49 / 584

お誘い⑧

「それで?千代はなんで、青葉を部活禁止にしてるの?」 「え?あ、オレにもわからないです。オレがって言うか、皇の奥方候補は、みんなそうなんじゃないんですか?」 「そうなの?」 「うーん……梅ちゃんだけ、特別なんだと思います」 「え?梅ちゃんだけ?」 母様との交換日記は、もう、何往復しただろう? オレが日記で、『ふっきー』『梅ちゃん』と書くからか、母様も最近は、二人のことを『ふっきー』『梅ちゃん』と、呼んでいた。  まぁ、本人目の前にしては呼ばないだろうけど。 「多分、そうじゃないかと思います。梅ちゃん、ホントに運動神経いいし」 「ふうん。そうなんだ?で?青葉は、生徒会に入りたいんでしょう?」 「あ、はい」 「うん。じゃあ、聞いてみたら?千代に。入りたいって言ったら、ダメなんて言わないでしょ?私から言っておこうか?」 「あ!いえ。また皇に、言いつけた!とか言われそうなんで、言わないでください」 「え?言いつけた?」 「はい」 皇に『役立たず』って言われたと勘違いして、母様に泣きついた翌日、皇から『御台殿に言いつけたな!』と言われた話を、母様にした。 「え?ホントに?千代って、そんなこと言うんだ?」 「え?」 母様は、ふふっと笑った。 「ううん、なんでもない。青葉がやめてって言うなら、言わないでおくね。自分で、聞ける?生徒会のこと」 「あ……」  うーん。 「やりたいなら、聞いてごらん?駄目とは言わないはずだよ?あ!もうこんな時間!戻らないと。青葉、千代がなんて返事したか、日記で教えて。じゃあ私は戻るね」 「あ……」 母様は、シロを一撫ですると、薬草を掴んで、三の丸のほうに歩いて行ってしまった。 「……」 皇の許可が必要なら、生徒会に入るのは、諦めようかなんて、思い始めてたのに。 『千代がなんて返事したか教えて』って、それ、オレが皇に、生徒会の話をするのが前提じゃないですか、母様! え?チキンなオレを見越しての、母様の陰謀ですか? 「うう……」 言われてみれば、オレに、ここにいる意味をくれたんだ!と思ってた母様との交換日記も、何だか、母様の陰謀だったんじゃないかって気がしてきた。 だって、あの交換日記を始めたから、皇を観察しなくちゃ!って使命感に燃えて、皇を見るようになったんだもん。 母様、あの時『千代のこと、見てあげてくれないかな?』って言ってたけど、母様の思い通りになってるじゃん。 オレが見ようと思って、皇を見てるっていうか……母様との日記を書くために、半ば強制的に、見させられてるって言うか。 だって。 あんな風に『見てあげて』なんて言われたって、交換日記をしてなかったら、今みたいには皇のこと、見てなかったと思う。 強制的だったとは言え、見てればあいつ、スゴイとこばっかりなのは、よくわかったし。 それに。母様に、皇の様子を教えるんだから『いいところ』を探して教えてあげたいって、思うじゃん。 まぁ……無理矢理探さなくたって、あいつ……いいヤツなのは、すぐわかったけど。 皇に、なんて聞けばいいんだろう? ため息をついたオレの脇腹を、シロが大きなおでこでグリグリこすった。 「うおっ!あははは……やめ、やめ!シロ!」 シロが『ふんっ』って鼻息を出した拍子に、大量の鼻水が、オレの顔にかかった。 「うわっ!……落ち込むなってこと?」 シロが、オレの肩に顎を乗っけてきた。 「ありがと、シロ。……大丈夫だよ」 シロをぎゅうっと抱きしめた。 何だか、すごく安心する。 「よしっ!」 何ビビってたんだろ?オレ! シロに抱きついてたら、何だか急に勇気が湧いてきた! 明日、皇にドーンと聞いてやる! よっし! オレは、シロのリードを引いて、走り出した。 いや、すぐにシロに引っ張られる感じになっちゃったんだけどね。 ……。 シロの背中に乗った時も思ったけど、やっぱりシロってば、散歩なんていらないんじゃないの?これ。 昼間も、部屋からフラリと出て行って、勝手にどこかをふらついているみたいだし。 まぁ、シロの散歩にかこつけて、母様やワンさんに会えるから、オレはやめたくないんだけど。 ……そっか。 オレが、シロを散歩に連れて行ってあげてるわけじゃなくて、シロが、オレの散歩に付き会ってくれてるのかも。 「ありがとね、シロ」   シロの背中を撫でて、シロと一緒に、梓の丸まで走った。 なんとなく、うまくいくような予感がして、ニヤニヤしながら、走ってたと思う。 ……怖っ。

ともだちにシェアしよう!