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虜。
(三)
男に引きずられるがまま、藤次郎がやって来たのは大きな屋敷だった。
おそらくはこの男の屋敷だろう。男は勝手知ったる様子で門を抜け、屋敷の中を歩く。
立派な門に広い敷地内。男は相当な身分であることは打ち明けられなくともすぐに理解した。
この男以外に人はいないのか。屋敷内はとても静だ。
藤次郎は逃げ出そうにも両手首を縄で縛られ、身動きが取れない。男のされるがまま、一角にある広い座敷に通された。
「お前は誰だ? あそこで何をしていた」
「…………」
問われても相変わらず口を噤んだきりだ。男は藤次郎の顎を持ち上げた。
「どうしても言わない、か」
男と視線を交えるだけで、藤次郎の胸が高鳴る。この状況でいったいどうしたというのだろう。藤次郎はどこか浮き立つような感覚になる自分の心を取り戻すため、男から目を逸(そ)らした。
どうやらそれがいけなかったらしい。男は何を思ったのか、突然藤次郎を押し倒した。
ただでさえ両手首を縛られているというのに、男に組み敷かれ、仰向けにされてしまってはもう何もできない。
「何をっ!」
驚いた時には既に遅く、着物の合わせ目を開かれ、上半身を剥き出しにされた。同時に男の手が藤次郎の下肢を割り開く。
いったい自分は何をされるのか。
わからないからこそ、恐怖が込み上げてくる。
「言わねば吐かせるまでだ」
男は口元に笑みを浮かべると、藤次郎の喉を食んだ。それからゆっくりと鎖骨を通り、乳首のひとつに吸い付いた。同時に、もう片方の乳首もまた、男の伸びてきた手によって摘まれてしまった。
「なにをっ」
いくら自分の容姿が母親譲りだといっても、藤次郎は男だ。まさかこのような目に遭うとは思っていなかった藤次郎は焦る。
「いやだっ、こんなっ!! 離せっ!!」
身体を捩り、何とかこの場を抜け出そうと試みるものの、両腕は縄で縛られ、自由が利かない。そうこうしている間にも、男はより大胆になっていく。空いているもう片方の手が、割り開いた下肢の間にある大きく反り上がった藤次郎の一物に触れた。
「いやあっ、ううっ」
藤次郎の細い腰が跳ねる。
薄い唇に吸われ、あるいは摘まれた両の乳首はツンと尖り、触れられた一物は硬く反り上がっていく……。
「っふ、あっ!」
なんとかしてこの男から逃れようと、前を隠すようにして両足に力を入れるが、男の力は強く、藤次郎はそのまま男のいいように身体を暴かれていく。
「っは……」
男からもたらされる強烈な快楽が藤次郎を襲う。
先端から溢れた蜜が陰茎を伝い、滴り落ちる。藤次郎の目からは同性に組み敷かれるという屈辱と、快楽の涙が浮かぶ。藤次郎がこの行為をどんなに拒絶しようとしても、しかし、男の責めは尚も続く。流れ出る藤次郎の蜜を掬った指が一本、あろうことか藤次郎の後孔へと挿入された。
女ならまだしも、男の藤次郎のそこは当然、そのようにして触れられる場所ではない。――これまでそう思っていた箇所なのに、男は指を挿し込んできた。
「そんっ、あああっ!!」
圧迫感はあるものの、藤次郎の後孔は男の指をすんなり受け入れてしまった。男はどうやらこういった行為に慣れているらしい。それを実感すると、藤次郎の胸に怒りが込み上げてきた。
「離せっ!こんなっ。ふざけるっ、ああっ!!」
このふつふつと込み上げてくる怒りを男にぶつけたいのに、それができない自分が無様だ。そんな藤次郎を余所に、男の指が内壁にある一点に触れた。その直後、藤次郎の身体の芯から熱を持ちはじめる。
言いようのない痺れと射精感が藤次郎を襲う。
「いやっ、なにっ!!」
「ここが悦いだろう?」
薄い唇に微笑が浮かぶ。男の指がいっそう強く、執拗にそこばかりを狙う。
「っひ、ああ……」
押し寄せてくる射精感を堰き止めることができない。藤次郎は嬌声を放ち、身体を弓なりに反らした。同時に、藤次郎の乳首を弄っていたもう一方の男の手が一物に触れた。その拍子に藤次郎は一気に上り詰め、勢いよく白濁を放ってしまった。
「っは、あ……」
「達した、か。どうだ言う気になったか? お前は誰だ? あの男が言うように、本当にお前から嗾けたのか?」
訊ねられても今さらだ。自分の恥ずかしい部分に触れられたばかりか、いくら美形だとはいえ、まさか同性に女のように扱われたのだ。藤次郎にもプライドがある。ここまでねじ曲げられては素直になれるわけがない。
「っつ、ふ……」
藤次郎は口を噤み、黙した。
しかし男の方もそれさえ見通していたようだ。
これ以上、もう辱めは受けようもない。そう思っていた藤次郎だったが、それが大きな間違いだったと気づくのはそのすぐ後だった。
男は何を思ったのか、突然自分の一物を取り出し、一度達したおかげですっかり柔らかくなった藤次郎の後孔へと近づけたではないか。
「何をっ!?」
男が何をするつもりなのかを理解した藤次郎は身を固くする。後孔は排泄する場所で、けっして受け入れる場所ではない。
「いやだっ、やめろっ!!」
拒絶する声は、けれど男の問いに対する答えではない。
「言わぬ、か。吐かねばこのまま貫くぞ?」
男は藤次郎がまだ口を開く気配がないのをいいことに、そのまま身を沈めてきた。
「っは、っひ!!」
男の肉棒が、藤次郎の密口へと侵入し、内壁を掻き分けて挿入(はい)っていく……。
指とは比べものにならない圧迫感に、藤次郎の身体が強張る。同時に、男を加えている後孔が硬く閉ざした。
「いたっ、いやだっ! っひぅううっ!!」
「力を抜け」
男は違うかもしれないが、なにせ藤次郎はこの行為は初めてなのだ。そう言われて『はいそうですか』とすぐにできるわけがない。
藤次郎は首を振り、初めてのこの行為を必死に拒む。しかし男の肉棒は藤次郎がしっかりと咥えているため、引き抜くこともできない。
藤次郎の顔から血の気が引いていく。彼の表情は今や苦痛に満ちていた。
男はそんな藤次郎を宥めるためか、目尻に浮かぶ涙を薄い唇で涙を吸い取ってやると、そのまま赤い唇へと落とした。
「っふ……」
男から与えられた接吻に切なげな声が藤次郎の唇から放たれる。
重なる唇は深く交わり、男の舌が藤次郎の口内へと侵入する。藤次郎は男の舌を口内に招き入れた。
男の舌が、藤次郎の舌を絡め取る。
舌が絡まるたび、淫猥な水音が生まれ出る。
男から与えられる恋人同士がするような甘い接吻に、藤次郎は酔っていく。
強張っていた身体がほんの少し解かれた。
「っふぅ……」
「そう、ゆっくりだ」
力を抜くよう諭しながら、男は藤次郎の一物を扱きはじめた。
「そんっ、だめっ」
ただでさえ、藤次郎はもうすでに達してしまった。それなのに男はまた、藤次郎を責めはじめる。いくら藤次郎を痛みから解放するためとはいえ、これではあんまりだ。
それでも藤次郎の身体は心とは裏腹に快楽を求め、腰を揺らす。
男は内壁にある自らの肉棒を、先ほど藤次郎が感じた一点目掛けて抽挿をはじめた。
「っひ、ああぅう……」
浅く、深く……。絶妙な間合いをもって内壁にあるそこを擦り、藤次郎の快楽を煽(あお)る。
おかげで一度は果て、萎えてしまった藤次郎の一物はまた熱を持ち、淫らな蜜を零しはじめる。
同性に抱かれ、快楽を感じた藤次郎の心は、もう何が何なのかわからない。ただただ腰を振り、男の熱を求める。
今や恐怖を帯びていた表情は消え、頬は紅色に染まっている。目は潤み、喘ぐ唇は絶えず開き、溢れた唾液が喉を伝い、鎖骨を濡らす。
その様は妖艶で美しい。藤次郎は無意識のうちに男を魅了していた。
果てしなく続くように思えた男の責めは、藤次郎の色香によって終わりを告げた。男は肉棒で勢いよく穿ち、自らの白濁を藤次郎の最奥に放った。
「っは、あつい、あつぃいいいっ!!」
男の放たれたその熱が引き金となり、やがて藤次郎もまた、二度目の絶頂を迎えた。
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