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若様といっしょ④
4月8日 晴れ
今日は、始業式です。
「柴牧青葉です。よろしくお願いします」
「うおおおおお!」
今日からオレの教室になる、2年A組に、ものすごい、地を這うような声が響いた。
な、なに?
男ばっかしかいないってだけでも、威圧感あるのに。
このクラス、頭いいヤツばっかり……の、はずだよね?なに?このノリ。
頭が良いヤツって、おかしいヤツ、多いもんなぁ。
その中でも、あいつは、めちゃくちゃ目立っていた。
三日ぶりに見る、マネキンみたいな"若殿様"。
三日ぶりだけど、やっぱりマネキンみたいなのは、ちっとも変わっていない。
『興ざめだ』って、冷たく言い放ったあいつの言葉が、耳に残ってる。
オレ……人から、あんなに冷たい態度を取られたことなんか、今まで、一度もなかった。
だから、何だか、どことなく……居心地が悪いんだ、きっと。
そんなんで、オレは学校に来るのだって、めちゃくちゃ気まずかったっていうのに、あいつは、オレなんかどうでもいいみたいに、窓際の席で、外を見ていた。
座ってても、みんなより頭一個分、高い。
やっぱりあいつ……色んな意味で、人間離れしてる。
「柴牧は、まだ学校に慣れていない。誰か案内してやれ」
「はい。ボクが!」
マネキンの隣にいたヤツが、スっと手を上げた。
メガネをかけた、いかにも頭が良さそうな感じのヤツだ。
「ああ、吹立 。任せた」
「え?」
ふきたち?!
「ん?」
「あ、いえ」
彼が、吹立、詠 くん?
その名前を聞いて、ドキっとした。
駒様から、同じクラスにいるのは、聞いていたけど……。
彼が、オレと同じ"候補様"の一人、お詠 の方様"だ。
「ふっきー!ずりーぞ!」
「そうだ!そうだ!」
「日頃の行いだね」
そう言いながら、お詠の方様は、マネキンに笑いかけて、椅子に座った。
マネキンが、ほんの少し笑ったみたいに見えた。
……仲、いいんだ?
あの屋敷に引越しをさせられてから、一週間。
"側仕え "と呼ばれる、オレの身の回りの世話をしてくれる人たちは、10人くらいいて、みんな、すごくよくしてくれる。
中でも、"小姓 "と呼ばれる、オレより小さい男の子二人は、なんのためにいるのかよくわからないけど、オレの周りをチョロチョロしていることが多くて、すごく仲良くなった。
ものすごくおしゃべりな"あげは"は、今日から6年生の11歳。ものすごく無口な"ぼたん"は、今日から中学生の12歳だ。
今頃、ぼたん、入学式だな。
あげはは、曲輪の中の情報にものすごく詳しい。で、オレに逐一話して聞かせてくれる。
その内容が、11歳のくせに、ゴシップばっかりで、若様は誰が好きらしいだの、あそこの側仕えとどこの側仕えがデキているらしいだの、そんな話ばっかりだ。
このくらいの時、オレもこんなんだったかなぁ?
そのあげはが、現在、一番奥方に近い候補は"お詠の方様"だって、言ってたんだよね。
いや、11歳の言うこと、鵜呑みにしてるオレって、どうかとは思うけど。ワラにもすがりたいって、こういう心境なのかも。
だって、お詠の方様が奥方になれば、オレはうちに帰れるんだから!
でも、若殿様とお詠の方様の、仲良さそうな様子を見ていると、あげはのゴシップネタも、あながち嘘じゃないんじゃないの?って思えてくる。
逆に、そんな前情報があったから、余計、そんな風に見えるのかもしれないけど。
いや。だけど、これは……ついつい、笑いがこぼれてしまいそうになった。
駒様は、10歳も年上だし、あいつ、もしかしたら若い方がいいなんて思ってるとしたら、どうしよう……とか、若干心配することもあったけど。
お詠の方様がいれば、大丈夫じゃあん!
変な心配、全くいらなかったぁ!
吹立詠くん!キミがいれば、オレは安泰じゃないか!
三年後の自由は、もうホントに約束されたも同然だ!
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