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ふうふう①

6月25日 晴れ 今日は、期末テスト二日目です。 皇は、テスト開始ギリギリになって、教室に入ってきた。 「おはよ」 「ああ」 オレの隣の席について、すぐに頬杖をついて、外を見てる。 いつもと、一緒。 「皇」 「ん?」 窓を見ていた顔が、こちらを向いた。 ちょっとドキっとしたのは、生徒会の話を、どうやって話そうかって、心配してるからだと思う。 「あのさ」 「ん?」 「話が、あるんだけど……」 その時、テスト監督の先生が、教室に入ってきた。 「今夜、行く」 「え?」 『そこまでの話じゃない』って言おうと思ったのに、テスト用紙が配られ始めちゃって、言えなかった。 テスト期間中は、皇は誰にも渡らないって、駒様から聞いている。 確かにここのところ、鈴の音は聞こえてこない。 それなのに……いいの? このテストが終わったら、さらっと話せばいっか。そんな、込み入った話じゃないし。 「皇」 テストが終わって、すぐに皇に話しかけると、『すまない。急いでいる』と、手で遮られた。 皇はすでにカバンを持っていて、すぐにでも帰れそうなスタイルだ。 『後で』と言って、オレの背中に、軽くポンっと手を置いたかと思ったら、足早に教室を出て行ってしまった。 「今ね、株主総会の時期なんだよ」 すぐ後ろから、声を掛けられた。 「うおっ!ふっきー!」 「ここんとこすめはね。お館様について、しらつきグループだの、取引先だのの株主総会に、出向くことが多いみたいなんだ」 「へぇ、そうなんだ」 ふっきーって、やっぱりなんでも知ってるんだなぁ。そういうの、皇から教えてもらうのかな? オレなんか、母様がお医者さんだったことすら、昨日知ったばっかりなのに。 「あの……ふっきー?」 「うん?なに?」 「ふっきーはさ」 「うん」 「皇のこと……」  ──── 好きなの? ──── 「ん?」 「あ、なんでもない」 聞けない。 なんで? わからない。 なんか、そんなことを聞いて……『好きだよ』って、答えられたら……どうしようって……。 どうしようって……何?オレ! ふっきーは、『そう?じゃあ、お先に』って言って、帰って行った。 「……」 好き、なんだよね?ふっきーは、皇が。 ふっきーだけじゃなくて、梅ちゃんも、駒様も、お誓の方様も。 学校でも、皇はすごくモテてるみたいだし。 だけど……。 皇が、誰を好きなのか、わからない。 オレ……どうして、候補に選ばれたんだろう? 皇が、選んだんだよね? なんで? まさか……オレに一目惚れか?! いや!それはありえない。オレ、あの時、ひどい顔してたし。 そもそも男が男に一目惚れとか、ある? まあ確かに?一番最初に皇に会った時、カッコイイなぁ、とは、思ったけど。 確かに思ったけど! それは、一目惚れとかじゃないし! だって駒様のことも、カッコイイなぁって思ったし!いや、むしろ、駒様のほうがカッコイイって思ったし! 「……」 今夜、行くって、言ってた。 皇、本当に今夜……渡ってくるのかな? ……なんで、オレを選んだんだろう? 本当に、来る?どうして選んだ?グルグル……最近、心配になるのは、皇絡みのことばっかり……。 皇が、テスト期間に入るからって、渡らなくなってから、もう一週間、ぐらいかな? 学校でも、一緒にいる時間は短かったし、二人になることが、このところなかった。 だから……ここのところ、キスとか、も、されなかったわけで。 だから、皇が今夜渡ってきたら、キス……とか、される?と、思うと、すっごく、緊張してきた。 皇にキスされるのは……前より、怖くなくなった、とか、思っちゃってるけど。 でも、慣れろ、なんて言われたって、皇とするキスに、慣れるなんてこと、この先、ある?ないでしょ? 思い出すだけで、恥ずかし過ぎて、消えたくなる……。 オレは、柴牧家の跡継ぎらしく、男らしくするようにって、育てられてきたんだ。 柴牧の母様もおばあ様も、二言目には『柴牧家の男子が!』、だったし。 それなのに……。 背の高い皇に、すっぽり包まれるみたいに抱きしめられると、何だか……おかしいんだ。 そんな風に、皇から扱われちゃうと、なんか……ふわふわしちゃって。 どっからか、じゅうって熱くなって……泣きたくなる。 いっつも。 ここんとこ、いっつも。 だから、イヤなんだ。皇に、渡られるの。 いつか、我慢出来なくなって、皇の前で、また泣きそうな気がして。 泣いたりしたら、一番最初の時みたいに、『興ざめだ』とか、言われるかもしれない。 そんな風に言われたの、最初の一回だけだけど……。 でも、もしまた、『興ざめだ』とか、言われたら、オレ……。 「はぁ……」 オレ、弱っ!こんなに、メンタル弱かった? 「ううぅ!」 皇が、オレのこと変に優しく扱うから、オレが弱っちくなるんじゃん!バカ!

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