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第112話

※NL表現、結婚式のシーンがあります。 1900 約2ヶ月遅れで光輝とみなの結婚祝いとしてささやかなパーティーを行った。 場所は凪と紅葉が贔屓にしているドイツ料理のレストランだ。 経営者の夫妻に相談すると2つ返事で快く引き受けてくれて、馴染みの花屋から装飾用の花を入れてもらったり、みなのお気に入りのケーキ屋さんからウェディングケーキも仕入れてくれた。 貸し切りにしてもお店がそんなに広くはないので、参加者はLinksのメンバーと主要スタッフ、珊瑚と翔、公私共に仲の良いバンド仲間が数人くらい、服装もカジュアルな立食パーティーだ。 結婚したことをまだ公にしていない彼等は、パーティーと聞いて恐縮していたが、この日はとても嬉しそうだった。 ちゃんとした結婚式はメジャーデビューが決まってからという約束のようだが… みなは先日珊瑚から「ほらよ!」とウエディングドレスを投げて渡された。 ドレスは珊瑚と紅葉の母親のもので、みなは"自分は受け取れない…。幸が着るべきだ"と言ったそうだが、珊瑚は"もう持って来ちゃったし、帰りは弟たちの土産を持って帰らないといけないからとりあえず受け取れ!幸が嫁に行くときはお前が責任持って渡せ!"と押し付けたらしい。 裁縫も出来るカナが数日間徹夜で手直ししたドレスに身を包んだみなは確かに誰が見ても美しかった。 「こうして見ると母さんに似てる…」 そう呟いて珊瑚は財布にしまっていた父親と母親の結婚式の写真を見つめた。 「撮りなよ…。 お母さんたちと同じくらい幸せな写真…2人のために珊瑚が撮ったら、それってサイコーの親孝行だよ?」 翔はそう言って、普段人物は撮らない珊瑚の背中を押した。 「いいね、結婚式…。 お祝い出来て嬉しいな。」 紅葉は隣の凪にそう話すと、凪はワイングラスに口をつかながら同意する。 「そーだな。 俺たちもいつか出来たらいーね?」 「ん…?えっと…っ!それはホントに?!」 「ドイツって同性婚出来るの?」 「出来る…けど…。あの…! 形に拘らなくても大丈夫だよ? 今のままでも十分だし、 あ、式は最近日本でも出来るとこあるらしいよね?」 「そう? でも俺は形に出来るならそーしたいって気持ちで紅葉と付き合ってるよ。」 付き合って、同棲して、親に紹介までして、その先は…フツーに考えて結婚だ。 凪は素直にそう紅葉に告げた。 一瞬にして涙でぐしゃぐしゃな紅葉の顔を下ろし立てのハンカチで拭う。 端から見たら従姉妹の結婚式で感極まって号泣してるって図だ…() 「紅葉が大学卒業したらまた考えよっか。」 それまでに日本が法改正してくれたらいいけど…と淡い期待を寄せる凪だった。 みなは純白のドレスが汚れるのを気にして、途中もともと着る予定だったという濃い紫と黒のレースのドレスに着替えた。 こちらの方がいつもの彼女のイメージで本人も落ち着いたのか、シェフ自慢のドイツ料理を堪能していた。 「懐かしい味がする…!」 みなも紅葉もそう言った料理の一部は、お店のメニューではなく、珊瑚と紅葉の祖母のレシピから作ったものだそうだ。 シェフの心遣いに感謝して、大人たちはドイツビールとワインをどんどん空けていく。 余興はバンド仲間がコントをやったり、手品を見せたり、シェフであるご主人が趣味のウクレレを弾いて歌い、大いに盛り上がった。 最後は珊瑚と紅葉がヴァイオリンを披露するようだ。 2人で演奏するのはこどもの時以来のようだが、双子ならでは、息ぴったりでプロ顔負けの演奏していく。 いつも"珊瑚の方が上手い"と言っていた紅葉がちゃんとリードして弾いていて、日々の練習の成果を実感する。 クラシック好きの店の夫婦は2人の演奏に肩を寄せて聴き入り"きっと2人のご両親にも届いてるね"と囁き合った。 演奏が終わるとみんなが拍手をする中、みなは2人をハグして感謝を伝え、光輝も笑顔で握手を交わした。 「ありがとうございましたっ!」 「あのー、お祝いの席で悪いんだけど… 俺たちでクラウドファンディング立ち上げるので、もし良かったらご協力お願いします。」 珊瑚と紅葉は頭を下げた。 「何か物入り?」 光輝が聞くと、彼等の実家の雨漏りを直すために屋根を修理したら思ったより金額が嵩み、祖父母の結婚記念日(金婚式らしい)の旅費が足りなくなってしまったそうだ。 祖父母が仕方ないわねと旅行をキャンセルする寸前で珊瑚が止めて、なんとか自費で補充したのだが、まだ少し足りず、しかも夏休みに弟たちを遊びに連れていく費用がなくなってしまい、楽しみにしている弟たちのために2人で資金繰りをすることにしたらしい。 「俺が出すよ。」 光輝がそう言うが、珊瑚は断る。 「ありがたいけど、それじゃあ意味ないんだって。ちゃんと自分たちで稼がないと。」 「偉いね…。 アドレス教えてよ。 なるべく拡散させるから。」 誠一がそう言って珊瑚に歩み寄る。 彼の交遊関係は広いので期待が出来そうだ。 他のみんなもスマホを持って集まってくる。 同郷のご主人は涙ぐみながら感激している様子でどこからかへそくりを持ってきて"弟さんたちに日本のお土産を買ってあげなさい"と紅葉に渡していた。 それを見た奥さんは"まぁ!"と言いながらも同じように別の場所からへそくりを持ってきて紅葉の手に重ねた。 「ありがとう。 日本のお父さん、お母さん!」 紅葉のその言葉に2人は本当に嬉しそうな笑顔を見せた。

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