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若様といっしょ⑨
席替えの翌日から、授業らしい授業が始まった。
隣の『鎧鏡くん』は、たいがい外を見ている。
こいつ……こんなんで、勉強とか、出来るのかな?実は、すっごいアホだったりして。
いや、そんなんだったら、何だか親近感がわくかも。
だけど、先生に指されれば、授業なんか聞いてなさそうだったのに、的確に答えたりする。
え?見た目と常識だけじゃなく、こいつは頭も、人間離れしてるのか?
いやいや、もともとA組は、頭がいいヤツばっかりのクラスなんだった。そうそう。良くて当然だ。
あ!でもでも、走ってるこいつ、見たことない!
こんな背が高くて、スタイル良さそうなのに、実は、めちゃくちゃ足が遅かったりして!
そんなんだったら、可愛げがあるかも!
だけど、5月の体育祭に向けた50メートル走のタイム計測で、あいつがクラスで1位だったと、先生が発表した。
え?なに?この、オールマイティキャラ……。
なんか、感じ悪!
それに比べて、オレの50メートル走のタイムは、24人中18番目。
こんな金持ち学校のヤツらが、運動神経いいわけないとか、思ってた。うわぁ……前の学校では、どっちかっていうと、オレ、足が速いほうだったのに!
何だか、ここに来てから、オレのプライドはどんどんズタズタになっているよ、はぁ……。
「ばっつん!お昼食べよう!」
オレの学校でのあだ名が、『ばっつん』で固定された頃、オレは感じが悪いと思っていた『鎧鏡くん』と、まずまず話せるようになっていた。
なんでかって、オレの教科書が、まだ届いていなかったってこともあり、一週間、『鎧鏡くん』に、教科書を見せてもらってたからって言うのが、大きな理由かも。
ん?いや。オレが、先生に当てられてわからなそうな時に、こっそり教えてくれたりしたからか?
いや、三日連続で消しゴムを忘れた時、新しい消しゴムをくれたからかな?
そういやぁ、下駄箱で上履きに履き替えてる間に置き忘れた弁当を、持ってきてくれたこともあった!
んん……。
なんやかやで『鎧鏡くん』は、無表情ではあるけれども、親切なヤツ、なのかも。
「今日も、お重弁当?」
「うん」
教室の真ん中あたりの席で、四人でお昼を食べ始めた。
同じクラスで仲良くなった、田頭と、サクラと、かにちゃんと、だ。
毎朝、梓の丸の食事担当、ふたみさんが持たせてくれるお重弁当は、すっごく美味しい。
たいがい田頭が、オレの弁当をつついて、いつも半分は食べられてしまうような気がするけど。
まぁオレ、もともと食は細いし、いいんだけどね。
残していったら、ふたみさん、悲しむだろうし。
「あ。珍しい」
サクラが、後ろのほうを見て、小さくそう言った。
「え?」
見ると、そこにふっきーと若殿様が二人で、仲良くお重を広げていた。
たいがいいつも、昼はどこかに行ってしまうことが多い二人が、教室でご飯を食べているなんて、確かに珍しい。
「あの二人、どんな話してるんだろ?」
「ホント。ふっきーはまだしも、がいくんは、どんなことに興味あるのか、未だにわからん」
「……」
確かに。同じ敷地内に住んでるけど、オレも家でのあいつのこと、なんっにも知らない。
相変わらず、お渡りもないしね。
ま、それは、オレにとってはいいことなんだけど。
「今後の日本経済について……とかじゃないのか?」
「ぷはっ!」
かにちゃんの言葉に、吹き出してしまった。ありえそう!
昼を食べ終えたらしい若殿様とふっきーが、席を立った。
サクラが、横を歩いて来たふっきーの腕を掴んで止めた。
「ねぇねぇ、ふっきー」
「ん?」
「ふっきー、がいくんとどんな話してるの?」
「え?……普通の話」
「がいくんって、普通の話、出来るの?」
サクラの問いに、ふっきーが笑った。
「出来るよ。ねぇ?雨花ちゃん?」
「え?」
そんなことオレに振られても……。
「あ、そういやぁ、どうしてばっつんが"うかちゃん"なの?」
どあっ!そうだよ!ここでその呼び名は駄目だよね?
「前の学校で、そう呼ばれてたって聞いたから。ね?雨花ちゃん」
「あ、う…うん!」
うわぁ。つるつる嘘がつける人なんだ、ふっきーってば。
オレには、無理だなぁ。あんな時、すぐにワタワタしちゃうもん。
「え?そうなの?ばっつんじゃなくて、うかちゃんのほうがいい?っていうか、どうしてうかなの?」
「え?」
それは、名付け親の鎧鏡くんにでも聞いてみて。
……とは、言えない。
『オレにもよくわかんない』そう答えると、そのまま、その話は終わった。
雨の花と書いてうか……か。
あの日、ずぶ濡れだったオレへのあてつけに付けた名前か?とか、思ったりしてたけど。
しばらく隣に座ってみて、表情の動かないマネキン顔をしてるけど、『鎧鏡くん』が、そんなヤツじゃないっていうのは……もう、わかってた。
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