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入郭⑦
「あちらの、鎧鏡の敷地をまとめて、我々は曲輪《くるわ》と、呼んでおります」
「はぁ」
お堀の脇の道を走る車内で、向こう側に見えてる鎧鏡家の、長くて高い塀を見ながら『刑務所みたい』って思ってた。
うちを出てから、1時間は走ってる?
朝、ここに来る時は、あっという間に着いてしまったような気がしていたけど、今は何だか、長く感じた。
「あ、あちらの奥に見えて参りましたのが、雨花様がお住まいになる屋敷がある"梓の丸"でございます」
「はぁ」
あちらの奥って言われても、似たような小さな城の集まりで、どれがどれだかわかりませんよ、駒様。
「向こうの一番高いところに見えているのが、今日雨花様がいらした、本丸です。本丸には、若様がお住まいになっていらっしゃいます」
「はぁ」
あいつがね。ふぅん。オレにとっては、どうでもいい情報ですよ、駒様。
「すぐそこに見えているお屋敷が建っている区画が、"三の丸"でございます。お館様と、御台所様が住んでいらっしゃいます」
「はぁ。……えっ?!みだいどころ様って、あいつ……あ!若様の、母親って、ことですか?」
「あぁ、まぁそうですね」
「でも、女人禁制って……」
「あぁ、もちろん、御台様も、男性でいらっしゃいます」
「え?!じゃ、じゃ、じゃあ!」
ずっと気になっていたことを、今こそ聞こう!
「はい?」
「あの!男性が、産むんですか?」
「は?」
「鎧鏡家は、男性が、赤ちゃんを産むんですか?!」
その後。
駒様と運転手さんに、ひとしきり笑われた。
「ふふ。鎧鏡家といえども、そこまでは…ふふ…。ご心配、いりませんよ?雨花様。…ふっ…ふふ…女人禁制といえども、やはり子を成すのは、女性しか出来ぬお仕事ですから」
「え、じゃあ……」
あいつ、ホントは誰から、生まれたの?
「はい?」
「あ……若様の、ホントのお母さんって……」
「はい。いずれお勉強していただく予定でございましたが、今ご説明いたしましょう。若様は、お館様の実の妹君の実子でございます」
「は?」
「お館様は、血縁だけを見れば、若様の伯父上様ということになります」
「……はぁ」
「そのあたりも、おいおい勉強していただかねばなりませんね。本当に、柴牧家殿は雨花様に、鎧鏡家に関するご教育を、何もしていらっしゃらなかったのですね」
「あ……ごめんなさい」
「いえいえ。……腕がなります」
駒様が、にこりと笑った
ひぃ!
ものすごぉく、楽しそう。
大きな門の手前で、駒様が車を止めた。
「さて、雨花様。ちょうどよいので、この曲輪のご説明をさせていただきます。ここから見えるお屋敷で説明させていただきますと……本丸に近いあちらより、『杉の丸』、次が『桐の丸』、その奥が『樺の丸』、桐の丸のお隣が、『松の丸』、そして、一番奥が『梓の丸』と呼ばれる区画でございます」
「はぁ」
まぁ、そんな一気に言われても、覚えきれないけど。
とにかく、オレが住む"梓の丸"は、あいつんちから、一番遠いところってことですね?
「木の名前が付けられた区画には、候補様方が住んでいらっしゃいます」
「はぁ」
候補様方がね。
……ん?!
えっ?!
「駒様!」
「え?はい?」
「候補様方って!」
「はい?」
「候補って、オレの他にもいるんですか?!」
オレ以外にも、候補がいる?!
「ああ、そこもご存知なかったですか。現在、奥方候補は、雨花様も合わせて、5名です」
「ごっ!」
五人?!
「お詠(えい)様、お梅(うめ)様、お誓(ちか)様、雨花様、そして、私、駒……の、5名でございます」
「……はっ?!」
ちょっと待って!今、なんて?
こ、駒様も……奥方候補?!
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