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お誘い④
テストが終わると、オレはすぐに鎧鏡家に戻るために、車を呼んだ。
今日は、明日のテストのために、家庭教師を呼んでいると、駒様に言われていた。
でも、家庭教師が来る前に、駒様に会って、生徒会のことを相談したいと思っていた。
迎えの車に乗ろうとした時、中庭にいる梅ちゃんが見えた。
相変わらず、たくさんの男共に囲まれている。
梅ちゃんって、いつでも人の輪の中心にいるんだよなぁ。
「……」
梅ちゃんのこと、ちょっと、羨ましく思うことがあるんだ。
オレも、部活とかやっていれば、もう少し学校に知り合いも増えるだろうし、楽しいんじゃないかな?なんて、思ったりしていたから。
田頭には、あんな風にそっけなく言ったけど、ホントはオレ、生徒会、やってみたいなって、思った。
だから、勉強の前に、駒様に生徒会のことを、相談しておきたかったんだ。
何とか、生徒会に入るのを、許可してもらいたかったから。
梅ちゃんがいいなら別に、候補が部活をしたらいけないってわけじゃないんでしょう?きっと。
オレが部活をしたらいけない理由がわかんないけど、今日、駒様にちゃんと聞こう!で。生徒会に入るのを、許してもらおう!
オレは、どうしても駒様と話がしたいと、いちいさんにお願いした。
いちいさんは、すぐに駒様に連絡を取ろうとしてくれたんだけど、なかなか電話が繋がらないらしい。忙しいのかな。
オレが、あからさまにがっかりしていたからか、いちいさんは、『本丸に直接行ってみますか?多分いらっしゃるはずですよ?』と、提案してくれた。
いちいさんのそんな提案に、オレは食い気味に、『行きます!』と返事をした。
本丸まで、車で行けば早いんだけど、梓の丸の運転手さんは、オレを学校に迎えに来てくれたあと、今日はもう帰ってしまっていた。
ってことで、オレは、白いベールで頭をすっぽり隠されて、本丸に続く、長い長い廊下を、初めて歩いて渡ることになった。
このベール、皇の誕生日の時に、被らされた物と一緒かな?
相手からは、オレの顔は見えないみたいだけど、オレからは、先を歩くいちいさんの後ろ姿が、はっきり見えていた。
「これはこれは、辺境の一位殿」
梅ちゃんが住んでいる『樺の丸(かばのまる)』に差し掛かったところで、急に横からそう声を掛けられた。
……誰だろう?
「候補様の前で、そのような呼び名……それ以上の無礼は、許しかねますよ、樺の一位殿」
『かばのいちいどの』?
そっか。いちいって、役職名だった。
それぞれの区画に『一位』さんがいるんだ。
樺の一位ってことは、この人が、梅ちゃんのとこの、一位さんなのか。
何だかちょっと、イヤな感じ。
「ああ、失礼致しました。え?候補様とご一緒?その後ろの方が、あの雨花様なのですか?若様のお誕生日以来、お姿をお見かけすることもありませんでしたので、もしやもう鎧鏡家には、いらっしゃらないのでは……と、思っておりました」
何だよ、それ!うわぁ、いやな感じ!
「参りましょう、雨花様」
「はい」
その場から離れようとした時、梅ちゃんのとこの一位さんは、『お待ちください』と、こちらに声をかけてきた。
え?!なに?
「そこは樺の丸の敷地内。お通りになるなら、足をお拭きになってからになさっていただけませんか」
「え?」
「樺の一位殿、候補様に向かって、足を拭いてから通れとは何事ですか!」
びっくりして立ち止まっているオレを、自分の背中に隠して、いちいさんが、声を荒げた。
うわ……こんな風に声を荒げて怒るいちいさん、初めて見た。
「いちいさん?」
オレは、何だか怖くて……いちいさんの着物の帯をギュッと握った。
「雨花様は、雨の中、外歩きなさるのが、ご趣味だそうですね」
そんな趣味ないよ!なんのこと?
「何を……」
「今日も雨。雨花様は、また傘もささず、出歩いていらしたのでは?本丸を、泥だらけのお姿で歩き回れるようなお方であれば、当然うちなぞ、泥だらけになさっても、何とも思わないでしょう。ですが……あいにくうちの側仕えは、そちらと違って、そのような泥拭きには、慣れておりませんので」
「なっ!」
皇の、誕生日の時のこと、を、言ってる?
オレ……みんなに、そんな風に思われてるの?
「なんと無礼な!」
「無礼というのは、礼を尽くすべき相手がいて初めて成り立つ言葉です、辺境の一位殿。あなたも、落ちぶれたものですね。御台様のお気に入りだったあなたが……」
「え?」
御台様の、お気に入り?
いちいさん……母様のお気に入りだったの?
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