41 / 584
慣れる?④
朝食を終えたところで、駒様から『勉強ルーム』に呼び出された。
う。
まともに、駒様の顔が見られない。
まさか、この駒様が、ホントに?!うそ?!あげはぁ!
っていうか、オレ……まさか、ホントにお仕置きなんですか?!え?!うそ?!
ビクビクしながら、促されるまま、駒様の前に座った。
「雨花様。雨花様におかれましては、ようやく鎧鏡家への年中行事への参加を認められました」
「……え?!」
ビクビクしっぱなしだったオレは、そう言われて、急に我に返った。
参加を認められました、って……誰に?
駒様が、オレのこと、鎧鏡家の行事に出たらダメだって止めてたんじゃないの?
「つきましては、雨花様に、10月に行われる、新嘗祭 にて、サクヤヒメ様に、舞を奉納していただくことになりました」
「……は?」
サクヤヒメサマにマイをホウノウ?
「雨花様のことですので、多分、鎧鏡家の守り神様が、サクヤヒメ様だということもご存知ないかと存じますが」
「あ、はい」
もれなく知りませんでした。
駒様って、いつもは優しいのに、奥方教育の時だけは、人が変わったみたいに怖いんだから。
奥方教育の時だけ?
いや、もしかしたら、あいつといる時はまた全然違うんじゃ……。
うおおおおお!
オレはなんてことを!
駒様が席を立って、どこからか『サクヤヒメ様』の絵を持ってきた。
桜の花?を持った日本古来の女神様って……感じ?
女人禁制とか言ってる鎧鏡家の守り神が、女神様?
駒様の話では、この鎧鏡家は、サクヤヒメという女神を信仰していて、ものすんごく大昔に、鎧鏡家のご先祖様が、子々孫々に至るまで、女性はサクヤヒメ様だけを愛すって誓いをたてたってことで。
その誓いの代わりに、サクヤヒメ様から、子々孫々まで、鎧鏡家の人間を護り、繁栄させ続けることを約束されたって……。
……え?なに?その日本昔話。
その、なんていうか……鎧鏡家の人たちは、そんな日本昔話みたいな誓いを、今も頑なに守ってるって、こと?
そのためにオレ、男と結婚とか、させられようとしてるの?
嘘でしょ?!
駒様が、鎧鏡家の家系図を持ってきて、この代とこの代のお館様が、早くにお亡くなりになっていらっしゃるのは、女性と契られたからだと聞いております……とか、説明してくれた。
いや、そういう問題じゃなくって。
その日本昔話だけで、男と結婚することを了承しろって言われたって、無理じゃない?他の候補様たち、なんでみんな納得してんの?
そんな納得いかない気持ちがあろうがなかろうが、現実は待ってくれない。
あの二度目のお渡りの日から皇は、一週間に一回か二回は、必ずオレのところにも渡ってくるようになっていた。
皇が渡って来るたびに、側仕えさんたちの喜びようが、とにかく心に痛くって……うう。
だって。
渡りって言っても、相変わらず、その……皇は、シロと遊んで、オレと一緒に宿題やったりだとか、ゲームしたりだとか、本を読んだり映画を観たりして、寝るって感じで……。
必ず……その……キス、は、してくる、けど。
みんなが期待しているような、その……そんなんじゃないし!
いや。オレ的には、全然それで問題ないっていうか、むしろ、キスとかしなくたっていいだろ!って思ってるぐらいで!
「はあ……」
あいつ……他の候補様たちのところに渡った時は、何、してるんだろ?
……。
あぁぁぁぁっ!
また春画の世界が、脳内に広がっていくぅ!
あのふっきーが?あの梅ちゃんが?何よりあの駒様が?!
うおおおおおお!
「あ……」
『チリン』という、小さな鈴の音が、聞こえてきた。
皇が、どこかへ渡る時に鳴らされる鈴の音だ。
こんな風に、あいつの"お渡り"がバレバレなのが、オレにもわかったのは、つい最近のことだ。
他の候補様へのお渡りを知らせる鈴の音も、耳を澄ましていると、よく聞こえてきた。
それまでは、うちの側仕えさんたちが、お渡りのないオレに気を使って、鈴の音が聞こえてくると、オレに話しかけたり、音楽のボリュームをあげたりしてくれていたみたい。
オレ、どれだけ側仕えさんたちに、気を使わせていたんだろう?
今は、オレにもお渡りがあるし、そんな気を使わなくていいと思ってくれるようになったのか、鈴の音を聞こえなくするとかいう気は使われなくなったけど。
だから……オレにも、あいつが誰かのところに渡っていく鈴の音が、よく聞こえるようになっていた。
チリン、チリンと、鳴り続ける、鈴の音……。
今日、オレに、お渡りは告げられていない。
あいつ……今夜は、誰のところに渡るんだろう?
聞こえてくる鈴の音が、近い気がする。
梅ちゃんのとこ、かな?
「はぁ……」
ちよっ!
『はぁ』ってナニ?!
いや!喜ぶとこ!喜ぶとこだろ!オレ!
他の人に渡るってことは、オレじゃない誰かが、奥方様に選ばれるってことで!
それはつまり!オレの、三年後の自由に繋がってるんだから!
ともだちにシェアしよう!