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メッセージ③
自分でも、どうしたらいいのかわからなくて、その場から駆け出した。
オレ……何言ってんの?
何、言っちゃってんだよ?!
追いかけてきた皇が、走るオレの手首を、後ろから掴んで引っ張った。
「あっ!」
バランスを崩したオレは、足首を捻ってよろめいた。
景色が、ゆっくり流れて見える。
ドサッという音と共に、地面に倒れ込んだ。
けど……痛くない。え?柔らかい。
目を開けると、オレの下に、皇がいた。
「あ?!」
「っ……」
「大丈夫?!」
痛そうな顔をしている皇の上からどこうとしたのに、皇は、オレを離そうとしない。
「ちょっ……離してよ!」
「何故、余を拒む?」
皇の、この顔。
どうして、そんな……悲しそうな顔するんだよ!泣きたいのは、こっちなのに……。
「オレのこと……実家に、帰したらいいじゃん!」
「あ?何を申しておる?」
「お前は、オレのこと……渋々選んだんだろ!」
「何を……何故、そう思う?」
「だって……聞いたんだ!今日!今年の展示会は、不作揃いだったって!せんじゃ様って人が、桃紙を送るのを間違えたんだろうって!オレも、おかしいって思ってた!お前はオレのこと、どうして選んだんだろうって、ずっと、不思議で不思議で、たまらなかった!その話を聞いて、ようやくわかったよ!お前は、不作揃いの展示会の中から、どうしても選べなくって、最後に並んでたオレを渋々っ……っ!」
皇は、叫ぶオレを、話の途中で、ぎゅうっと抱きしめた。
「もう何も申すな」
皇の胸に押し付けられた耳に、皇の心臓の音が聞こえてくる。
ドクドク……速い。
皇、ドキドキ、してる?
「占者 殿に、間違えなどない」
「え?」
その時、遠くから、『若様!』と、皇を呼ぶ声が聞こえた。
皇は、オレを抱きしめたまま起き上がると、オレを離して、『もう、行かねばならぬが……』と、背中の草をはたいた。
「そなたは……余を信じるか?それとも、噂を信じるか?」
「え?」
「そなたが、余の言うことを信じると申すなら、いくらでも、そのくだらぬ噂話を否定してやる」
「な、に?」
「そなたが、余の話を信じられぬと申すなら、何も言うことはない。噂話でも何でも、信じておれば良い」
「な、に、それ……」
「余を、信じるか?」
遠くでまた、皇を呼ぶ声が聞こえた。『お渡りのお支度の時間です!』と、叫んでいる。
これから皇は、誰かのところに、渡る。
「……去 ね」
なんの返事もしないオレに、皇は静かな声でそう言って背中を向けると、本丸の屋敷に向かって歩き出した。
「……」
だって!何を信じろって言うんだよ!
お前、まだ何にも、噂話を否定するようなこと、言ってくれてないじゃん!
なのに、先に、余を信じるか?なんて……。
皇はいっつも、順番がおかしいんだよ!好きとも言わないくせに、キスとかしてくるし!
……もうちょっと、答えるまで、待ってくれてもいいじゃん。
そんな簡単に、信じる、なんて……言えるわけないじゃん。
もう、これでオレ……実家に帰されるかもしれない。
やつみさんに、おにぎりも渡せないまま。
オレは、皇が歩いて行った方向とは逆の、東屋に向かって歩き出した。
だけどすごいムカついて、皇の背中に、あっかんべーしてやろうと、後ろを振り向いた。
本丸の屋敷に向けて、歩いていると思っていた皇が、外灯に照らされて、こちらを見て、立っていた。
「っ?!」
……さっきから、自分の言動が、わからない。
オレの足は、皇に向かって、走っていた。
「雨花……」
「お前、順番がおかしいんだよ!普通は、噂を否定する話をしてから、信じるか?って聞くもんだろ!」
「何……」
「お前が、噂を否定したいなら……聞いてやる!」
鼻で笑った皇が、『そなたは、誠、生意気な候補だ』と、言いながら、オレに、キスをした。
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