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三歩進んで五歩下がる①

5月20日 くもり 今日は、体育祭です。 暑くもなく、寒くもない、絶好の体育祭日和。 今日は、神猛学院高等部の体育祭だ。    「ひゅー!あおばっちゃーん!」 「かわいいー!」 「柴牧せんぱーい!」 入場行進をするオレにかけられる、"黄色い"とは程遠い声援……。 この学校に入って、何故か男にモテるようになった……気がする。 前の学校では、さすがに、男に告白されるなんてことはなかったよ? でもここに入ってから、あんな風に声をかけられたり、手紙をもらったりなんてことが続いていた。 最初はさ、神猛は男子校だし、多少のホモは、多めに見るしかない……とか思ってたんだけど。 でも、このあからさまなホモ共は、一体なんなの? 一歩学校の外に出れば、世界には、女の子が溢れてるだろうが!……お前らには! オレには許されてないけど!許されてるヤツは、そっちに行け!そっちに! こっちは、のんきなお前らとは違って、ほんまもんの危機に晒されてるっていうのに。 オレがどれだけの期間、間近で女子を見ていないと思ってるんだ!もう、おばあ様でもいいから、女子を見せて! なんか、見当違いな怒りもこみ上げてくるってもんだよ! 「がいけいせんぱーい!」 「きゃあ!」 きゃーって……。 あいつ、無表情のくせに、人気あるんだな。まあ、あれだけ見た目がカッコよければ、当然か。 いや、しかも、勉強も出来るし、運動神経もいいと来てる。ん?面倒見いいとこもあるか。 問題なのは、性格の歪みと一般常識のなさってだけで。 いや、そこが一番の問題なんじゃないか! はぁ……あいつにキャーキャー言ってるヤツと、この立場、交代してやりたい。 「ばっつん、何位?」 80メートル走を走り終わると、カニちゃんが、オレの肩に腕をまわしながら聞いてきた。 「聞くなよ」 見てたくせに。手の中にあった『6位』の紙を見せた。もちろん、6人中6位って意味だ。 もう、ホント、オレ今までこんなことなかったのになぁ。桁違いの金持ちって、何でも出来るものなの? 特にA組のヤツらって、たいがい何の授業でもそつなくこなしちゃってさ。 でも、そんななのに、性格的には、みんなどっかおかしなヤツばかりだと思う。 この目の前にいるカニちゃんなんか、やっぱり何でもそつなくこなす、一見爽やかそうなイケメンだけど、その実、アイドルオタクのガチゲーマーだし。 「ばっつーん!オレも6位だよー!」    田頭が、6位の紙を見せながら歩いてきた。 こいつは案外、性格もいいし、総合的に見たら、あの『鎧鏡くん』より、いい男かもしれない。 政治屋一家の三男の割に、暴走族まがいの集団に所属するくらいの、バイクきちがいって点を気にしなきゃね。 「先頭集団で、だろ?」 田頭は、足も速い。 ちなみに、田頭が走った第1組の1位は、あの『鎧鏡くん』だった。 「ボク、2位!」 サクラが、満面の笑みで走ってきた。こいつは、本当に可愛い顔をしている。そういった対象として、先輩だけでなく、後輩からの人気も高いみたいだ。 でも、ものすごく天然で、不遠慮なヤツだ。思ったことを、すぐ口にする。 「最後尾グループで、だろ?」 サクラは、運動神経が残念なヤツだ。その点、ものすごく親近感を覚える。いや、だから、オレは運動神経は悪くはない!……と、思ってたんだけどなぁ。 ホントここにいると、今までの自分の価値観、全て変わってしまいそう。 昼休みが終わってすぐに始まった『棒倒し』は、全学年のクラス対抗っていう、なんだかすごいものだ。 どう考えたって、一年生が不利だと思うけど、そこらへんは毎年、容赦ないみたい。 体重が軽いという理由で、オレは攻撃チームに回された。 攻撃チームの指揮をとるのは田頭で、まずはやはり、一年を狙おうという話になっていた。 ピストルの合図で、一斉に一番近い、1年A組をめがけて走って行った。 棒の上についている"旗"を、何本取れるかで、勝敗が決まる。   軽いオレを、下から皆が押し上げた。オレは、棒を守っている一年生たちを足がかりに、棒のてっぺんを目指した。 旗に手がかかった瞬間、下から足首を引っ張られた。思い切り引かれて、バランスを崩し、『あっ!』と思った瞬間、掴まっていた棒から手が離れて、後ろに倒れていく感覚に、瞬間的に冷や汗がドッと出た。 うわっ!!落ちる! そう思って、頭を守ろうとした瞬間、誰かに抱きかかえられていた。 「うっ?!」 ゆっくり目を開けるとそこに、『鎧鏡くん』がいた。 『鎧鏡くん』は、オレを抱きかかえたまま、人の群れから外れて、安全そうな場所に、オレを下ろした。 「無茶をするでない」 「あ……」 周りの歓声が、すごく……ヒトゴトみたいに、聞こえてた。 「そこにおれ」 そう言いながら、すぐに競技に戻って行った『鎧鏡くん』の足から、ダラダラ血が出てる。  「ちょっ!」 え?あいつ、なに?あの流血! もしかして、オレを助けた時に? 痛くないの?! 血が出てるって言いに行こうと思ったら、ふっきーが『鎧鏡くん』に声を掛けたのが見えた。 血が出てる足を、ふっきーが指さしてる。 「あ……」 ふっきーが、『鎧鏡くん』を引っ張って、保健室の方に向かって行くのを、ただ、見送った。 なんか、あれ? ちょっと……あれ? 気分的に、何か……オレ、おかしい。 ……何が?

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