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第119話
翌朝早く紅葉が目を冷ますと、凪が自分を抱き締めるように隣で寝ている幸せに嬉しくなりその胸に顔を埋めてふふっと笑った。
「くすぐってーよ…(苦笑)」
「凪くんお帰り。おはよー。」
「相変わらず早起きだな…。」
二度寝しそうな凪に「朝ごはんのお手伝いしなくていいの?」と言ってなんとか起こし、2人で身支度を整える。
凪は厨房に行き朝食の準備を、紅葉は義父と平九郎の散歩へ行く。
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「紅葉くん知らない?」
「あー、なんか親父と子犬見に行ったよ。」
母親に聞かれた凪はそう答えると、
「もうお父さんったら!
私が一緒に出掛けたかったのに!
…あ、子犬って言ったら山岡さんのお宅かしら?じゃあ迎えに行ってそのままお出掛けすればいいわね。」
「…なんか用事?荷物持ちなら俺が行こうか?」
「あなたは賄い作りがあるでしょう?
…紅葉くんとお買い物に行ってそのままランチしようと思って。湯葉って好きかしら?珊瑚くんにお土産で買ってこようかと思うんだけど…。
あ、今日は私と紅葉くん、賄いなしでお願いね。」
「はいはい…。
リハがあるから13時までに帰ってきてよ?」
「分かってるわ。」
実の息子よりも紅葉を可愛がる母親(義父もだが)を複雑な気持ちで見送る凪。
「仲悪いよりはいーんだけどねー…(苦笑)」
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京都の音楽スタジオでLIVEリハーサルを行うLinks
誠一は前の仕事が長引き、楽器は届いているのだが、本人は遅れて合流した。
「おはよー…。こっちも暑いね。」
「お疲れ。 …あれ? 誠ちゃん荷物それだけ?」
ノートPCの入った薄いケースしか持っていない誠一を見てみなが尋ねた。
「北海道フェスに合わせて夏休み取りたくて仕事詰めたら、荷造りする時間なくて…もう買えばいいかって 機材は運んでもらえるし、財布、スマホ、PCだけ持ってきた。」
「スゲーね(笑)」
凪は笑って、必要な物があれば実家からくすねてきてやるよと言う。
「まぁ、確かにだいたいホテルになんでもあるしね。」
光輝もそう言うが、思いきった誠一の行動にみんな驚いている。
「え、じゃあパンツも持って来なかったの?」
紅葉の質問は面白い。
誠一も笑っている。
「そうだね…(苦笑)
リハが終わったら百貨店行って買うよ。
まずは鞄からかな。」
「僕エコバッグ持ってるよ。使う?」
「えらいね。ありがとう。
でも大丈夫だよー。ちょうど欲しい鞄があるからさ。」
「そっか!
なんかお手伝い出来ることがあったら言ってね!」
紅葉の親切な言葉に誠一は頷いてありがとうと言った。
「よし、じゃあリハやっちゃおう!」
光輝が仕切り直して、リハーサルの続きに入る。
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リハーサルが終わって、メンバーは京野菜の美味しいお店で夕食を食べた。
誠一は食べ終わると急いで百貨店へ向かい、みなと光輝は滞在先のホテルへ。
凪と紅葉は凪の実家へ戻り、駐車場へ車を停めた。
「お帰りなさい。」
忙しいはずの早苗に出迎えられて、何かあったのかと聞けば、どうやらLinksのファンの女の子2人組が宿に宿泊しているらしく、用心のため母屋の方へ車を回すように言われた。
「貴重にもあなたのファンの子みたいよ?"凪くんのお母様ですか?"って…。
あなたが来てないかって聞かれたけど、とりあえずいないって言っておいたわ。」
「了解ー。
うちに前泊出来るなんて…金持ってるなー… 」
決して安くはない宿泊代+LIVE費用を賄えるらしい。ありがたいが、紅葉も一緒なのでとりあえず顔を合わせないように今日はもう母屋から出ないように言われる。
「温泉…っ!!」
「あー……。」
今日こそ凪と一緒に入りたかった紅葉は心底残念そうな声を出した。
「…義くんに言って時間外に借りようか…。
とりあえず一回家の風呂で我慢してね。」
「うん……。
一緒に温泉入れないと、明日からのLIVE頑張れない…。」
「それは大変だな…(苦笑)」
しょんぼりする紅葉の手を引いて部屋へと戻った。
「めんどくせー…。顔変えようかな…!」
紅葉と瓜二つの珊瑚も夕方から母屋に引き籠っているらしく、紅葉と共にメロンをつつきながらそんなことを口にする。
紅葉はシャワーを済ませたばかりなのに口元がベタベタになり、凪はちゃんと拭け!とおしぼりを渡す。
「ダメだよー。
ただでさえ口の中にピアスなんてあけてるのに…整形までしたら天国のお母さん悲しむよ?
翔くんもビックリすると思うし…」
確かに珊瑚の顔立ちがお気に入りの翔はかなりショックを受けるだろう…
「整形したら別れるのかな?」
「えっ?!」
「…俺は紅葉が整形しても別れないけど…。」
凪が言った一言から話が脱線していく。
「僕整形しないよ?
痛そうだもん…。」
予防接種1つで泣きの入る紅葉には難しいだろう。というか、そもそも2人とも整形の必要は全くない。
「いや、翔くんもおなじだと思うよ。
さすがに顔だけで恋人選んでないって!
整形じゃなくても顔に怪我したとか…痕が残ったとかそういうのでも別れない。
ベースやヴァイオリンが弾けなくなっても。」
「凪くん…っ!!」
「……俺は部屋に戻る。」
「待って!
翔くんに電話しなよー!
珊瑚、寂しいんだよ!
電話して何でもいいから話なよー!」
「…何でもって言われても…。
あー、分かったよ!
電話すりゃあいいんだろ!
おやすみ。
とりあえずヤるなら声抑えてよ!」
「凪くん…、僕って声大きいの…?」
「別に?
…昨日珊瑚に何か言われた?
紅葉、"比べない、気にしない、卑屈にならない" 約束だろ?
…ちゃんと俺を見て?」
「はい…。……カッコいい…っ!」
「どーも(笑) でもやっぱなんかちょっと違うんだけどね(苦笑)」
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