16 / 584

若様といっしょ④

4月8日 晴れ 今日は、始業式です。 「柴牧青葉です。よろしくお願いします」 「うおおおおお!」 今日からオレの教室になる、2年A組に、ものすごい、地を這うような声が響いた。 な、なに? 男ばっかしかいないってだけでも、威圧感あるのに。 このクラス、頭いいヤツばっかり……の、はずだよね?なに?このノリ。 頭が良いヤツって、おかしいヤツ、多いもんなぁ。 その中でも、あいつは、めちゃくちゃ目立っていた。 三日ぶりに見る、マネキンみたいな"若殿様"。 三日ぶりだけど、やっぱりマネキンみたいなのは、ちっとも変わっていない。 『興ざめだ』って、冷たく言い放ったあいつの言葉が、耳に残ってる。 オレ……人から、あんなに冷たい態度を取られたことなんか、今まで、一度もなかった。 だから、何だか、どことなく……居心地が悪いんだ、きっと。 そんなんで、オレは学校に来るのだって、めちゃくちゃ気まずかったっていうのに、あいつは、オレなんかどうでもいいみたいに、窓際の席で、外を見ていた。 座ってても、みんなより頭一個分、高い。 やっぱりあいつ……色んな意味で、人間離れしてる。 「柴牧は、まだ学校に慣れていない。誰か案内してやれ」 「はい。ボクが!」 マネキンの隣にいたヤツが、スっと手を上げた。 メガネをかけた、いかにも頭が良さそうな感じのヤツだ。 「ああ、吹立(ふきたち)。任せた」 「え?」 ふきたち?! 「ん?」 「あ、いえ」 彼が、吹立、(うたう)くん? その名前を聞いて、ドキっとした。 駒様から、同じクラスにいるのは、聞いていたけど……。 彼が、オレと同じ"候補様"の一人、お(えい)の方様"だ。 「ふっきー!ずりーぞ!」 「そうだ!そうだ!」 「日頃の行いだね」 そう言いながら、お詠の方様は、マネキンに笑いかけて、椅子に座った。 マネキンが、ほんの少し笑ったみたいに見えた。 ……仲、いいんだ? あの屋敷に引越しをさせられてから、一週間。 "側仕え(そばづかえ)"と呼ばれる、オレの身の回りの世話をしてくれる人たちは、10人くらいいて、みんな、すごくよくしてくれる。 中でも、"小姓(こしょう)"と呼ばれる、オレより小さい男の子二人は、なんのためにいるのかよくわからないけど、オレの周りをチョロチョロしていることが多くて、すごく仲良くなった。 ものすごくおしゃべりな"あげは"は、今日から6年生の11歳。ものすごく無口な"ぼたん"は、今日から中学生の12歳だ。 今頃、ぼたん、入学式だな。 あげはは、曲輪の中の情報にものすごく詳しい。で、オレに逐一話して聞かせてくれる。 その内容が、11歳のくせに、ゴシップばっかりで、若様は誰が好きらしいだの、あそこの側仕えとどこの側仕えがデキているらしいだの、そんな話ばっかりだ。 このくらいの時、オレもこんなんだったかなぁ? そのあげはが、現在、一番奥方に近い候補は"お詠の方様"だって、言ってたんだよね。 いや、11歳の言うこと、鵜呑みにしてるオレって、どうかとは思うけど。ワラにもすがりたいって、こういう心境なのかも。 だって、お詠の方様が奥方になれば、オレはうちに帰れるんだから! でも、若殿様とお詠の方様の、仲良さそうな様子を見ていると、あげはのゴシップネタも、あながち嘘じゃないんじゃないの?って思えてくる。 逆に、そんな前情報があったから、余計、そんな風に見えるのかもしれないけど。 いや。だけど、これは……ついつい、笑いがこぼれてしまいそうになった。 駒様は、10歳も年上だし、あいつ、もしかしたら若い方がいいなんて思ってるとしたら、どうしよう……とか、若干心配することもあったけど。 お詠の方様がいれば、大丈夫じゃあん! 変な心配、全くいらなかったぁ! 吹立詠くん!キミがいれば、オレは安泰じゃないか! 三年後の自由は、もうホントに約束されたも同然だ! 応援する!応援するからね!

ともだちにシェアしよう!