23 / 584
三歩進んで五歩下がる②
棒倒しは、思った通り、三年生の勝利で終わった。
オレは、棒倒しが終わるやいなや、保健室に急いだ。
いや。あの二人の邪魔をするつもりとか、そんなんじゃなくて……。
もしかすると、あいつのケガが、オレのせいなのかもしれないって思ったら……すごく、気になって。
だってこのあと、あいつ、リレーも出るはずなのに……。
走れなかったら、どうしよう。
保健室のドアを開けると、ふっきーが、『鎧鏡くん』の足を、消毒しているところだった。他には、誰も見当たらない。
「あ」
「あれ?雨花ちゃん、どうしたの?ケガした?」
「あ、ううん!なんでも、ない」
せっかく声を掛けてくれたふっきーに、ぶっきらぼうにそう言って、そのまま保健室を飛び出してしまった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
別に……何、逃げてんだよ?オレ。
何か、あそこにいたら、いけないような気がしちゃって。
すごく……ドキドキしてた。
何しに行ったんだよ?
だって、あのケガ、オレのせいだろうし。だから、謝りたくて……。
なのに、何だかわざわざ、二人の邪魔しに行ったみたいになっちゃった気がして……。
余計、気分的に、なんか……。
なに?これ。
そのまま、何だか戻る気になれなくて、遠回りをするように学校の周りを歩いていた。
体育館裏に入ったあたりで、後ろから声を掛けられた。
「あれ?あおばちゃん!」
「え?」
振り返って見ると、知らない顔だ。でも、この体操服は、三年生、だよね?
「裸足でどうしたの?ん?」
「あ……」
棒倒しをしたまま、保健室に向かったから、そう言えばオレ、裸足だった。そう思ったら、急に足の裏が痛くなった。
「足、痛いんじゃない?」
「え、いえ。大丈夫です」
「オレが、抱っこして連れて行ってあげようか?」
「え?いえ、結構です!」
「遠慮はいらないよ?」
そう言いながら、三年生が近付いて来た。
え?ちょちょちょ!ちょっと!冗談やめて。
「や、いや。ホントに結構ですから」
歩き出そうとしたら、手首を掴まれた。
「ちょ?!」
「そんなこと言わないでさ。オレ、あおばちゃんが入ってきた時から、ずっと可愛いって思ってたんだよね」
「っ?!」
き……気持ち悪っ!
掴まれた手首を振りほどこうとするのに、強く掴まれて、離せない。
「離してください!」
「オレと付き合ってくれるならいいよ?」
「は?」
掴まれた手首を強く引かれた。
うわっ!こんなヤツの胸に飛び込んじゃう!と、思った時……。
「それは、いけません」
そんな声がして……。
「ぎゃっ!」
「え?」
オレの手首を掴んでた先輩が、オレの視界から消えた。
え?
ふと見ると、地面に転がっている。
「え?え?!」
「大丈夫でございますか?雨花様」
倒れている三年生のすぐ脇に、片膝をついた黒尽くめの男が、頭を下げてそこにいた。
「え?!」
いや、誰?!
「そちは、隙だらけだ」
後ろから声がして、驚いて振り向くと、オレの後ろには、いつの間にか『鎧鏡くん』が立っていた。
え?保健室での治療は?え?ふっきーは?
え?それより、さっきの人、誰?
黒尽くめの男を確認しようと振り返ると、もうそこには、誰もいなかった。
え?……え?どういう、こと?
「このように、襲われそうになるなど、そちに隙がある証拠だ」
「は?」
「そちは、余の嫁候補。余のものだということを忘れるでない」
「な……」
「そちが、余の嫁候補らしいことが何も出来ない役立たずだとしても、そちは余の嫁候補だ。余以外の者にうつつを抜かすようなことがあれば、即刻手打ちに致す。そのつもりでおれ」
な……んだよ?それ。
「戻るぞ」
「……やだ」
先を歩き始めていた『若殿殿』を、睨みつけた。
「なに?!」
ゆっくり後ろを振り向いた若殿に、もう一度ハッキリ『やだ』と言った。
ものすごく……ムカついていた。
『役たたず』って、何だよ?!
「自分が何を申しておるのか、わかっておるのか?」
「わかってるよ!オレがうつつを抜かしたってなんだよ?!あっちが勝手に寄って来たっていうのに!」
「そちに隙があるからだと言うておる」
「隙って何だよ?!隙って!……嫁候補らしいことが何にも出来ない役たたず?オレを役たたずにしてるのは、お前だろ?!家臣を使いこなすのが殿の仕事じゃないのかよ!オレが嫁候補として役たたずなら、お前は殿として無能だ!それに……オレはお前のものじゃない!オレはオレのもんなんだよ!」
そのまま、あいつの顔も見ないまま、足の裏が痛かったけど、思いっきり走って、教室に帰ってきてしまった。
ものすごく……腹が立った。
『役たたず』
その言葉が、胸に刺さってる。
ともだちにシェアしよう!