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叶った恋を楽しむ日 1
ちゅ、と鼻先に何かが触れた気がして、ゆっくり目を開ける。
「おはよう、スズナ。」
「んん………ナズナ、おはよ。」
視界一杯にそっくりの顔が広がって、ふにゃふにゃと惚けてしまう。
双子、という関係の頃から他人や家族よりも近かった僕達の距離は、恋人になった日から更に近くなった。
初恋は実らないものだとばかり思っていたのに、こんなに幸せな日々が来るだなんて…!
それだけじゃない。
「おはよう、七草。」
「七草さん、おはよー!」
「おはよう。ナズナ君スズナ君。」
僕に人生で初めて友達が出来ました!!!
入学式の日、校門の傍にあった大きな桜の木を見上げていた僕に話しかけてくれたのが七草さんだった。
ぼうっと見ていたら、「桜、好き?」と聞かれてビビりまくったのを覚えている。
僕なんかに話しかけてくる人は滅多にいないし、ナズナ以外に悪意を向けられなかったのも初めてだった。
しかも七草さんは僕達が双子で恋人であると知っても、全然態度が変わらなかった。
友達、それも女の子の友達なんて初めてで最初は凄く戸惑ったけれど、今では休日に会うくらい仲良しだ。
「日差し、キツいねー。」
「すっごい暑い。溶けそうだわ。」
「紫外線の季節ですねぇ。」
真夏の太陽は今日も元気に輝いているせいで、眩しさが天元突破だ。
ナズナは噴き出てくる汗を拭い続けているし、七草さんは日焼けが気になるからか日傘を差している。
駅前で集合した僕達は、市営の大きな図書館へ向かって歩いていた。
今日のミッションは夏休みのあるある課題、読書感想文をやっつけること。
僕の一番苦手な宿題だから行きたくないって言ったんだけど「頑張れたらご褒美あげる」って言われてしまえば頷くしかなかった。
僕だって健全な男の子である。ご褒美の三文字に夢とエロスを感じるお年頃なのである!!
絶対書き上げるという決意を胸に、自動扉を潜った瞬間涼しい空気に包まれた。
「ふはー生き返るよぉ!」
「あははっ、七草さん大げさすぎ!」
「いやいや人間にはこの暑さは耐えられませんよぉ。」
「ほらほらスズナ。入り口で止まってたら邪魔だろ?」
けたけたとお腹を抱えていると、ナズナに背中を押され特に抵抗もせずに従った。
良い子にしてるからご褒美期待してますねっ!
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