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お誘い⑥

「駒様」 本丸に着いてすぐ、駒様に会えた。 「ああ、梓の一位殿。どうなさいましたか?」 大概着物姿の駒様が、今日は、スーツを着ていた。 うわ!やっぱりカッコイイ! 「雨花様をお連れいたしました」 「雨花様を?」 いちいさんの後ろから顔を出すと、駒様が顔をしかめた。 うわっ。怒ってる? 駒様からは、本丸には、そうそう来てはいけないって言われてたし……。 「先に連絡を入れたのですが、駒様に繋がりませんでした」 いちいさんの言葉に、『そうでしたか』と、小さく頷いて、駒様は、『急用なのですか?』と、オレに聞いた。 「あ、あの……」 急用って言われると、そうでも、ない? そこに、車が一台、入って来た。 あの車……皇が帰って来たんだ。 「少々お待ちください」 駒様はそう言うと、皇を出迎えに、車止めまで降りて行ってしまった。 「あ……」 車から、皇が降りて来た。 駒様始め、本丸の使用人さんたちが、揃って頭を下げる。 オレも、それにならって、皇にお辞儀した。 なんか……偉そうにしてる皇は、やっぱりちょっとムカつく。 そうしなきゃ、いけないんだろうってことは、わかってるけど。 ベールの下からチラリと窺っていると、皇は、すぐオレに気付いたみたいなのに、頭を下げているオレの前を、知らんぷりで通り過ぎて行った。 ……何だよ、あいつ! ベールの下で、あっかんべーをしてやった。 「……」 知らんぷりとか、することないじゃん。 皇に、声とか掛けられちゃったら、なんて返事したらいいんだろう?!とか……ちょっと思っちゃってたオレが、バカみたい。 って……オレ、何、期待してんだよ……ホント、バカ! 「……」 ホント、バカじゃん、オレ。 「雨花様?」 「あ、ごめんなさい」 いちいさんが隣にいるのに、あんな態度をとられたのも、ショックだった。 皇が、オレのことを気にかけてくれてるって、みんなの前でそうしてくれたら……そしたら、ちょっとはいちいさん、喜んでくれるかな?なんて、皇が帰ってきたのを見て、そんな風に、思ったんだ。 だけど……そんなの、ムシが良過ぎるよ。 自分でもずるいって、思うもん。 オレは……夜伽も怖がって出来ないような、奥方になんかなるもんか!なんて思ってるような、そんな、候補らしくない候補だし。 でも。だって……。 あいつが、ここにいればいいって、言ったのに。 あんなに……いつもは、キス……とか、してくるくせに。 駒様は、皇と一緒に、奥のほうに歩いて行ってしまった。 「駒様、忙しそうですし、帰りましょうか。こんなところまで連れて来てもらったのに……用も足せないで、ごめんなさい」 ごめんなさい。 オレ、こんなんで、ホントに……。 急用ってわけでもないのに、こんなところまで、来るんじゃなかった。 引き返そうと歩き出すと、後ろから声を掛けられた。 「雨花様!」 駒様だ。 「お待たせして、申し訳ありませんでした。いかがなさいましたか?」 「いえ、もう、いいんです」 ちょっとっていうか、だいぶふてくされていたオレは、もう、生徒会なんかどうでもいいやって気持ちになっていた。 「わざわざここまでいらしたのに?」 だって……。 「雨花様。私は、すぐにでも若様のお出掛けの準備をしなければなりません。ですが、若様から、準備の前に、雨花様の話を聞くようにと、申しつかりました」 「え?!」 皇が? だってさっきは、オレのことなんか、全然知らんぷりしてたくせに! そんなこと、言ったなんて……。 あ。なんかオレ……喜んじゃってる? ふと、隣のいちいさんを見ると、涙ぐんじゃってるし。 いや、それは、喜びすぎです、いちいさん。 「ここまで来るからには、何か重要な話だろうと、若様がおっしゃいまして。ですからどうぞ?ご遠慮なく」 「あの……」 そんな風に促されても、何だか、胸がいっぱいになっちゃって、うまく言葉が出てこない。 皇が、オレのことを、優先してくれたなんて……。 「あの!」   せっかく皇がくれた時間なんだから、早く話さないと!そう思ってオレは、大きく深呼吸した。 駒様に、生徒会に誘われた話をして、入ってみたいんだってことを、思い切って言ってみた。   「あの、こんな用件で、スケジュールを遅らせてごめんなさい」 「いいえ。雨花様には、とても大切なことなんですよね?」 「はい!」 駒様って……怖いけど、いい人なんだよね。 「しかし……雨花様は、部活動を禁止されていらっしゃいますから、生徒会といえども、同じではないかと。そこは、私よりも、若様ご本人に、確認なさってはいかがですか?」 「え?……若様、ご本人?」 「はい。雨花様に部活動を禁止した若様に、ご確認なさってみたらいかがでしょうか?」 「え?」 部活禁止を決めたのって、皇なの?

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