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お誘い②
「はぁ……」
「どうしたぁ?」
ぼーっとしている間に、午前中のテストが終わってた。
オレのお重弁当を突つきながら、田頭が、思いっきり気のない質問を投げてきた。
「ん?なんでも……」
「恋の悩みか?」
「ぶっ!うへっ、ごほっ!」
うおっ!鼻から米粒出そうになったじゃん!
恋の悩みって!
そんなんじゃ!
「そういえば、ばっつん、彼女いるの?」
「彼女?」
っていうか、彼氏?
いやいや!付き合ってないし!
え?付き合ってないどころか、オレ、男子だっていうのに嫁に行かなきゃいけないかもしれない危機なんだよ!田頭ぁ!
っつか、ん?
こうなりゃあ、男同士だっていうのは目をつぶるとしたって、なんかモヤモヤしてたのは、そこなんじゃないの?
まずは、そもそもそこがおかしいじゃん!
だって普通はさ?
まずは、告白して。OKして。お付き合いして。それから、結婚とかって、話になるんじゃないの?
すでに、最初の段階で、もうおかしなことになってるじゃん!
そうだよ!オレ、あいつに、そんなこと、言われたことない!
オレ、皇に好きだなんて、言われたことないし。
……いやいやいや!
男同士ってところに、目をつぶっちゃダメでしょ?オレ!しっかりしろ!オレ!
「あ!もしかして……彼氏か?」
「ぬあっ?!ななな、なに言ってんの?!」
どわああ!!うえええ?!
「え?ばっつん美人だし、そっち方面じゃないかって思ってさ」
「な、な、な!そ、そそ、そんな……」
言い訳も思いつかない!ひぃ!
「男子校だしな、ここ」
「だ!だからって……」
「オレも、男と付き合ってるし」
「……は?」
『オレも』って……オレは、男と付き合ってるつもりはないっ!
……って。
え?
え?なんて?え?その先、なんて言った?こいつ!
「うえええええっ?!」
オレも男と付き合ってる?!え?え?この田頭が?え?この、総合的に見たら、皇よりもイケてるっぽい田頭が?!
え?男と、付き合ってる?!
「サクラと」
「……」
ちょっと待て。
「サクラと」
「……」
待てっつーの!
「ばっつん?」
「……」
いやいやいや!
「ばっつん?」
「……時間をくれ」
「ああ」
「……」
「……」
「……ぬおおおおおおお!」
サクラとおおおお?!
サクラとって、言った?
「ばっつん、いちいち反応激しいな。あははっ」
「あははじゃないだろ!あははじゃ!」
サクラと……って。
サクラって、あのサクラ?
今、お昼の買い出しに、カニちゃんと二人で下の購買まで行っちゃってる、あのサクラ?
購買から戻ってきたら、オレらと一緒にお昼ご飯を食べる、あのサクラ?
「サクラって、あのサクラ?」
サクラとカニちゃんが、ちょうど教室に戻ってきた。
「他にもサクラなんているのか?」
「いや、オレは知らない」
「俺も知らない。そう、あのサクラだよ」
「ただぁいまぁ!」
サクラとカニちゃんが、オレたちの目の前に座った。
サクラは、ニコニコしながら、サンドイッチを開き始めてる。
サクラが、現在ダダハマっている"野菜サンド"だ。
いや、そこは全然、どうでもいい!
「え?なに?なんか、ボク、変?」
あまりにガン見しているオレに、サクラが不安そうにそう聞いた。
いや、サクラは、確かに可愛いですけども!
男子です!サクラは、まごうことなき、男子ですよ?田頭くん!
「いや、ううん。何でも、ない」
「え?もしかして、野菜サンド食べたいの?いいよ?」
ちがぁう!そんなものに興味はないんだよ、サクラ!
「え?なんか、どうしたの?」
「いや。ばっつんに、お前と付き合ってるって話したんだ」
「え?!そうなの?うわあ、照れる」
え?感想、それだけなの?サクラ!
「かっ……」
カニちゃんは、知ってたの?!
「ん?」
「カニちゃん、知ってたの?」
「いや。今初めて聞いた。」
「驚けよ!」
「いやいや、驚くことでもないだろう?そこらへんに、ゴロゴロいるじゃん」
「はい?」
「うちのクラスだって、他にも付き合ってるヤツら、いるぞ?」
「え?!」
うっそーん。
あいつとあいつとか。あいつとあいつもそうだし?あっちとそっちも付き合ってるだろ?とか、そんな話をしながら、カニちゃんはそっちこっちを指差した。
「あ、ほら。あの二人も、付き合ってんじゃないのか?」
カニちゃんが指差した先には、ふっきーと、皇がいた。
え……?
『付き合ってる』の?
あの二人、付き合ってる、の?
……。
……そっか。
オレ、皇に、好きとか言われてない、なんて思ったけど……オレが、皇にとって、そういう存在じゃないって、だけなんじゃん。
皇は、ふっきーには『好き』って、言ってる、のかな?
『好き』って……。
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