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叶った恋を楽しむ日 3
頑張りました。頑張りましたよ僕はっ!!
「書けたぁー!!」
「うんうん、良かったねぇ。でも静かにしようねぇ。」
「はい!」
あらすじや後書きだけ読むのではなくちゃんと本編を読み切った後、しっかりかっきり原稿用紙四枚以上五枚以内で書き終えた。
文字数稼ぎの裏ワザもなるべく、なるべく使わないように頑張った。
僕よりも早く終わっていた二人に褒めてとばかりに見せびらかす。
「っはー、スズナ君ホント馬鹿可愛い。お馬鹿さんってこんなに可愛い。」
「七草、スズナは俺のだからな。」
「アッ!怒るのやめて、毛程も求めてないから!」
「それはそれで腹立たしいんだけど。」
「理不尽!!!」
女の子に可愛いなんて言われるのは恥ずかしいけど、ナズナの言葉の方が恥ずかしい。
所有権を主張するように後ろから捕まえられてアタフタしていると、職員カードをぶら下げた人が近づいてきた。
「君達、少し声が大きいかな。他にも来てる人がいるからね?」
騒ぎすぎてしまったようだ。
慌てて三人で謝って、本を返却した後図書館を出る。
日は傾き始めているもののまだまだ暑いらしく、七草さんは日傘を構えた。
「あぢぃ~。」
「もうちょっと可愛い声で言ったら?」
「可愛く言ったってオヤジみたいに言ったって、気温は変わんないんだよぉ。」
「それはまぁ、そうかもだけど。」
ナズナも暑いんだろうか、と心配になって握っていた手の力を緩める。
途端に強く握られて、それが離さないと言われてるみたいで嬉しくなった。
「えへへ。」
「っはぁー、ホントスズナ君可愛い。」
「七草。」
「取る気サラサラ無いから怒らんでって!!」
読書感想文も書けたし、僕の恋人と僕の友達は仲良がいいし、今日はとっても良い日だ!
今まで嫌いだった落ちかけの赤い夕陽がちょっとだけ好きになった。
駅のホームで七草さんと別れ、二人で帰路につく。
我慢できなくてご褒美について聞いてみたら、家に帰るまでのお楽しみだという。
どうか運転手さん、最寄り駅まで全部すっ飛ばしてください!!!
そんな思いを込めて案内表示を睨みつける僕は、猟奇的な瞳で見つめられていることにちっとも気が付かなかった。
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