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お誘い③
「そういやぁ、二学期早々、生徒会の選挙があるじゃんか」
オレの弁当を突きながら、田頭がそんな話をしてきた。
いや!オレはまだ、お前とサクラの関係について、カニちゃんみたいに受け入れられてないんだけど!
「へえ、そうなの?」
そっけない返事をしたオレに、田頭がびっくり発言をした。
「オレ、生徒会長に立候補するから」
「えっ?!」
「今の会長に、やってよってお願いされてさ。役員選挙とかって、形だけのもんで、先代の生徒会長が指名したヤツで、生徒会って決まるんだって。ってことで、次、オレが生徒会長になる予定」
「はぁ。まぁ、お似合いなんじゃん?」
こいつなら、うってつけだと思う。
田頭は、いずれ、お父さんのあとを継いで、政治家になるんだろうし?
この金持ちばっかりの学校で、今から名前を売っておくってことかもしれない。
って……そんな田頭が、サクラと付き合ってるとか……政治家になるヤツが……ホ、ホモとか……バレたら、イメージ的にどうなの?大丈夫なの?田頭?
「でさ。今の会長から、一緒にやりやすいヤツ集めてよって言われてるんだ。ってことで、会計よろしく、ばっつん」
「……はいいい?」
会計よろしく?
そんなこと言われたって!オレ、部活禁止だし!
「やってよ。そんな大変じゃないと思うからさ」
「え……ちょっと、聞いてみる」
駒様に。
「へ?誰に?」
「あ。えっと……うちの人」
「ああ、そっか。部活もやってないもんな、ばっつん。厳しいの?ばっつんち」
「え……うーん」
「まぁいいや。考えといてよ」
「うん、わかった」
そのあと、田頭から同じように生徒会役員をお願いされたサクラとカニちゃんは、オレとは違って、二つ返事でOKしてた。
「そんな仲間内ばっかりでやっていいの?」
「どうせやるなら、楽しくなくっちゃさ。そのためには、気の合う仲間と一緒のほうが良くない?」
「ああ、まぁ、それでいいなら、そうだろうけど」
「だしょ?ってことで、ママンによろしく」
実のママンでも、義理のママンでも、ママンだったら多分、OKが出るだろうけど。
問題は、駒様……なんだよね。
あの駒様から、OKなんて出るのかなぁ?
まぁでも、鎧鏡家の行事には、参加許可がおりたんだし、もしかしたら、生徒会もOKかも!
あ、でも……行事参加は、駒様が決定したんじゃないみたいな話しっぷり……だったよなぁ。
その行事に参加するため、6月に入ってから、サクヤヒメ様に奉納する舞の練習が、奥方教育に加わっていた。
舞の先生は、母様だ。
サクヤヒメ様への舞の奉納って、候補が入る前までは、母様の仕事だったんだそうだ。
『何故か舞の奉納がある月は、ない月よりも、家臣さんたちがたくさん集まるんだよね』って、母様が言っていた。
母様は不思議そうにそんなことを言ってたけど、母様のお手本の舞を見てたら、家臣さんたちの気持ちもわかる気がした。
だって、母様が舞っている姿は、本当にため息が出るくらい、綺麗だもん。
見たいって思うよね。
若殿様の嫁候補を、直接見ても叱られない機会は、舞の時しかないんだそうだ。
そんな理由もあって、皇の嫁候補が舞うようになった去年から、更に盛況になったらしい。
そう言えば、来月の『納涼会』は、ふっきーが、舞を奉納することになってるって、駒様が言ってた。
どんな感じなんだろう?
オレは、10月の新嘗祭まで、参加を許されていないから、ふっきーが舞ってるところを、近くでは見られないけど。
ちょっと覗くくらいなら、出来るかな?
昼休みが終わって席に戻ると、教科書を見直したりしている奴らが多い中、隣の皇は、やっぱりぼうっと外を見ていた。
「余裕だな」
皮肉も込めてそう声を掛けると、こちらを向いた皇は、『ん?』と言って、何だか、機嫌が良さそうな顔をしている。
「何、にやにやしてんの?」
「しておらぬ」
「してるよ」
「……雨ゆえ」
「え?」
「雨の日が……好きなのだ」
そう言って、皇はまた、窓の外に視線を向けた。
バクン……って、大きく心臓が跳ねた。
『好き』……その言葉を、皇の口から、初めて聞いた気がする。
「他には、何が好き?」
「ん?」
「あ……なんでもない!」
何を、聞こうとしたんだろう?オレ。
「忘れろ」
「え?」
「余が、雨が好きだという話だ」
「なんで?」
「なんであれ、好き嫌いをするなと、教えられてきた」
「そんなの……」
「忘れろ」
皇に、『わかった』って、そう言うのが、精一杯だった。
泣きたい気持ちになったのは、どうしてなんだろう。
配られたテストの答えよりずっと、そっちのほうが、気になった。
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