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主人(前篇)

 (二) 「ご苦労だったね、藤次郎(とうじろう)。疲れただろう?」  呼子笛が周囲を騒がせる中でも何構うことなく歩く影がひとつ。  彼が向かう先に、年は五十ほど。でっぷりとした中背に禿頭(とくとう)の男が立っていた。  男はにたりと笑いながら藤次郎と呼んだ彼の肩に手を回し、ねぎらいの言葉をかける。  藤次郎は何も言わず、ただ形の良い薄い唇を歪め、微笑を漏らした。 「いつもへらへらしてやがった彼奴(あいつ)が俺を置いて主人になるなんて許せなくてねぇ」    男は分厚い唇を歪め、そう言った。  長い睫毛に縁取られた切れ長の目に、高い鼻梁。細い顎のライン。  自分の雇い主である男と共に川沿いにある宿屋に戻った藤次郎は、余計な筋肉ひとつついていない美丈夫な身体を披露する。  でっぷりとした男の贅肉の下に閉じ込められた藤次郎は美しかった。  一糸もまとわないその身が夜具の上で淫らに舞う。  透き通った陶器のような柔肌と相反する漆黒の髪はまるで死に神のようだ。  人斬りとは思えない容姿をしている。  男は目の前にある美しい裸体に目を細め、獰猛な肉食獣と化す。  小さいが、ツンと尖っている乳首にしゃぶりつく。  ざらついた舌が舐め、分厚い唇が吸う。  唾液まみれになった乳首を甘噛みすると、細い腰が夜具から浮く。  藤次郎は両手を伸ばし、自分とは正反対の身体つきをした男に身を委ねる。 「お前は可愛いなぁ」  二つの乳首を交互に弄った男はご満悦だ。  唾液で濡れそぼった尖った藤次郎の乳首をひと撫ですると、男は藤次郎の一物に頬を擦り寄せ、藤次郎が放つ蜜の香りを嗅ぐ。 「ああ、この匂いがたまらない」  男は藤次郎の陰茎を貪りはじめた。

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