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慣れる?④

朝食を終えたところで、駒様から『勉強ルーム』に呼び出された。 う。 まともに、駒様の顔が見られない。 まさか、この駒様が、ホントに?!うそ?!あげはぁ! っていうか、オレ……まさか、ホントにお仕置きなんですか?!え?!うそ?! ビクビクしながら、促されるまま、駒様の前に座った。 「雨花様。雨花様におかれましては、ようやく鎧鏡家への年中行事への参加を認められました」 「……え?!」 ビクビクしっぱなしだったオレは、そう言われて、急に我に返った。 参加を認められました、って……誰に? 駒様が、オレのこと、鎧鏡家の行事に出たらダメだって止めてたんじゃないの? 「つきましては、雨花様に、10月に行われる、新嘗祭(にいなめさい)にて、サクヤヒメ様に、舞を奉納していただくことになりました」 「……は?」   サクヤヒメサマにマイをホウノウ? 「雨花様のことですので、多分、鎧鏡家の守り神様が、サクヤヒメ様だということもご存知ないかと存じますが」 「あ、はい」 もれなく知りませんでした。 駒様って、いつもは優しいのに、奥方教育の時だけは、人が変わったみたいに怖いんだから。 奥方教育の時だけ? いや、もしかしたら、あいつといる時はまた全然違うんじゃ……。 うおおおおお! オレはなんてことを! 駒様が席を立って、どこからか『サクヤヒメ様』の絵を持ってきた。 桜の花?を持った日本古来の女神様って……感じ? 女人禁制とか言ってる鎧鏡家の守り神が、女神様? 駒様の話では、この鎧鏡家は、サクヤヒメという女神を信仰していて、ものすんごく大昔に、鎧鏡家のご先祖様が、子々孫々に至るまで、女性はサクヤヒメ様だけを愛すって誓いをたてたってことで。 その誓いの代わりに、サクヤヒメ様から、子々孫々まで、鎧鏡家の人間を護り、繁栄させ続けることを約束されたって……。 ……え?なに?その日本昔話。 その、なんていうか……鎧鏡家の人たちは、そんな日本昔話みたいな誓いを、今も頑なに守ってるって、こと? そのためにオレ、男と結婚とか、させられようとしてるの? 嘘でしょ?! 駒様が、鎧鏡家の家系図を持ってきて、この代とこの代のお館様が、早くにお亡くなりになっていらっしゃるのは、女性と契られたからだと聞いております……とか、説明してくれた。 いや、そういう問題じゃなくって。 その日本昔話だけで、男と結婚することを了承しろって言われたって、無理じゃない?他の候補様たち、なんでみんな納得してんの?   そんな納得いかない気持ちがあろうがなかろうが、現実は待ってくれない。 あの二度目のお渡りの日から皇は、一週間に一回か二回は、必ずオレのところにも渡ってくるようになっていた。 皇が渡って来るたびに、側仕えさんたちの喜びようが、とにかく心に痛くって……うう。 だって。 渡りって言っても、相変わらず、その……皇は、シロと遊んで、オレと一緒に宿題やったりだとか、ゲームしたりだとか、本を読んだり映画を観たりして、寝るって感じで……。 必ず……その……キス、は、してくる、けど。 みんなが期待しているような、その……そんなんじゃないし! いや。オレ的には、全然それで問題ないっていうか、むしろ、キスとかしなくたっていいだろ!って思ってるぐらいで! 「はあ……」 あいつ……他の候補様たちのところに渡った時は、何、してるんだろ? ……。 あぁぁぁぁっ! また春画の世界が、脳内に広がっていくぅ! あのふっきーが?あの梅ちゃんが?何よりあの駒様が?! うおおおおおお! 「あ……」 『チリン』という、小さな鈴の音が、聞こえてきた。 皇が、どこかへ渡る時に鳴らされる鈴の音だ。 こんな風に、あいつの"お渡り"がバレバレなのが、オレにもわかったのは、つい最近のことだ。 他の候補様へのお渡りを知らせる鈴の音も、耳を澄ましていると、よく聞こえてきた。 それまでは、うちの側仕えさんたちが、お渡りのないオレに気を使って、鈴の音が聞こえてくると、オレに話しかけたり、音楽のボリュームをあげたりしてくれていたみたい。 オレ、どれだけ側仕えさんたちに、気を使わせていたんだろう? 今は、オレにもお渡りがあるし、そんな気を使わなくていいと思ってくれるようになったのか、鈴の音を聞こえなくするとかいう気は使われなくなったけど。 だから……オレにも、あいつが誰かのところに渡っていく鈴の音が、よく聞こえるようになっていた。 チリン、チリンと、鳴り続ける、鈴の音……。 今日、オレに、お渡りは告げられていない。 あいつ……今夜は、誰のところに渡るんだろう? 聞こえてくる鈴の音が、近い気がする。 梅ちゃんのとこ、かな? 「はぁ……」 ちよっ! 『はぁ』ってナニ?! いや!喜ぶとこ!喜ぶとこだろ!オレ! 他の人に渡るってことは、オレじゃない誰かが、奥方様に選ばれるってことで! それはつまり!オレの、三年後の自由に繋がってるんだから!

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