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母様といっしょ④

「あ!あの!ごめんなさい!あいつの……あ!いえ息子さんのこと……そんな風に……あの!あいつ、いや、鎧鏡くんは、色々出来るし……すごい人で……」 だけど、性格はどうかと思うけど。 こんな優しそうな御台様に育てられたくせに、どうしてあんな風になっちゃってんの?あいつ。 「ふはっ!いいよ、『あいつ』で。……あの子のこと、そんな風に扱ってくれる人もいるんだね」 シロを撫でていた御台様は、すっと立って、今度はオレの肩を、ポンポンと軽く叩いた。 「え?」 「千代……あ、千代って、(すめらぎ)のことなんだけどね。……千代は、鎧鏡のトップになるためだけに育てられて……っていうか、主に育てたのは私なんだけど……。あの子は、本当に、組織のトップとしては適任だと思うんだ。だけど……その分、一人の人を幸せにする能力が、劣っているような気がして、仕方ないんだ」 「え?」 御台様は、大きく溜息をつきながら、オレの向かいの椅子に座ると、ハーブティを一口飲んだ。 「それでもね。去年、お詠様とか、お梅様が候補に入られて、一緒に神猛に入って、それまでとは比べ物にならないくらい、普通の人との接点を持つようになって……少しは人らしくなったと思ってたんだけど……。そんな風に、雨花様を傷付けただなんて……本当に、ごめんなさい」 御台様が、オレに頭を下げた。 「いえ!いえそんな!頭を下げないでください!」 「あの子が、そんな風に人を傷付けてしまったなんて……教えてもらって良かった。雨花様の心の傷は、私が謝っても、癒えないとは思うけど……それでも……本当にごめんなさい」 「いえ!オレこそ、ごめんなさい!こんなこと、御台様に聞かせるような話じゃ……」 御台様を責めたかったわけじゃないのに。 でも、結局オレの話は、こんなに優しくしてくれた御台様を、苦しめてしまったんだ。 「あの、本当にごめんなさい!御台様を、責めたいわけじゃないのに……ただオレは……」 ただ、わかってくれる人が欲しかっただけなんだ。 それだけのために、御台様を傷付けてしまった。 あいつのこと、人を傷付けてひどいなんて言ったのに、今のオレは、あいつとちっとも変わらないじゃないか。 御台様は、困った顔で微笑んだ。 「雨花様。あの子の『母親』として、ちょっとだけ、言い訳させてもらえないかな?」 「え?」 御台様は、ダイニングテーブルの上で、組んだ手に顎を乗せると、また大きく溜息をついた。 「あの子が、どうしてあんな風なのか……雨花様に、わかってもらいたいんだ」 『わかってもらいたい』っていう、気持ち……今のオレには、痛いほど、わかる。 「はい」 テーブルの上に置かれていた腕を、膝の上に正して『あのね』って、御台様が話し始めた。 淹れてもらったハーブティのおかげなのか、このほっこりする御台様のおかげなのか、はたまた、そこで寝そべっているシロのおかげなのかはわからないけど……。 さっきまで、生きるだ死ぬだなんて言って森を走っていたオレが、ものすごく、昔のことみたいに思えるくらいには、気持ちが落ち着いていた。 御台様になら、わかってもらえるんじゃないかと、思ったように、御台様の話なら、オレにも理解出来るんじゃないか……と、思う。 オレも、姿勢を正して、御台様の話に耳を傾けた。

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