2 / 584
嘘?②
「言っておくけど、明日あっくんが出席しないと、パパ、首はねられちゃうから。あ。会社クビって意味じゃなくって、ホントの意味で」
うえ?!ホントの意味ってなに?!母様!
「そうそう。とにかく、青葉が、明日の展示会に出てくれないと、パパ、ホントに打ち首になっちゃうから。もしくは、お手打ちだよ?お手打ち!青葉が明日行かないと、反逆罪でパパ、抹殺されちゃうよ」
「え?!」
「パパを助けてあげてぇ!」
……全く、真剣味が伝わってこないんですけど。母様。
「あの。とりあえず、その展示会?に出ればいい、んですよね?そうすれば、父上は、打ち首にならなくて済むんでしょう?」
「そうそう!とにかく、展示会に出るだけでいいから」
「なによ、パパ!出るだけでいいなんて、なに弱気なこと言ってんのよ!うちのあっくんが、選ばれないわけないじゃない!しかも、候補に選ばれるだけでも、何万石かいただけるって、おばあちゃまが言ってたでしょ?そうなったら、うちの社員さんたちに、臨時ボーナス出してあげてもいいんじゃない?」
「まあ、そうなんだけどね」
「……」
何万石って……。今そんな単位で、日本経済動いてないです、母様。
っていうか、臨時ボーナス?
金?金なんですか?最終的には、金の問題なんですか?
夢なら、もういい加減覚めたい。
赤飯の味もわからず、詳しい話もそれ以上聞けないまま、夕食は終わった。
『ごちそうさま』と言うと、母様が『もうお風呂に入りなさい。今日は念入りに洗うのよ!特におシモ!』とか、言ってたけど、聞こえないふりをして、自室に戻った。
押入れから布団を引っ張り出して、倒れこむように横になった。
「はぁ……」
何一つ、信じたくないけど。
さっきの二人の話を要約すると……。
オレは明日、鎧鏡家の若殿の結婚相手を決めるための"展示会"ってのに、出なければいけないらしい。
いやいや、展示会ってなに?
展示する会、だよね?
そこにオレ自身を"出展"することを許されたって、父上は言ってた。
許されたってなんだよ?
オレが、出展させて欲しくて、仕方ないみたいじゃないか!二科展とかとは、わけが違うんでしょ?
オレ自身を出展するって、どういうこと?
いやいや、でも、あくまで展示する会なんだよね?
そこで、結婚相手に選ばれるかどうかは、わからないってことだよね?
うん!うんうん!
そうだ!そうだ!
とにかく、明日の誕生会に出れば、父上は手打ちにはされないらしいし。
……っていうか!手打ちってなに?ナニ時代?
もう、そんなツッコミ、どうでもいいや。
うちが、他のうちとは、ちょっと違うのかな?っていうのは、薄々気付いてはいたけど。
こんなに、おかしなうちだとは思っていなかった。
家臣とか。
殿様とか。
手打ちとか。
何万石とか。
いやいや。大体ね?まず、男と結婚するってなに?そこでしょ?そこ!殿じゃなくて、姫ならね?もう、どんな子でも文句言わない。オレもう、女の子ってだけで、喜んで、出展でもなんでもしちゃいそうな勢いに、現在なってるけどね?だって、"殿"って、男ってことでしょ?
もう、だって、もう、それ、何もかもが、常識から外れちゃってるでしょ?
いやいや。そもそも、この話、ホントのことなの?
……。
ホント、なの?
ホント……なのかな?
若殿の奥方に選ばれるのが、名誉なこととか言ってたけど……。
息子が、『男の人と結婚します!』なんて言って、名誉なことだなんて言う親、どこの現代日本にいるんですか?母様。おかしいことに、早く気付いて!
いや。いや、もう。とにかく!ホントかどうかも、信じきれてはいないけど。もう、万が一に備えておかなくちゃ!
母様じゃないけど、本当かどうかなんて、明日にならなきゃわからないことは、悩むだけ無駄だ。
父上にも、母様にも、何を言っても無駄そうだし、自分の身は、自分で守らなくちゃ!
母様なんて、結婚相手に決まれば、何万石かもらえるなんて言ってたけど……。
ていのいい、人身売買じゃないですか!それ。
家臣の子供を、無理矢理呼びつけて、結婚相手を決めるだなんて。
どんなヤツなんだよ?その鎧鏡家の若殿って。
自分で、結婚相手も見つけられないようなヤツがトップなんて、鎧鏡家もたかが知れてるよ。
とにかく!
なんとしてでも、展示会を切り抜けて、またここに無事帰還してみせる!
そう決心した時には、もう、4月2日の朝だった。
ともだちにシェアしよう!