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第132話※微R18
その日は強くなる雨風に開場時間を30分繰り上げて、場内で物販を行った。
遅れて来るファンのために開演時間は遅らせず、定刻で開演。
LIVEを前半後半の2部制に構成を組み直し、合間のMCの時間に前に来たい人たちが少し移動出来るようにみながお願いした。
この日はチケットの整理番号で入場しても物販を買っていて後ろで見ることになってしまったファンの子たちが多かったため、みんなで譲り合おうと声をかけたのだ。
快く協力してくれるファンに感謝をし、
合わせて台風接近の中、安全に帰宅してもらうため終演後の物販は取り止めることもお知らせした。
「物販買えなかった人は是非通販で!
今日は大急ぎで終わらないといけないからドラムソロもアンコールもカットです、ホントにごめんね。」
残念なお知らせにファンの子たちも落胆の色を隠せない。
「次に福島に来た時に今日の分もやろう!
アンコールもドラムソロもっ!」
紅葉の提案に拍手が起きた。
「あ、ドラムソロがなくて一番落ち込んでる子がいた(笑)
代わりにリズム隊セッション入れてステージで2人きりにしてあげたじゃん!」
「一生懸命ベース弾いてたからほとんど凪くんを見れませんでした!!」
「そっか…。
…え、ごめんね?
機嫌直して?
…凪…っ!」
「紅葉、…あとで、ね?」
その一言で笑顔になる紅葉に会場のみんなも笑う。
「えっと、今日はいろんなことの代わりに帰りにチェキをプレゼントします。
さっき楽屋で撮ったオフショットです(笑)
一人一枚、帰りに受け取って、濡れないようにソッコー鞄にしまって、電車とかでゆっくり見て下さい。」
メンバーの計らいにファンも大喜び、LIVEも盛り上がり、予定より30分早く終演となり、無事電車が動いているうちにお客さんを帰すことが出来た。
「今夜はホテルから出ないように。
コンビニもダメ。
明日のチェックアウトは11時。
各自自由解散、以上。
お疲れ様。」
ずぶ濡れの光輝の指示に従いメンバーとスタッフは滞在先のホテルへ。
LIVE会場から帰る頃には正に台風直撃!といった強風と豪雨になっていた。
一度自室へ戻った凪は昨日買い込んでいたビールを持って誠一の部屋を訪ねた。
「珍しいね。紅葉くんは?」
「今ゼリー食わしてる。」
どうぞ、と部屋に通された凪はLIVEの直後だというのにノートPCを立ち上げて難しそうな資料を広げている机を目にする。
「卒論どう?」
誠一は大学院への進学を勧められていて、既に出来上がって提出した卒論の他にもう1つ仕上げているのだ。
「まさかのもう一本だからしんどいけど…とりあえず出さないとって感じ。実際院に進むかはまだ分からないけどね。」
「そっか…。
そっちは手伝えないから、仕事代われるとこあれば言って?」
凪は持参したビールを差し入れとして手渡した。
「ありがと。
で、用事は何ー?」
「あー…恥を忍んでお願いがあって。
誠一がめちゃくちゃ忙しくてスゲー頑張ってるとこものすごく言い出しにくいんだけど…」
「何?(笑)
いいじゃん別に。
僕だって好きなこと両方やってるだけだし。」
誠一に言われてなるほどと頷いた凪はそれでも一応遠慮がちに聞いた。
「えっと…なかったらいーんだけどさ。
ちょっと今手持ちがなくて…。
昨日コンビニで見たけどなくて…。
…アレって持ってたりする?」
「"アレ…?"って…アレでいいのかな?
夜…とかに必要なやつ?」
勘のいい誠一にはなんとなく伝わったらしい。
「そー。
男の子の必需品。
え、ごめんね?メンバーにこんなん聞いて(苦笑)」
「ははっ。
光輝には聞けないだろうけど僕なら全然いいよ。大学の友達とかでもフツーに交換してたりするし。ちょっと待ってね。」
「ごめんねー。
腹減ってるのかなんか珍しくプリプリしててさー(笑)
昨夜もデートのあと放ったらかして飲みに行っちゃったし…」
「ドラムソロもなかったからじゃない?
…はい。…足りる? いろいろあるからお好みでどーぞ。
あとこれもあげる。
とりあえず僕は今使わないから(笑)」
誠一は凪の手の中にポーチから取り出したゴムと携帯用のローションパックを渡す。
「サンキュー。
今度奢るから。落ち着いたら飲みに行こ。」
「さっきのビールで十分だよ。
でもまた飲みには行こうね!
光輝も誘って。
紅葉くんとみなちゃんの機嫌のいい時に(笑)」
「そうだな(笑)」
凪は手の中の物をポケットにしまい、"卒論頑張って"と声をかけて誠一の部屋をあとにする。
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