11 / 584

入郭⑦

「あちらの、鎧鏡の敷地をまとめて、我々は曲輪《くるわ》と、呼んでおります」 「はぁ」 お堀の脇の道を走る車内で、向こう側に見えてる鎧鏡家の、長くて高い塀を見ながら『刑務所みたい』って思ってた。 うちを出てから、1時間は走ってる? 朝、ここに来る時は、あっという間に着いてしまったような気がしていたけど、今は何だか、長く感じた。 「あ、あちらの奥に見えて参りましたのが、雨花様がお住まいになる屋敷がある"梓の丸"でございます」 「はぁ」 あちらの奥って言われても、似たような小さな城の集まりで、どれがどれだかわかりませんよ、駒様。 「向こうの一番高いところに見えているのが、今日雨花様がいらした、本丸です。本丸には、若様がお住まいになっていらっしゃいます」 「はぁ」 あいつがね。ふぅん。オレにとっては、どうでもいい情報ですよ、駒様。 「すぐそこに見えているお屋敷が建っている区画が、"三の丸"でございます。お館様と、御台所様が住んでいらっしゃいます」 「はぁ。……えっ?!みだいどころ様って、あいつ……あ!若様の、母親って、ことですか?」 「あぁ、まぁそうですね」 「でも、女人禁制って……」 「あぁ、もちろん、御台様も、男性でいらっしゃいます」 「え?!じゃ、じゃ、じゃあ!」 ずっと気になっていたことを、今こそ聞こう! 「はい?」 「あの!男性が、産むんですか?」 「は?」 「鎧鏡家は、男性が、赤ちゃんを産むんですか?!」 その後。 駒様と運転手さんに、ひとしきり笑われた。 「ふふ。鎧鏡家といえども、そこまでは…ふふ…。ご心配、いりませんよ?雨花様。…ふっ…ふふ…女人禁制といえども、やはり子を成すのは、女性しか出来ぬお仕事ですから」 「え、じゃあ……」 あいつ、ホントは誰から、生まれたの? 「はい?」 「あ……若様の、ホントのお母さんって……」 「はい。いずれお勉強していただく予定でございましたが、今ご説明いたしましょう。若様は、お館様の実の妹君の実子でございます」 「は?」 「お館様は、血縁だけを見れば、若様の伯父上様ということになります」 「……はぁ」 「そのあたりも、おいおい勉強していただかねばなりませんね。本当に、柴牧家殿は雨花様に、鎧鏡家に関するご教育を、何もしていらっしゃらなかったのですね」 「あ……ごめんなさい」 「いえいえ。……腕がなります」 駒様が、にこりと笑った ひぃ! ものすごぉく、楽しそう。 大きな門の手前で、駒様が車を止めた。 「さて、雨花様。ちょうどよいので、この曲輪のご説明をさせていただきます。ここから見えるお屋敷で説明させていただきますと……本丸に近いあちらより、『杉の丸』、次が『桐の丸』、その奥が『樺の丸』、桐の丸のお隣が、『松の丸』、そして、一番奥が『梓の丸』と呼ばれる区画でございます」 「はぁ」 まぁ、そんな一気に言われても、覚えきれないけど。 とにかく、オレが住む"梓の丸"は、あいつんちから、一番遠いところってことですね? 「木の名前が付けられた区画には、候補様方が住んでいらっしゃいます」 「はぁ」 候補様方がね。 ……ん?! えっ?! 「駒様!」 「え?はい?」 「候補様方って!」 「はい?」 「候補って、オレの他にもいるんですか?!」 オレ以外にも、候補がいる?! 「ああ、そこもご存知なかったですか。現在、奥方候補は、雨花様も合わせて、5名です」 「ごっ!」 五人?! 「お詠(えい)様、お梅(うめ)様、お誓(ちか)様、雨花様、そして、私、駒……の、5名でございます」 「……はっ?!」 ちょっと待って!今、なんて? こ、駒様も……奥方候補?!

ともだちにシェアしよう!