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若様といっしょ①

4月5日 晴れ   今日は、編入試験です。 今日のために、本当に寝る間も惜しんで、ここに来た翌日から丸二日間、めちゃくちゃ勉強した。 最初は、奥方にならないよう、手を抜こうと思っていたのに、とにかく、がむしゃらに勉強していた。   駒様が言ってた、オレの行動次第で『柴牧家殿が失脚』という言葉が、オレの脳内を駆け巡っていたからっていうのもある。 だけど。 どっちかっていうとそれよりも……。 編入試験なんざ、ちょろいちょろいって思ってた。 オレが通っていた高校は、偏差値が高い学校だったし。頑張らなくてもどうにかなる……なんて思ってた。 なのに!いざ家庭教師の先生について、勉強させられてみると、ものすごく、どうにもならなそうな感じがしてきちゃって……。 何故か、ものすごく、やる気がみなぎってしまった。 負けず嫌いな、オレのバカ! 神猛学院は、とにかくものすごぉく広くて、大きな学校だった。 同じ敷地内に、幼稚園から大学まである、エスカレーター式の、金持ちの、金持ちによる、金持ちのための学校だった。 編入試験は、無事に終わった、と、思う。 ……多分。 試験が終わって帰ってきてそうそう……って、ついさっきのことなんだけど。 駒様に呼ばれて、"夜伽教育"なるものが、始まった。 「う……」   鎧鏡家に代々伝わる、男同士が……その、駒様曰く"夜伽(よとぎ)"……を、している絵ばっかり描いてある、いやらしぃぃぃ画集を見せられながら、詳しくレクチャーしてくれちゃって……ひいいい! こんなこと……詳しく、知りたくなかったです、駒様!うう。 頭の中に、そのいやらしい画集"春画"の顔が、あのマネキンみたいな若様と、駒様の顔になって、グルグル回っていく。 だって、駒様も奥方候補だって言うなら、あんなこと……。 この真面目そうで、ものすごく大人でカッコイイ駒様が? あいつと、あんなことを?! そんなこんなで、ほっとんど食べられなかった夕食の後、オレの部屋にやって来た駒様が、オレの編入試験の解答を見ながら、溜息をついた。 何故か、すでにオレの編入試験の解答用紙が、鎧鏡家に届けられていたらしい。 駒様!それは、個人情報保護法とかに抵触したりしないんですか? あ、なんかオレ、ちょっと頭良くなってるかも。 「はぁ……雨花様は、英語が苦手とお見受けいたします」 「あ、はい。あの、助詞とか言われちゃうと、何が何だか」 いや、話せるんです。話すことは出来るんですけど……日本の英語教育って、おかしいですよ?文法なんかわからなくても、英語なんか通じるもんです! とか、言い訳しようと思ったら、駒様からのお小言は、更に続いた。 「世界をまたにかける鎧鏡の奥方様ともなれば、英語は話せて当然のものです。それ以外にも、ドイツ語、フランス語、イタリア語など出来ると、なおいいですね。これは、是非とも、頑張っていただかねば」 英語以外に、ドイツ語にフランス語にイタリア語が話せれば? とりあえずオレ……大体、海外で話すことには、困らないくらい、ではあると思う。 父上は、しらつき紡績の社長になる前、ずっと海外事業部にいたから、小さいうちから世界中を連れ回されていたんだ。 小さいうちは、転校ばっかりしてて、大変だった。 でも、その代わりに、気付けばいつの間にか、いろんな国に、たくさんの友達が出来ていた。 もしも、万が一、鎧鏡家に入ってしまったら、もしかしたら……もう、海外の友達のところには……いや、もしかすると、日本の友達のところにすら、遊びに行けなくなっちゃうんじゃ……。 「あ、あの!英語が出来ないと……奥方には、ならなく……あ!いや、奥方には、なれませんか?」 「いえ、そういうわけではございませんが、奥方様ご決定の際、不利にはなるかもしれません。ですのでぜひ頑張っていただいて……」 「……」 よし! よしよし! 英語が話せますなんて、言わないでおこう! それが、奥方になる決定を揺るがすかもしれないのなら。 「けれど、英語以外は、よく出来ていらっしゃいますね。クラスもAクラスで確定だそうです。本当によく頑張られました。」 駒様が、すごく嬉しそうに、ニッコリしてくれた。 「う……」 「はい?」 熱くなった頬を押さえて、下を向いた。 オレがこんな風に、無駄に照れてしまうのは、さっき見せられた『春画』のせいだよ! だって、なにあれ? ……なにあれ! この駒様があんなこと? いや、問題なのは、そっちじゃない! 考えたくもないけど……駒様がっていうより何より、もしかして……オレも……オレも、あいつとあんな、こと? 嫌だぁぁぁぁぁぁ!

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