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お誘い①
6月24日 雨
今日から、期末テストです。
「雨花ちゃん、おはよう」
「あ、おはよう、ふっきー」
「すめ、おはよう」
「ああ」
ふっきーに対してオレ、なんか、ギクシャクしてる気がする。
いっつも何かっていうと助けてくれるふっきーなのに。
親切にされればされるだけ、なんか……苦しくなる。
オレが、気にし過ぎなのかな?
だって……ふっきーからしてみたらオレは、余計に増えた候補じゃん。
オレのところに渡る日が増えた分、他の候補様たちのところへのお渡りが、少なくなったってこと、でしょ?
オレのこと、ふっきーはどう思ってるんだろう?
ふっきーは、このマネキンみたいに表情の変わらない皇の、奥方様になりたくて仕方ないんだよね?……多分。
オレ、ヤってないよ?って、ふっきーにも言い訳したくなる。
だけど……ヤってないけど……キスは、してる、し。
そういうの、どう思ってるんだろう?他の候補様たち。
みんな、すごく優しいし、親切だし、仲良くしてくれて。
だから、余計何だか、わかんなくて、モヤモヤするんだ。
そんなもんなの?
みんな、皇のこと、好きなんじゃないの?
隣の皇を、チラリと窺った。
また、窓の外を見てる。
今日から、期末テストだっていうのに、ホントこいつは余裕だよな。
たいがいぶっすぅっとしてるこんな皇の……どこがそんなに、いいんだろう?
まぁ、たまに?すっごく優しく笑ったりも、するけど。
あ、いや。ふっきーとか、梅ちゃんと一緒の時の皇は、楽しそうな顔のことも、たびたび……いや、しばしば?いや、ちょいちょい見る?かも。
え?もしかして、こいつに冷たく扱われたりするの、オレくらい、だったりして?
……。
別に!それでもいいし!
だけど……そんななのに、もう……キスしても、怖いとか、思わなくなるくらい……キス、された。
学校でも、梓の丸でも……。
皇は、ふとした瞬間そこにいて、キス、してくる。
みんなにも、そんな風に、してんの?こいつ。
ホント、とんだ、エロ殿様だな!
だけど……。
やっぱり奥方様の第一候補は、ふっきー、なんでしょ?
「勉強した?雨花ちゃん」
相変わらずふっきーは、人の良さそうな笑顔を向けてくれる。
そんな風に親しげにされるたびに、胸が痛くなるんだ。
何だか、謝りたくて、仕方なくなるっていうか。
「あ、うん。勉強したっていうか、させられたって言うの?」
「ああ。奥方教育の一貫ね」
小声でそう聞いてくる。
「うん。あ、そう言えば、ふっきーはどんな教育されてるの?」
「奥方教育?」
「うん」
「ボクは受けてないよ」
「え?!」
チラリと皇が、ふっきーを見た。
そっか……ふっきーは、わざわざ奥方教育とかする必要、ないのか!
ふっきーとか、駒様みたいな人が『即戦力の奥方候補』っていうんだろう。
そんな人がいたくせに、どうしてオレなんか……。
オレなんか……選ばなきゃ、良かったのに。
「はぁ……」
「どうかした?」
ふっきー、ホントに心配してくれてる顔、だよね。
「え?あ、ううん。なんでもない」
オレが、おかしいってこと、なんだろうな。
オレ以外の候補四人は、去年の皇の誕生日に選ばれたと、駒様に聞いた。
四人同時に選ばれたんだから、自分以外に候補がいるのが、選ばれた時から当たり前なんだよね、他の四人は。
ふっきーと梅ちゃんを見てると、候補同士って立場なのに、すっごく仲良くしてるように見える。
オレとも仲良くしてくれるし。
それが、あそこのうちの"普通"って、ことなんだろう。
でも……。
オレには、それが、わからない。
だって。
好きなら、独り占めしたいって……思ったりしないの?
それが許されない関係なんて……みんな、苦しくないのかな?
オレだったら、苦しいと思う。
オレだったら、きっと……好きな人が、他の人とどうこうしてるかもしれないなんて考えたら……。
「どうした?」
隣の皇が、オレの顔をまじまじ見ていた。
「なっ!なに?!」
「おかしな顔をしておった」
「はいはい、もともとおかしな顔ですよ!」
「そうではない。……どうした?」
「なんでもない!」
そう言って、教室を飛び出した。
こっちはこんなモヤモヤしてるっていうのに、のんきな皇に、なんか、すっごくムカついたから。
だけど……皇だって、そういう家に生まれちゃったってだけで、こんな状況、皇のせいじゃない。
「うううう……」
このモヤモヤを、どこにぶつけたらいいんだよ!
トイレで顔を洗って、ふと鏡を見ると、そこに皇が映っていた。
「うあっ!」
「大丈夫か?」
「……ん」
なんで、ついて来たり、するんだよ。
「そうか」
皇は、オレの頭を軽く撫でると、頭にキスをして、出て行った。
……。
こんなこと……みんなにも、するの?
みんなには、もっと、優しいの、かも。
痛い。
よくわからないところが……。
……心臓?
よく、わからない。
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