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若様といっしょ⑦

学校も、一週間も行っていると、友達も出来て、すごく楽しくなってきた。 あんなに、前の学校のほうが良かった……なんて嘆いていたけど、嘆いている時間が、もったいないもんね。 もうここに通うしかないんだし。だったら、楽しく通ったほうがいいに決まってる。 編入してすぐに、色んな部活からの勧誘の嵐が始まって、どこかに入ろうと思ったのに、『それはダメです』と駒様に止められてしまった。 前の学校では、テニス部にいたから、テニス部に入ろうかと思ったのに……。 どうしてダメなのか、怖くて理由は聞けなかったけど。 そういやぁ、ふっきーも授業が終わったら、すぐに帰って行ってるっけ。 実際、学校から帰るとすぐに奥方教育が待っているから、部活なんてしてる暇、ないっちゃないんだけど。 聞いたことなかったけど、ふっきーとか梅ちゃんも、奥方教育してるのかな? 「せーんぱーい!」 「あ……」 昼休みに入ってすぐ、マネキン若様のところに梅ちゃん……奥方候補、お梅の方様、繁木深英(しげきみよし)くんがやって来た。 梅ちゃんは、近くで見ても、めちゃくちゃ可愛い男の子だ。 小さくて、よく小回りがききそうな、小動物みたい。 あげは情報だと、梅ちゃんだけが、部活をするのを許されているってことだった。 陸上部に入っているらしい。 ものすごく運動神経がいいみたいだから、それも納得なんだけど。 一人だけ特別扱いとか……やっぱり梅ちゃんが、奥方第一候補かも?! 梅ちゃんは、ひとしきり若殿様とふっきーと話して、今度はこっちにやって来た。 「うーかちゃん!」 「どうも」   梅ちゃんは、いっこ下のくせに、ちょくちょくこの教室にやって来る。 ものすごく可愛い上、元気で人懐っこいキャラだ。オレにも、この前突然話しかけてきて、そこからすごく仲良くなった。 毎回この教室に来るたび、必ずマネキンと話して、ふっきーと話して、オレのところにもやって来た。 あげは情報では、あのマネキンが休みの日にどこかに出かける時は、梅ちゃんを連れて行くことが多いらしい。 あげはって一体、どこから情報を仕入れてるんだか……。 「うかちゃん!昨日ね?先輩から美味しいお菓子もらったんだ。うちに食べにこない?」 オレの腕を引っ張って、教室の隅に連れて行くと、そんな話をこっそりしてくる。 まぁ、大声で話せる内容じゃないよね。ここでは、鎧鏡家の話はご法度だ。 「え?駒様がいいって言ったらね」 「えー。じゃあダメかも」 「え?どうして?」 「駒様、ボクには、他の候補とあんまり話さないようにって言うから」 「え?なんで?」 「んん……おしゃべりだからかなぁ」 「え?」 「じゃあ、梓の丸に届けさせる。じゃあねぇ」 「あ、ありがとう!」 梅ちゃんは、教室を出ていくまでに、何人にも声をかけられていた。 明らかに、梅ちゃんと話しながら、ウハウハしているクラスメートたち……。 これぞ、ザ・男子校!って光景だなぁ。 可愛い梅ちゃんを、ハイエナのような目で見ている!……うわぁ。 すごく仲良くなった同じクラスの『田頭(たがしら)』が、梅ちゃんは先輩たちから人気が高いって、教えてくれた。 人気が高いって……男子しかいないって言うのに。順応性の高いオレも、未だにそのノリにはついていけない。 人気が高いけど、あの鎧鏡くんのお気に入りみたいだから、誰も手を出せないんだって話も、教えてくれた。 "あの"鎧鏡くんのお気に入り、ね。 みんなの落胆っぷりはわかるけど、オレには嬉しくて小躍りしたくなる情報だ。 確かに、梅ちゃんの可愛さは異常だし。 あのマネキンが、気に入るのも納得! ……って。そんな小躍り情報に、ずっと小躍りしていたいんだけど。実はオレ。朝からずっと、気が重かった。 「はぁ……」 「どうした?」 目の前で、昼ご飯のパンをかじりながら、田頭がそう聞いてきた。 「いや」 あいまいに、ごまかした。だけど、実際は、ものすごくドキドキしてる。 今日、このあとのホームルームで、始業式から変わらず出席簿順だった席の、席替えをすることになっているからだ。   神様!どうか! どうか、マネキンとだけは、近くなりませんように! 窓際の一番後ろ、マネキン若殿様の席をチラリと窺った。梅ちゃんと話した後、今は、どこかに出ているみたいだ。マネキンは、教室の中にはいなかった。 「はぁ……」 「大丈夫か?」 「あ、うん。大丈夫」 ああ、ホントに、あいつとだけは近くなりませんように! 今までは、あいつと随分離れた席だったから良かったけど。 だって、未だにオレ……あの夜から、あいつと一言も話してなくって……。 ものすごおおおおく、気まずいんだよおおお! ホントに神様がいるのなら、この願いだけは、どうか叶えて! お願い!

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