59 / 584

メッセージ②

あげはの話では、やつみさんは、祭りの会場で誰かと喧嘩になって、本丸の地下牢に入れられたらしい。 「うそ……」 オレが、やつみさんを置いて、逃げるみたいに帰って来ちゃったせいだ! やつみさん、喧嘩するような人じゃないじゃん! もしかして……。 さっき、オレの隣にいたやつみさんにも、あの家臣さんたちの話、聞こえてた? もしかしたら、樺の一位さんに食ってかかったいちいさんみたいに、やつみさんも、オレのことを庇って、喧嘩になったんじゃ……。 「……」 オレは、いてもたってもいられず、地下牢がある本丸に行こうと、駆け出した。 「雨花様!いけません!お待ちください!」 後ろから、いちいさんの声が聞こえたけど、ごめんなさい、いちいさん!やつみさんを助けなくちゃ! 本丸に行くには、中庭を突っ切るのが一番早い。中庭を突っ切って、梓の丸を出る門に着くと、そこで門番さんに、止められた。 「申し訳ありません。雨花様を通してはならぬと、達しがありました」 「え?!誰から……」 「私です」 声がして後ろを振り返ると、ここのいさんが、腕を組んで立っていた。 その後ろから、いちいさんが走ってくるのも見える。 「ここのいさん……」 「いくら雨花様でも、八位に会いに行ってはいけません」 「なんでですか?!」 「八位のことは、教育係の私にお任せ下さい」 「でも!やつみさんが喧嘩したのは、きっとオレのせいで!」 「理由はどうあれ、八位が神事を穢したことに変わりありません。打ち首を免れただけでも、御厚情をいただいているのです。動いてはなりません。よろしいですね?」 「でも!」 きっと、オレのせいなのに……。 「雨花様」 いちいさんが、オレの背中にそっと手を置いた。 「地下牢って……やつみさん、何をされてるんですか!」 「大丈夫です。頭を冷やしなさいと、そういう意味で入れられただけです」 いちいさんが、ニッコリ教えてくれた。 「じゃあ、酷いことは、されてないんですよね?」 「ええ。大丈夫です」 「私のほうから、三食抜いてくださいと、お願いはしてありますが、それだけですので」 ここのいさんは、うっすら笑いながらそう言った。 「え?!」 「八位には、良い薬になりましょう」 ここのいさんはドSだって、あげはが言ってた。 「さぁ、戻りましょう」 「あ……はい」 いちいさんに促されて、自分の部屋に戻ってきた。 だけど、やつみさんが地下牢に入れられたのは、オレのせいだという思いは、消えていない。 やつみさんだけが、地下牢に入れられるなんて……。 夕食を口にしないオレに、ふたみさんが、おにぎりを作ってくれた。 オレは、こっそりおにぎりを持って、シロの散歩に行くと言い、外に出た。 「シロ。今日は、本丸に行って欲しいんだ。わかる?」 シロは、鼻をふんっと鳴らすと、自分の背中を見た。 「あ!乗れってこと?」 そうだ!シロに乗って行けば、門も簡単に抜けられるじゃん! 前にシロに乗った時、いつ門をくぐったのかわからない間に、三の丸から梓の丸まで着いてたもん! 「シロ、ありがとう!」 オレは、シロの背中にしがみついた。 やつみさん、ご飯抜きだなんて……。出してあげられなくても、ご飯だけでも届けたい。 シロは、本丸の脇の東屋で、オレを降ろしてくれた。 「シロ、ここにいて?」 シロを撫でると、シロは、最初に会った時みたいに、その場に寝そべって、あくびをした。 ここなら、シロが誰かに見つかることはないと思う。 「地下牢って、どこだろう?」 そう呟くと、後ろから、『どうするつもりだ?』と、声を掛けられた。 「ふぁっ?!」 後ろから聞こえてきた声にびっくりして振り向くと、そこに、皇が立っていた。 「どうして……ここに?」 「ただの散歩だ。そなた、なにゆえ地下牢を探す?今日、梓の八位が入れられたそうだな」 「……」 さっきの家臣さんたちの、『渋々選んだ』って言葉が、ふっと蘇ってきた。 皇が、オレを奥方にしないだろうなんてことは、もともとわかってたし、そんなことを聞いたって、傷付いてなんか、ない。 傷付くことなんか……ないんだ。 「迎えに参ったのか?」 「……違うよ」 「では、なぜ探す?」 「皇には関係ない」 何だか、皇に、無性に腹が立っていた。 「余は、そなたのところの八位を、今すぐにでも打ち首に出来る」 「なっ?!」 「なぜ地下牢を探すか、申せ」 「やつみさんを打ち首にする気なら、オレをしてよ」 「あ?」 「オレのこと、打ち首にしてよ!」 なんだろう?イヤだ。 皇のそばにいるのが、どうしてこんなに、つらいんだろう? 「何故……泣く?」 泣きたくなんか、ないのに。 「……お前のせいだよ!」 何だかわからないけど、皇のせいだ! 手を伸ばしてきた皇を、思い切り突き飛ばした。 「何を!」 「オレじゃないくせに!」 何……言ってんだ?オレ。 「オレじゃ……ないくせに」 何、言ってんだよ。 自分が、わからない。

ともだちにシェアしよう!