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若様といっしょ⑥
4月14日 晴れ
今日は、席替えです。
「雨花様、おはようございます」
「おはようございます」
オレの面倒を見てくれる側仕えのいちいさんが、ニッコリしながら部屋に入ってきた。
側仕えをしてくれる人たちとは、随分仲良くなったと思う。
みんなキレイで、優しい人たちだ。
一番最初の日、下々の者と仲良くするなって、駒様に言われたけど、オレの側仕えの人たちとは、仲良くしても、怒られなかった。
自分の側仕えをしてくれる人たちとは、仲良くしてもいいみたい。
「雨花様、おはようございます。ご朝食の準備が出来ました」
そう言って、側仕えのむつみさんが、ワゴンを押しながら、部屋に入って来た。
「あ、ありがとうございます!はぁ……いいにおい!」
「おはようございます、雨花様。本日よりまた一週間、学校でいらっしゃいますね。月曜日ということで、いつもより精のつくものを作らせました」
更に、メニューを持ったふたみさんが、むつみさんの後ろから入って来た。
側仕えの人たちは、格付け順に、上から『一位(いちい)』『二位(ふたみ)』『三位(さんみ)』…と、続いて、最後の10人目が『十位(とおみ)』さん。
小姓の二人は、また別枠らしい。
本当の名前は、知らなくていいとも教えられた。そんな鎧鏡家のもろもろを勉強するのも、奥方教育だ。
あとは、一般的なマナー講座とか、美しい所作とか……奥方教育は、主に上流階級で生きていくための勉強、のこと、なのかな。
鎧鏡家の歴史を教える先生でもある駒様も、『駒』っていうのは、オレの『雨花』と同じく、あいつから与えられた呼び名なんだそうだ。本当の名前は、教えてくれない。
「わぁ、ありがとうございます!」
ほかほかの白いご飯が、何よりすっごく美味しそう!鎧鏡家の何が良いって、ご飯が美味しいところだよ。
あ、側仕えさんたちが、優しくしていい人ばっかりなのも、いいところだな。
「あれ?あげはとぼたんは?」
「未だ、学校に行く支度をしておりました。呼んで参りましょう」
「はい。ありがとうございます」
小姓の二人とは、朝と夜、一緒にご飯を食べることにしていた。駒様からは、側仕えと一緒にご飯をとるだなんて……って、渋い顔をされたけど。だって、一人より大勢で食べたほうが、楽しいじゃん。
いちいさんたちも誘ったけど、『それは出来ません』って、柔らかい口調で断固拒絶されてしまった。
でもその代わり、小姓の二人はいいですよって、いちいさんが許してくれた。
この梓の丸では、駒様よりも、いちいさんの方が、どうやら力が強いらしい。
「おはようございまあっす、雨花様ぁ」
「あげは、おはよう」
「おはようございます」
「おはよう、ぼたん」
「わあ!今日、朝からすっごいゴチソウですね」
この可愛い二人と一緒にとるご飯は、すごく楽しい。
おしゃべりなあげはと、無口なぼたん。二人は食べ盛りで、もりもり食べていくから、それと一緒に食べていると、オレもついつい食べ過ぎてしまうくらいだ。
この鎧鏡家も、慣れれば案外居心地がいいかもって、最近、思う。
今までの人生、引越しと転校続きだったオレの順応性の高さってすごいなって、自分で関心しちゃうけど。
あいつが、20歳の誕生日に、ふっきーでも、お梅様でも、奥方を正式に決めれば、その日オレは、うちに帰れるんだし。
そう思えば、余計気が楽になって、ここでの生活も楽しめた。
それまで、どうせここにいないといけないなら、少しでも楽しく過ごさないと、もったいないしね。
あの日の"お渡り"のことが、頭をかすめるけど……。
同じクラスだっていうのに、未だに一言も話したことない『鎧鏡くん』の様子を見る限り、もう多分……オレのところに、"お渡り"はない……と、思うし。
お渡りがないなら、鎧鏡家は、ホントに居心地がいいだけかも。
先に学校に向けて出発するあげはとぼたんを見送ると、とおみさんが、たくさんの制服を持ってやってきた。
「雨花様、おはようございます。今日はどのようなコーディネートになさいますか?」
神猛学院の制服は、何種類もあって、その中であれば、どれを着て行ってもいいらしい。
「とおみさんのオススメは、どれですか?」
「おお、雨花様!このとおみのオススメコーディネートで、晴れやかな月曜日を飾ってくださるんですね!」
とおみさんは、すごくオシャレで、かっこいいけど、ちょっと大袈裟なコーディネーターさんだ。
とおみさんが選んでくれた制服に着替えて、送りの車に乗り込んだ。
「いってらっしゃいませ、雨花様」
「いってらっしゃいませ」
見えなくなるまで頭を下げて見送ってくれる側仕えさんたちに手を振って、学校に向かった。
今ではすでに、これがオレの日常になりつつある。
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