかったーっ!」と笑えば、一瞬ドラムスティックで指差されて「しっかりしろよ」と目線で言われる。 「あの2人付き合ってるって噂あるんだよー!」 「えー、そうなんだ。 なんかラブラブだねー! あ、なんかドラムの人にお水持っててるよ? あの子可愛いーっ。」 凪のドリンクがないことに気付いた紅葉が短い曲の合間に持って行ったらしい。 仲良く1つのボトルを分け合う彼等に女の子たちの声が響いた。 …光輝の顔は笑顔だが、内心は分からない。 誠一は暑いのか、マイペースにシャツの前を開けている。 持ち時間が短いのでみなの MCは本当に一言。 「初めまして、Linksです。 あと1曲だけど、全力でいくのでついてきて。 そしてこの後もフェスを楽しんでいって下さい!」 代表曲eternalでしめて、Linksはステージを降りた。 楽屋にて 「…話題性は取れたと思うよ…?」 誠一がフォローに入る。 「カナ、スポドリまだある? みんなにあげて。」 カナはみなにも水と塩分タブレットを差し出し、みんなの分のスポーツドリンクを渡す。 ステージは暑すぎたので屋外で水を被ってきた凪はタオルで頭を拭きながら、紅葉に水分を取らせる。 「光輝、説教はあとで。 紅葉の身体が暑すぎるからアイシングして。」 広くて暑いステージに全力で挑んだ紅葉。 カナが保冷剤を取り出して凪と一緒に火照った紅葉の身体を冷やしていく。 「大丈夫…?」 さすがに心配そうに光輝が様子を伺うと、 「ありがとう、へーきだよ。」 バテバテの声でそう答える紅葉にスポドリをもう一本追加する。 「喋れてれば大丈夫。 もう少し休んでな。 光輝くん、着替えるからきて。」 「えっ?!」 「え、じゃなくて。 カナは紅葉見てて来れないんだから、早く衣装脱ぐの手伝ってよ。」 タイトな衣装が暑くて不快らしい。 みなはそう言うと自分の私服とタオルを持ってシャワールームへ行ってしまう。 慌ててそれを追う光輝。 「良かった。 お説教はなくなるかもね~!」 誠一もそう言うとシャワーを浴びに行った。 30分程休んで紅葉も復活し、凪の見張り付きでシャワーを浴びて全員で片付けや関係者に挨拶を済ませる。 光輝の曇りのない笑顔を見てホッとした凪は東京と北海道のフェスもほぼ決まりなのだろうと悟り、 もう少し紅葉に体力をつけさせないと…と改めて思った。

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