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第127話

1152 凪が昨夜のお詫び代わりに自分の小遣いからハーゲンダッツのアイスをいくつか買って帰宅すると、紅葉はテキストとノートを枕に眠っていた。 「しょーがねーな…(苦笑) ほら、紅葉…っ!起きて。 アイス買ってきたぞー。」 「…っ! ア、イス…っ!!」 なんとか起きた恋人に苦笑しながら、身体を起こすのを手伝い、アイスの入ったビニール袋を差し出す。 「動ける? ほら、顔洗ってから食いな。」 「ありがと。 わっ! すごい! 一番美味しいアイスだ!」 2人でアイスを食べて、紅葉は平九郎と少し戯れてからヴァイオリンの練習をし、身支度を済ませる。 結局宿題は全然進まなかったので、レコーディングの後で友人に聞くことにして、凪と共にスタジオへ向かった。 1500 「うん…。 もう1回かな。」 光輝の一言に学生メンバーは固まる。 「神谷さんはOK出してるのに、何がダメなんでしょうか…?」 オケの指揮を担当している4年生の神谷は3度目の演奏で頷いたが、光輝は納得いかないようだ。 学生たちは困惑している。 「何がダメと言うか… 確かに…"これでもいい"んだろうけど、Linksとしては "これがいい" っていうものを形にしないといけないからさ。 そういう意味での "もう1回" だよね。 じゃあ…5分休憩してもう一度頭からで。」 愛用の腕時計Cartierのクレ(婚約指輪のお返し)で時刻を確認し、笑顔でそう告げた光輝はブース内でメンバーやスタッフと打ち合わせを始める。 「紅葉くんはいつもあの人の練習ついていってるの…?」 「そうだよ? 光輝くんの言う通りに頑張ったら、いつの間にかすごーく上手くなるんだよ! 」 「いや、なんてゆーか…すげータフだね…。」 「だって、みんなも悔しいでしょ? せっかくやるならこれだ!って演奏にしようよ!」 16:13 予定を2時間オーバーして、ツアーファイナルで使用するeternalのオーケストラバージョンのレコーディングが終了した。 ぐったりしつつも満足感と達成感に溢れた顔を見せる音大生たち。 光輝は一人一人と握手をして苦労を労い、カナがジュースとお菓子を渡す。 「みんなお疲れ様! ありがとうね。みんなの作品が活きるように最高のファイナルにするから、もし良かったら見にきてね。」 このレコーディング前はみなのピアノのレコーディングもあったというのに、疲れを見せることなくこれから早速マスタリング作業だというLinksのメンバーに学生たちは顔をひきつらせながらスタジオを後にした。 1900 まだ作業を続ける大人組(凪、光輝、誠一)を残してみなと紅葉はタクシーで帰宅する。 紅葉は平九郎の世話をしてから、自転車でみなのマンションへ移動し、作曲の宿題をみてもらう。 「朝思いついてた曲が、途中から眠くてなんて書いたか分からなくなってるんだよぉ…」 ミミズ走りの五線譜を眺めて紅葉は嘆いた。 「そういう時は一回レコーダーに撮るんだよ。 鼻歌でいいからさ。」 「そっかぁ…! もう忘れちゃって…途中から考えるの難しいね…。」 「これなら…上がって下がるかな。無難に。」 メロディーの音程だけヒントをもらい、考える紅葉だが… 「…いい匂いがする…。お腹すいた…っ!」 「もう出来るからとりあえず食べなよ。」 そう言って美味しそうな肉団子入りのラタトゥイユをお皿によそうみな。 食べ終わるとまだ作業中の3人にも差し入れに行くと言う。 「僕も行くっ!!」 「宿題はー?」 「う…。 でも…夜だし、女の子を1人で行かせるわけにはいかないよっ!!」 凪に会いたいので、必死の紅葉は最もらしいことを言って荷物を纏める。 「得意なのからやりなさい。 終わらないと凪にも光輝くんにも怒られるよ?」 「……はい。」 結局1人でタクシーに乗り夕食を届けに行き、感激している光輝を横目に進捗状況を確認するみな。 「もう少しかかりそう?」 「だな…。 紅葉の方は?」 「2、3歩は進んだ感じ。」 みなの返答に苦笑する凪は黙って休憩ルームでラタトゥイユを口にする。 「旨いな…。」 「圧力鍋使ったの。大活躍だよ、ありがとう。」 結婚祝いに送った圧力鍋がお気に入りらしい。 「ちょっと仕事…ごめん、副業の方。抜けていい?」 誠一がバタバタとギターを抱えてやってきた。 「いいよ。 みなを送れる?」 「誠ちゃん急いでるなら光輝くんたち終わるの待ってるか先にタクシーで帰るよ?」 「あ、大丈夫。そっち通って行けるし。 これ僕の分?もらってっていい?仕事しながらいただくね。」 「どーぞ。冷めても美味しいと思うよ。」 誠一はみなを車に乗せて彼女のマンションへと向かった。 「ご飯作って持ってくるなんて、いい奥さんしてるねー!」 「昨日のイベントで、光輝くんのファンの子から廊下で寝かせないでとか、結婚したなら責任もってちゃんと面倒みてあげてってお願いされたからさー(笑)」 「さすが光輝のファンの子たちだね…(苦笑)」

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