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第138話

「うわーんっ! 平ちゃんがぁ! 僕のかき氷取ったぁーっ!」 翌日の昼過ぎ、無事に北海道に到着し宿泊先のペット可のリゾートホテルで早速平九郎を遊ばせた。 都内より涼しいが、日中は日差しが強いので、犬用のプールに入れて、平九郎は大はしゃぎ。 しかし水は好きだが、泳ぐのが下手なのか平九郎は随分と水が飛び散る犬掻きを披露し、凪と紅葉を笑わせてくれた。 その後は木陰で毛を乾かしながら休ませている間に2人はかき氷で涼をとっていた。 普段なら絶対に人間の食べ物には手を出さないお利口な平九郎もテンションが上がったのか、暑くて氷が食べたかったのか…紅葉のかき氷の入ったカップを地面に倒して一心不乱に食べている。 「あーぁ…(苦笑)」 「どーしよ…っ!!」 「ちょっと甘いけど、氷だから食っても大丈夫だろ。ほら、俺のやつ残り食っていーよ…」 凪は自分の分を紅葉に譲る。 「いいの? ありがと。 …こっちも美味しい…!」 嬉しそうな紅葉。 自然豊かな北海道の地は紅葉を癒してくれているようだ。 敢えて観光地に行かなくても、夕暮れに緑豊かな散歩道を平九郎を挟んで2人で一緒に歩くだけで、幸せそうな笑顔を見せる。 食欲も戻り、特産品を使った美味しい食事に大満足。 夜は涼しくて、久しぶりに冷房に当たらずバルコニーで夜空を見上げた。 「お星さま綺麗…!」 「だな。 今頃誠一も夢中になってるんだろうな。」 「そーだね。晴れて良かったね!」 「来て良かった?」 「うん。 凪くんと平ちゃんと一緒に来れて嬉しい。 ありがとう。」 「いーえ。 そう言って貰えたら俺も嬉しいよ。 …湯冷めするとまた風邪ひくから中入ろう。」 日が落ちてからドッグランでも散々走り回った平九郎は夕食に豪華なスペシャルメニューをオーダーしてもらい、今日も大満足で爆睡中だ。 時々クゥンと鳴いて足を動かしているから、夢の中でもまだ走り回っているのかもしれない。 2人はそんな愛犬の様子を眺めて微笑んだ。 翌日は朝早く平九郎の散歩に行き、身支度をしてから宿のペットホテルに預けて、2人はフェスへ出掛ける。 移動が少し大変だが、音楽を聞いたり、時には口ずさみながら会場へと向かった。 紅葉は大きな野外ステージを駆け回りながら演奏し、凪も迫力ある安定したドラムを披露した。 Linksの評判は上々でいくつか取材を受けたあと、メンバーで海鮮丼を食べに行った。 みんなで丼を持った姿を写真に撮ってファンクラブサイトにアップする。 「こんな食べれない…。」 みなは多い分を光輝に押し付けて食べさせていた。光輝は嬉しそうな顔でそれを受け取り、彼女の好物の伊勢海老を宅配で頼んでいたが… 「伊勢海老なんて捌けないんだけど…。 凪出来る? うちに捌きにきて。」 と言い出した(笑) 疲れの溜まった顔をしていた誠一も海の幸に喜んでいた。 「酒のつまみ買って帰ろう!」とご機嫌だ。 紅葉は「うまっ! なんて美味しいのっ!! なんてお魚か分からないけど美味しくて最高っ!!赤い丸いのも!」と、夢中で頬張る。 「それフツーにサーモンとイクラだよ。」と凪が言うと、 「紅葉くん、僕のも食べる? まだここ手つけてないよ。」 誠一が自分の丼を指差してそう言ってくれるが… 「ううん、もういいの…。」 紅葉は小声でそう答えると凪の後ろに隠れてしまった。 「なんか…微妙に距離置かれるんだけど、僕なんかしたかな?(苦笑)」 「あー、なんかごめん…(苦笑)」 凪はとりあえず謝罪した。 いつも誠一の真似をしたがっていた紅葉だが、先日のゴムの一件でちょっと距離をとっているようだ。 明日は夜LIVEイベントがあって、明後日東京へ戻る。(誠一は夏休みでもう少し残る予定) メンバーと分かれ、凪と紅葉は宿へと戻る。 少し休憩してから平九郎を連れて馬を見に行った。 「小さいお馬さん…ポニー?」 「道産子だって。 北海道の馬。」 「へぇー!」 「乗る?」 「乗れるの?」 観光客用の体験乗馬を申し込む紅葉。 実家の隣でほぼ毎日乗っていたらしく、係員も安心して手綱を任せ、紅葉は懐かしい感覚に喜んでいた。 凪は平九郎の隣でその様子を写真や動画に撮って過ごし、乗馬のあとは紅葉念願のソフトクリームを食べたのだった。

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