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若様といっしょ⑧

くじ引きによる席替えは、あっという間に終了した。 クラスが24人って、少人数だからだろうけど。 オレがひいたくじに、書かれていた番号は『8』。 一番窓際の、一番後ろの席の隣だ。ついさっきまで、ふっきーが座っていた場所で、今までマネキンが座っていた席の隣。 ってことは……よし! また同じ席になるなんて、そんなミラクルあるわけない! あいつが、隣になることはないだろう。 ふう……。 ふっきーは、あいつに手を振って、席を移動して行った。 なのに、あいつはまだ前と同じ、一番窓際の一番後ろの席に座ったままで……。 また、のんびり外なんか眺めちゃってるし。 ちょっと!早く、移動しろよ!オレが移動できないじゃん! 「どうした?柴牧?」 「え?」 担任に声を掛けられて、ふと振り返ると、オレ以外はみんな着席していた。 ……え? え?若様の、新しいお席は……どこ、ですか? 「柴牧、8番か?」 「あ、はい」 「早く座れ」 担任に促されて、8番の席に座った。 「……」 「……」 え?こいつの席は、固定……なの? 隣のマネキン若殿様は、頬杖をついて、外を眺めたままだ。 たいがいこのポーズだよ。ホント、マネキンみたい。 ずっと、そっち見てればいいのに……。 いや!気まずく思う必要なんかない! 今、隣のこいつは、『若殿様』ではなく、ただのクラスメイトなんだから!駒様が、そういう風に接しなさいって、言ってたもん! そうそう。あんな夜のことは、別世界の話だ!別世界! いや!でもだって……あのお渡りの夜が、同じ世界の話としてもだよ? よくよく考えたら、オレが冷たく扱われる理由、なくない?興ざめしたの、あいつの勝手じゃん! そんなの、オレのせいじゃない!逆に、オレが怒ったっていいことじゃないの?急に、あ、あんなこと、しやがって! そうだよ!なにビビってんだよ!オレの小心者! 「よし。新しい席も決まったし、しばらくこれでいくからな。今から配るのは、修学旅行の希望調査書だ。どこへ行きたいのか希望を書いて、提出しろ」 担任が、手に持っていた紙をピラピラさせている。 修学旅行か。転入してすぐなのに、修学旅行って言われても、いまいち気分は盛り上がらないけど……。 配られた用紙には、ずらりと国の名前が書かれていた。 は?修学旅行って、海外選びたい放題ですか? ホント、金持ち学校なんだなぁ、ここ。 うーん……イタリアあたりがいいかなぁ。 イタリアに丸をつけようと、シャープペンを出したけど、芯が出ない。 ……あれ? 新しい芯を入れようと、芯ケースを探したのに、ペンケースに入っていない。 ……あれ?忘れた? 「あ……」 さっきまで隣に座ってた、さっきーにだったら、気軽に『ちょうだい』って言えたのに。 いくら気まずくなる必要ない!なんて思っても、隣のこいつに、『シャープペンの芯ちょうだい』なんて、言える雰囲気、オレには作れそうにない。 かと言って、隣のこいつを無視して、前に座ってる本田くんに、『ちょうだい』って言うのも、逆隣の長瀬にお願いするのも、ものすご〜く不自然な気がするし……。 うわぁ……どうしよう。 「どうした?」 隣のマネキンが、小さい声でそう言った。 「え?」 え?オレ?こいつ、オレに話しかけてんの? 信じられなくて、キョロキョロしたあと、自分を指差すと、ほんの少し口端を上げて、もう一度マネキンが『どうした?』と、聞いてきた。 「あ、えと……シャープの芯、忘れて、きちゃて……」 「使え」 若殿様は、シンプルな黒のペンケースから、シャープペンの芯を取り出して、オレにケースごと渡してきた。 え?あれ?それは……いいヤツキャラがするようなこと、なのでは? 「あ、ありがとう」 ケースから一本、芯を取り出して、マネキンに返そうと横を向いたら、頬杖をついたマネキンが、外じゃなくって、オレを見ていた。 「あ……」 なんで、か、言葉につまった。 近くで見ると、ますます日本人離れしてる、顔。 あんまり表情は変わってないけど、何だか……ちょっと、嬉しそうに見えて……。 「……ありがと」 礼を言いながらケースを渡すと、受け取ったマネキンの指先が、オレの指に触れた。 オレが、瞬間的に手を引っ込めると、マネキンは、ほんの少し眉を寄せて、またすぐに、なんの感情もない顔になった。 「……」 オレの礼の言葉には、なんの返事もないまま、マネキン若殿様は、また外を眺め始めた。 「……」 こいつ……何考えてんのか、よくわかんないけど。 実は、いいヤツ?だったり、する?のかな? ……。 いやいやいや! シャープペンの芯一本もらったくらいで、何ほだされようとしちゃってんの?オレ! だけど……。 芯をくれるってことは、だよ? オレのこと、別に……怒って、ない……のかな? ちょっと……いや、だいぶ……安心しちゃったりしてる?オレ。

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