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メッセージ②
あげはの話では、やつみさんは、祭りの会場で誰かと喧嘩になって、本丸の地下牢に入れられたらしい。
「うそ……」
オレが、やつみさんを置いて、逃げるみたいに帰って来ちゃったせいだ!
やつみさん、喧嘩するような人じゃないじゃん!
もしかして……。
さっき、オレの隣にいたやつみさんにも、あの家臣さんたちの話、聞こえてた?
もしかしたら、樺の一位さんに食ってかかったいちいさんみたいに、やつみさんも、オレのことを庇って、喧嘩になったんじゃ……。
「……」
オレは、いてもたってもいられず、地下牢がある本丸に行こうと、駆け出した。
「雨花様!いけません!お待ちください!」
後ろから、いちいさんの声が聞こえたけど、ごめんなさい、いちいさん!やつみさんを助けなくちゃ!
本丸に行くには、中庭を突っ切るのが一番早い。中庭を突っ切って、梓の丸を出る門に着くと、そこで門番さんに、止められた。
「申し訳ありません。雨花様を通してはならぬと、達しがありました」
「え?!誰から……」
「私です」
声がして後ろを振り返ると、ここのいさんが、腕を組んで立っていた。
その後ろから、いちいさんが走ってくるのも見える。
「ここのいさん……」
「いくら雨花様でも、八位に会いに行ってはいけません」
「なんでですか?!」
「八位のことは、教育係の私にお任せ下さい」
「でも!やつみさんが喧嘩したのは、きっとオレのせいで!」
「理由はどうあれ、八位が神事を穢したことに変わりありません。打ち首を免れただけでも、御厚情をいただいているのです。動いてはなりません。よろしいですね?」
「でも!」
きっと、オレのせいなのに……。
「雨花様」
いちいさんが、オレの背中にそっと手を置いた。
「地下牢って……やつみさん、何をされてるんですか!」
「大丈夫です。頭を冷やしなさいと、そういう意味で入れられただけです」
いちいさんが、ニッコリ教えてくれた。
「じゃあ、酷いことは、されてないんですよね?」
「ええ。大丈夫です」
「私のほうから、三食抜いてくださいと、お願いはしてありますが、それだけですので」
ここのいさんは、うっすら笑いながらそう言った。
「え?!」
「八位には、良い薬になりましょう」
ここのいさんはドSだって、あげはが言ってた。
「さぁ、戻りましょう」
「あ……はい」
いちいさんに促されて、自分の部屋に戻ってきた。
だけど、やつみさんが地下牢に入れられたのは、オレのせいだという思いは、消えていない。
やつみさんだけが、地下牢に入れられるなんて……。
夕食を口にしないオレに、ふたみさんが、おにぎりを作ってくれた。
オレは、こっそりおにぎりを持って、シロの散歩に行くと言い、外に出た。
「シロ。今日は、本丸に行って欲しいんだ。わかる?」
シロは、鼻をふんっと鳴らすと、自分の背中を見た。
「あ!乗れってこと?」
そうだ!シロに乗って行けば、門も簡単に抜けられるじゃん!
前にシロに乗った時、いつ門をくぐったのかわからない間に、三の丸から梓の丸まで着いてたもん!
「シロ、ありがとう!」
オレは、シロの背中にしがみついた。
やつみさん、ご飯抜きだなんて……。出してあげられなくても、ご飯だけでも届けたい。
シロは、本丸の脇の東屋で、オレを降ろしてくれた。
「シロ、ここにいて?」
シロを撫でると、シロは、最初に会った時みたいに、その場に寝そべって、あくびをした。
ここなら、シロが誰かに見つかることはないと思う。
「地下牢って、どこだろう?」
そう呟くと、後ろから、『どうするつもりだ?』と、声を掛けられた。
「ふぁっ?!」
後ろから聞こえてきた声にびっくりして振り向くと、そこに、皇が立っていた。
「どうして……ここに?」
「ただの散歩だ。そなた、なにゆえ地下牢を探す?今日、梓の八位が入れられたそうだな」
「……」
さっきの家臣さんたちの、『渋々選んだ』って言葉が、ふっと蘇ってきた。
皇が、オレを奥方にしないだろうなんてことは、もともとわかってたし、そんなことを聞いたって、傷付いてなんか、ない。
傷付くことなんか……ないんだ。
「迎えに参ったのか?」
「……違うよ」
「では、なぜ探す?」
「皇には関係ない」
何だか、皇に、無性に腹が立っていた。
「余は、そなたのところの八位を、今すぐにでも打ち首に出来る」
「なっ?!」
「なぜ地下牢を探すか、申せ」
「やつみさんを打ち首にする気なら、オレをしてよ」
「あ?」
「オレのこと、打ち首にしてよ!」
なんだろう?イヤだ。
皇のそばにいるのが、どうしてこんなに、つらいんだろう?
「何故……泣く?」
泣きたくなんか、ないのに。
「……お前のせいだよ!」
何だかわからないけど、皇のせいだ!
手を伸ばしてきた皇を、思い切り突き飛ばした。
「何を!」
「オレじゃないくせに!」
何……言ってんだ?オレ。
「オレじゃ……ないくせに」
何、言ってんだよ。
自分が、わからない。
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