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メッセージ①
7月20日 晴れ
今日は、鎧鏡家の年中行事の一つ、『納涼祭』です。
今頃、他の候補様たちは、忙しく支度をしているのかも。
今日の納涼祭は、ふっきーが、サクヤヒメ様に舞を奉納する。
オレは、奥方候補としての参加は許されていないけど、遠目でいいから、どんなものなのか、見てみたかった。
いちいさんに聞いてみたら、まだ鎧鏡家に入ったばかりで、面の割れていない八位 さんをお供につけること、お忍びでこっそり覗くだけ、夕飯には戻ること、っていう条件で、許してくれた。
ふっきーの舞は、午後六時に始まる予定だ。
五時半のチャイムが鳴ったのを聞いて、そろそろ出かけようかと、支度を始めた。
あげはとぼたんも、一緒に行かないかと、誘いに行ったら、二人は部屋に居なかった。残念。
「あまり近づかないようにと、一位様より申しつかっております」
「はい。わかってます。大丈夫ですよ」
やつみさんは、オレの側仕えになるために、新しくこの曲輪に入った人だ。
まだ大学生のやつみさんを、オレは、"兄上"みたいに思っていた。
オレと同じく、鎧鏡家について知らないことが多いみたいで、教育係の九位 さんに、しょっちゅう怒られているのを見かける。
でも……そんな人だから、オレはやつみさんといると、ほっと出来た。
「そこまでですよ、雨花様」
「はーい」
前に出ようとするオレを、やつみさんが止めた。
ここでは、舞台が見えるか見えないかだけど、仕方ない。
屋敷を出る時、やつみさんが双眼鏡を持っていたので、『それ必要なんですか?』なんて言ったんだけど、これは、オレも必要だったかも。
舞台の向こう側には、皇と、白いベールをかぶった三人が、座っているのが見えた。白いベールの三人は、候補様たちだろう。
多分、皇のすぐ横から、駒様、お誓の方様、梅ちゃん……じゃ、ないかなぁ?
顔は見えないけど、体型的に。
お誓の方様は、どんな人なのかわからないけど、消去法で言ったら、多分そうだと思う。お誓の方様も、駒様くらい背が高そうだ。
その時、笛の音が聞こえてきた。
「あ!始まりますね!」
やつみさんは、ワクワクしているみたい。そんなやつみさんを見て、オレもワクワクしてきた。
舞台袖から、巫女さんの衣装のような、袴姿の人がスっと出て来た。
「あ……」
「はぁ……美しい方ですね」
「やつみさん!双眼鏡、貸してください!」
「え?いいですよ」
『ほら必要だったじゃないですか』なんて言ってるやつみさんから、双眼鏡を借りて、急いで覗き込んだ。
「うわ」
あれが、ふっきー?!
すごく……キレイだ。
メガネをかけていないふっきーを、初めて見た。
化粧もしているみたいだけど、なんていうか、ものすごい、美人!
見た目で言ったら、梅ちゃんのほうが、絶対可愛いかな、とか思ってたけど……。
うっわ……いつもは眼鏡男子のふっきーが、実はあんなに美人だったなんて!
笛と太鼓の音に合わせて、鈴を持ったふっきーが舞う。
あの人、本当にふっきー?
本当に、すごく……キレイだ。
舞は、10分くらいだったかな?でも、あっという間だった。
家臣さんたちの大きな拍手に、膝をついて礼をしたふっきーは、皇の前に歩いて行った。
双眼鏡で覗いていると、ふっきーを前にして、大きく頷いた皇が、ほんの少し、口端を上げたところまで見えた。
皇は、ふっきーを軽くハグして手を引くと、自分の隣に座らせた。
……皇、あんなこと、するんだ?
何だか、鳥肌が立つ時みたいに、体中が……ザワって、震えた。
ふっきーが皇の隣に座ると、他の余興が始まった。
会場は、お祭りらしいざわつきで包まれた。
ふっきーも見られたし、もう帰ろうかと思ったところで、目の前にいた家臣さんの、『やはり、お詠の方様で決まりだろう?』と、いう声が聞こえてきた。
「若様の奥方様か?そうだな。お詠の方様は、経営にも明るいらしい」
「ほう、お詠の方様が奥方様になれば、鎧鏡も安泰だ」
「ああ、全くだ。そう言えば、今年入られた候補様は、どうなされたのだ?」
どあっ!それ……オレのこと?だよね?
うわあ……どうしよう、聞いてていいのかな、この話。
「ああ、雨花様……だったか?」
やっぱり!
います!ここにいます!
「ああ、そうそう」
「ここだけの話、候補としての素養が全くないとは本当だろうか?それで、行事参加も許されていないとか」
「ああ、それで今日もいらっしゃらないのか?いやしかし、今年の展示会は、不作揃いだったって話を聞いたぞ」
「そう言えば、占者 様の体調が優れぬ時に、桃紙渡しのご選出をなされたと、聞いたことがある」
せんじゃ様?誰?
「占者様の選出ミスってことか?」
「そんな話も出ているようだ」
「それはそれは……それでも、その中から候補様を選ばねばならなかったとは、若様もお気の毒なことだ」
「ああ。なんでも、今年の展示会では、若様は候補様をどうにも選べず、一人も選ばぬわけにもいかないからと、最後に並んでいた雨花様を、渋々選ぶしかなかった、なんて話も耳にした」
渋々……選んだ?
それ以上、聞いていられず、走り出した。
皇は、オレのこと、渋々、選んだ……?
確かにオレ、さっきの家臣さんが言っていた通り、一番最後に、並んでいた。
そういえば……展示会の日、本丸で入れられたお風呂場で、オレのこと、皇が普通とは違う決め方をした……みたいなこと、駒様が言ってた。
オレは……渋々決められた、候補?
部屋に戻ってぼうっとしていると、しばらくして、部屋の外が、急に騒がしくなった。
なんだろう?と、ドアを開けると、そこにあげはが立っていた。
「あ、雨花様」
「何かあったの?」
「やつみさんが、牢に入れられたって……」
「え?!」
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