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お誘い⑧
「それで?千代はなんで、青葉を部活禁止にしてるの?」
「え?あ、オレにもわからないです。オレがって言うか、皇の奥方候補は、みんなそうなんじゃないんですか?」
「そうなの?」
「うーん……梅ちゃんだけ、特別なんだと思います」
「え?梅ちゃんだけ?」
母様との交換日記は、もう、何往復しただろう?
オレが日記で、『ふっきー』『梅ちゃん』と書くからか、母様も最近は、二人のことを『ふっきー』『梅ちゃん』と、呼んでいた。
まぁ、本人目の前にしては呼ばないだろうけど。
「多分、そうじゃないかと思います。梅ちゃん、ホントに運動神経いいし」
「ふうん。そうなんだ?で?青葉は、生徒会に入りたいんでしょう?」
「あ、はい」
「うん。じゃあ、聞いてみたら?千代に。入りたいって言ったら、ダメなんて言わないでしょ?私から言っておこうか?」
「あ!いえ。また皇に、言いつけた!とか言われそうなんで、言わないでください」
「え?言いつけた?」
「はい」
皇に『役立たず』って言われたと勘違いして、母様に泣きついた翌日、皇から『御台殿に言いつけたな!』と言われた話を、母様にした。
「え?ホントに?千代って、そんなこと言うんだ?」
「え?」
母様は、ふふっと笑った。
「ううん、なんでもない。青葉がやめてって言うなら、言わないでおくね。自分で、聞ける?生徒会のこと」
「あ……」
うーん。
「やりたいなら、聞いてごらん?駄目とは言わないはずだよ?あ!もうこんな時間!戻らないと。青葉、千代がなんて返事したか、日記で教えて。じゃあ私は戻るね」
「あ……」
母様は、シロを一撫ですると、薬草を掴んで、三の丸のほうに歩いて行ってしまった。
「……」
皇の許可が必要なら、生徒会に入るのは、諦めようかなんて、思い始めてたのに。
『千代がなんて返事したか教えて』って、それ、オレが皇に、生徒会の話をするのが前提じゃないですか、母様!
え?チキンなオレを見越しての、母様の陰謀ですか?
「うう……」
言われてみれば、オレに、ここにいる意味をくれたんだ!と思ってた母様との交換日記も、何だか、母様の陰謀だったんじゃないかって気がしてきた。
だって、あの交換日記を始めたから、皇を観察しなくちゃ!って使命感に燃えて、皇を見るようになったんだもん。
母様、あの時『千代のこと、見てあげてくれないかな?』って言ってたけど、母様の思い通りになってるじゃん。
オレが見ようと思って、皇を見てるっていうか……母様との日記を書くために、半ば強制的に、見させられてるって言うか。
だって。
あんな風に『見てあげて』なんて言われたって、交換日記をしてなかったら、今みたいには皇のこと、見てなかったと思う。
強制的だったとは言え、見てればあいつ、スゴイとこばっかりなのは、よくわかったし。
それに。母様に、皇の様子を教えるんだから『いいところ』を探して教えてあげたいって、思うじゃん。
まぁ……無理矢理探さなくたって、あいつ……いいヤツなのは、すぐわかったけど。
皇に、なんて聞けばいいんだろう?
ため息をついたオレの脇腹を、シロが大きなおでこでグリグリこすった。
「うおっ!あははは……やめ、やめ!シロ!」
シロが『ふんっ』って鼻息を出した拍子に、大量の鼻水が、オレの顔にかかった。
「うわっ!……落ち込むなってこと?」
シロが、オレの肩に顎を乗っけてきた。
「ありがと、シロ。……大丈夫だよ」
シロをぎゅうっと抱きしめた。
何だか、すごく安心する。
「よしっ!」
何ビビってたんだろ?オレ!
シロに抱きついてたら、何だか急に勇気が湧いてきた!
明日、皇にドーンと聞いてやる!
よっし!
オレは、シロのリードを引いて、走り出した。
いや、すぐにシロに引っ張られる感じになっちゃったんだけどね。
……。
シロの背中に乗った時も思ったけど、やっぱりシロってば、散歩なんていらないんじゃないの?これ。
昼間も、部屋からフラリと出て行って、勝手にどこかをふらついているみたいだし。
まぁ、シロの散歩にかこつけて、母様やワンさんに会えるから、オレはやめたくないんだけど。
……そっか。
オレが、シロを散歩に連れて行ってあげてるわけじゃなくて、シロが、オレの散歩に付き会ってくれてるのかも。
「ありがとね、シロ」
シロの背中を撫でて、シロと一緒に、梓の丸まで走った。
なんとなく、うまくいくような予感がして、ニヤニヤしながら、走ってたと思う。
……怖っ。
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