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第5話
「コタツのある温泉宿って、憧れだったんだよな~」
残りの風呂を堪能した大輔は、本間に置かれたコタツにいそいそと足を入れる。
離れの天井は高く、広々とした部屋だ。日が落ちると、シンとした静けさが建物全体を包み、ひっそりと心が落ち着く。
大輔も、テレビをつける気にはならないようだった。
田辺が用意しておいた真新しいTシャツの上に浴衣と丹前を着て、薄いコタツ布団の端を引き上げる。
「全室禁煙だからね」
嫌がるかと思って宿入りするまで言わずにいたことを繰り返す。
大輔は文句を言わなかった。吸えないとわかれば我慢できる。張り込み中は、トイレにも行けないのが警察だ。
「寝る前に一服したくなるかもな。喫煙室ってさ、本館だった?」
「そうだよ。でも、寝る前は、無理かもね……」
含みを持たせて言ってみたが、
「すっげ寒いもんな。山の空気って感じ」
大輔は違うことを考えて答える。田辺は肩をすくめた。
それでも大輔の分も上着を用意してきた。薄手のダウンベストだ。一枚足せば、じゅうぶんに暖かい。
「そうじゃなくて……」
正面に座った田辺はコタツの中でそっと足を伸ばした。指先が大輔の膝に当たる。逃げようとしない大輔は視線をそらす。
「そーゆーこと……言うな」
するなと言わない。だから、田辺は調子に乗った。
許されるままに膝の内側をなぞり、奥へと足を忍ばせる。しかし、肝心なところへは触れずに引いた。
振り向いた大輔が不満げに目を据わらせる。
「もうすぐ食事の時間だね」
言い聞かせるように口にして、くるぶしで内ももをたどった。泉質のせいなのか、大輔の肌はすべすべとなめらかになっていた。気持ちのいい肌触りだ。
何度も行き来させていると、大輔がぶるっと震えた。
「勃ったら教えて。用意をしてもらってる間に、洗面所でするから」
「バカだろ……」
答える大輔の頬が赤く火照り、いつもより感じやすくなっているのがわかる。理由を問いたくなる田辺は、いつも答えを求めていた。
野暮だとこらえても、抱き潰すときには尋ねてしまう。
快楽を得るためのその場しのぎだとしても、大輔から求められている確信が欲しい。
「……んっ」
大輔の身体がビクンと跳ね、ずるっと沈む。田辺の足は股の間に深く入り込み、柔らかな芯の感触がボクサーパンツ越しに感じられた。
ふたりの間の空気に色がつく寸前、玄関からノックの音が響いた。
「すみませーん。お食事のご用意よろしいですか」
予定の時間通りにやってきた仲居の声がかかる。
「はい、どうぞ!」
田辺はすかさず答えた。しかし、
「どうぞじゃねぇぞ」
顔を真っ赤にした大輔が目を据わらせた。
「あら、だいじょうぶですか? 湯あたりしましたか?」
配膳の箱を用いて食事の準備を始めた仲居が目を丸くする。若い女性だ。コタツのテーブルの上を片付け、敷き紙や箸を並べる。
「平気ですよ。俺が恥ずかしがらせただけなので……」
田辺はわざと爽やかに微笑む。仲居のくちびるがポカンと開き、大輔が小さく唸った。
「バカだろ、おまえは。バカ……。真剣に聞かないでください。こいつ、詐欺師ですから」
「そうなんですか」
ビジネスライクに切り返した仲居は、ふたりをサッと見比べる。
「仲が良いんですね」
頬をほころばせて微笑んだ。
「それ、どういう意味?」
大輔がとっさに問い返し、田辺は苦笑いでたしなめた。
「大輔さん。聞かない」
「いや、普通は聞くだろ。普通は」
「野暮だよ」
「おまえが言うか! おまえが!」
ムキになった大輔が声を張りあげ、仲居をさらに笑わせる。
「こちら、本日のメニューです。お飲み物はどうなさいますか?」
ニコニコした表情で手書き文字のおしながきが配られる。飲み物のメニューは別にあったが、大輔は見もせずに生ビールを選んだ。それに合わせ、田辺もひとまずはビールを選ぶ。
しばらくブツクサ言っていた大輔だが、食事が並ぶ頃にはまた上機嫌になった。
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