40 / 584

慣れる?③

ご飯を食べながら、オレの目の前で、ずうううっと、ニヤニヤニヤニヤしているあげはが、さっきから何度も、いちいさんに怒られていた。 『雨花様が食べづらいでしょう!』って。 いや。 はい。 ものすんごく食べづらいです。 ああ、オレ……みんなに嘘をついているみたいで、ものすごく苦しいよ。 うおおおおお!あげはは、そんなニヤニヤしちゃってるけど、オレ、ヤってないんだってば!どうしたらいいの?うう。 「はぁ……」 「雨花様?」 あげはが隣で、納豆をかき混ぜる手を止めて、オレを呼んだ。 「ん?」 「ため息とかついちゃって……体、お辛いんですか?」 あげはは、オレを見ながら、相変わらずニヤニヤしている。心配してくれてるわけじゃないんだね?あう……。 「う……早く食べないと、学校に遅刻するよ?」 「はあい」 あげはは、ちょっと口を尖らせると、また納豆をかき混ぜ始めた。 あげはは、オレがあいつとヤったと思ってるんだよね? え?っていうか、どんなことしたと思われてんの?オレ。 オレ……11歳で、あんな春画の世界みたいなこと、知ってたっけ? 保健体育で習ったの、その頃だった?え?そうだっけ? いや……でも、男同士でそんなこととか……そんな世界は知らなかったよ!うおおおお!まだこんな可愛いらしいあげはに、悪影響が!   「はぁ……」 一人で悩んでるから、何だか思考がおかしな方向にいってるんじゃないの?誰かに相談出来たら、ちょっとは楽かも。 でも、誰に相談出来るっていうんだよ?こんなこと。 あ!ふっきーとか梅ちゃんなら、同じ候補だし! いやいや。そこに相談するのは、おかしな話だよね? って、あれ?一体オレ、何を悩んでるんだっけ?ああもう!何が何だか、わけわかんない。 え?……っていうか。あんまり考えたことなかったけど。 皇って、ふっきーとか、梅ちゃんと……あんな、春画みたいなこと……してるって、こと? 「はぁ……」 ため息ばっかり出てくるよ。 「やっぱり、体がつらいんですか?雨花様」 「いや!え、えっと……だ……」 『大丈夫』って言うのも、おかしくない? 「だ?」 「はぁ……」 「それとも、何か悩んでるんですか?」 「へ?うーん……」 悩んでる?悩んでるの?オレ。 悩んでるっていうか……いや、あいつが、誰とナニをどうしてようが、別に、あいつの勝手だし。 って、え?あれ?オレ、そんなことで、悩んでたんだっけ?   あいつ……候補は、ここにいればいいって言ってたくせに、『オレのすることに慣れろ』とか、言って……キス……とか、しやがって! 別に、いるだけでいいなら、そんなこと……慣れる必要とか、なくない? オレが、あの程度で泣いたから渡れないとか、あいつは言ってたけど。 だって、泣くようなことを、あいつがするからじゃん! あいつが、あんなこと……しなきゃいいんじゃん。 ……。 あいつ……オレのこと、どうする気? っていうか、みんな喜んであいつと、春画みたいなこと、したがってるの? ……。 そもそも奥方教育されてきた候補って、なに? 親からどんなこと教えられてきてるの?あいつと結婚するのが、当然って教えられてきてるってこと? だったら、喜んで……する、よね? うちの、柴牧の母様だって『柴牧家から奥方様が出たらすごい名誉なこと』とか、言ってたし。 鎧鏡家の家臣さんたちからしたら、あいつと結婚するなんて、ものすごく嬉しいこと、なの? 「はぁ……」   でも、だからって、オレには、16年間培われてきた常識ってもんが! だってオレは、ついこの前まで、普通にお嫁さんをもらって、子供を作ってって、思って生きてきたんだよ? 父上の跡を継いで、柴牧家を守って行こうって、そう思ってたのに。 それなのに……なんでオレが、嫁なんだよ! ああ……春画が脳内をチラついてる。 うう……。 名誉な、こと? ……。 いや!やっぱり、いやだって! でも……あいつのすることに慣れなきゃ『夜伽の実践教育をすることになる』とか、言ってたし! ってか、なにそれ?!夜伽の実践教育ってなに?! え?ホント……それは、ホントなに?! 「うおおおおお!」 「うわっ!大丈夫ですか?雨花様?」 「あ、ごめん」 これが、落ち着いていられますかってーの! 「雨花様?ボクで良ければ、話を聞きますよ?」 「え?ホントに?」 はっ! 11歳のあげはに、助けを求めようとしてしまっていた! どれだけオレ、切羽詰ってるんだよ! 「何を悩んでるんですか?雨花様」 「う、え、いや。別に」 「あ!もしかして、ヨトギの話ですか?」 「うわあああああああ!」 「やっぱりそうなんですね?」 「あげは!……夜伽なんて、その……知ってるの?」 「知ってますよ!え?もしかしたら、ヨトギがうまくいかないんですか?」 「なっ!」 なんつうことを! え?ちょっと待って! 夜伽がうまくいかないってナニ? 逆に教えて! 「ヨトギがうまくいかない候補様は、ヨトギの先生が来て、オシオキされるって聞きました。もしかして、オシオキされるんですか?雨花様」 「うえぇっ?!」 おしおき?! 「やっぱりそうなんですか?あ!聞いたところによると、駒様は、そのヨトギの先生のお弟子さんで、ものすごくヨトギがお上手なんだそうですよ?」 「えっ?!」 まじで?! 「だから若様は、駒様のところへのお渡りが、一番多いんだそうです」 だからってなに?だからって! 夜伽が上手ってなに? だからってなに? ぎゃああああ!それより、あげは!11歳でしょ?!そんなこと!そんなことー! 「あげは!ぼたん!もう行かねば間に合いませんよ!」 「あ。はあい!」 ああ!いちいさん!いいところで! ……あの駒様が、夜伽上手? ああ、春画が! 春画が……もう、ぐるぐるぐるぐる……。 駒様と、皇の顔になって、ぐるぐるぐるぐる……。 うおおおおおお! って……またオレは、11歳の発言に、何をそんなに動揺してるんだ! でもだって……ホント、なの? 『オシオキ頑張ってくださいね!』と、ニッコリ手を振りながら、あげはは学校に行ってしまった。 うおおおおおお!

ともだちにシェアしよう!