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メッセージ④
何故か皇の『否定』は、鎧鏡家にいるという、鎧鏡家専属の占い師?"占者 様"の、説明から始まった。
占者様のお仕事は、主に、鎧鏡家の安全と繁栄をサクヤヒメ様に日々祈願して、サクヤヒメ様からのメッセージを聞くことなんだそうだ。
その占者様が、占い?で、皇の奥方候補になってもいい『候補者』を選んで、桃紙を送るんだ、って。
「占者殿が、余の嫁候補の選出を間違うはずがない」
「占いが外れないってこと?」
「いや。それもあるが……。占者殿は、余よりも、余の嫁決めに対して、熱心だからだ」
「は?なんで?」
「余の嫁が、余だけでなく、占者殿の未来をも左右する存在だからだ」
「え?なんで?」
「そなた、御魂戻 しについても、知らぬのか?」
「みたまもどし?」
小さく息を吐いた皇が、少し頭を捻って、"みたまもどし"について話し始めた。
皇が死んじゃった時、家臣の人たちが必要だと判断したら、鎧鏡家のその占者様が、『御魂戻し』っていう儀式をして、皇の魂を呼び戻すことが出来るんだ、って。
は?
その儀式をして、皇の魂を戻すためには、皇の代わりになる人の命と、その儀式を実行する占者様の命が、必要になるんだ、って。
え?!
で。皇の代わりになる命を差し出すことを許されるのは、皇の奥方様だけなんだ、って。
だから占者様は、奥方様決めに熱心なんだって、皇は言うんだけど。
っていうか。
この再びの、日本昔話感、何?
サクヤヒメ様の話を聞いた時も、どうしちゃったのかと思ったけど、今回の話はさらに、どうしちゃったの?
いや、でもそう言えば……。
鎧鏡家の中で、奥方候補が一番大切にされるべき存在だって、母様が言ってた。
それって、こういうことだからなの?
皇の身代わりになる人だから、大切にされるってこと?
みんな、『候補様は、若様のもの』とか、すぐ言うのも、そういうこと?命すら、皇のものですってこと?
御魂戻しって、伝説とかじゃなくて、本当の話なの?
「御魂戻しを実際にしたのは、今まで一度だけと聞いておる」
「うぇっ?!」
いやいや、一度だけって、実際やってんの?!
「そのようなことが出来てしまうゆえ、鎧鏡の跡継ぎは、代わりの命を差し出す嫁を持たねば、鎧鏡の当主とは認められぬのだ」
「え?」
なに?それ?
「そなたには……理解出来ぬかもしれぬな」
「……」
理解……出来ないよ!そんなの!
一回死んだ人を、生き返らせるとか。身代わりになる嫁がいないと、当主として認められないとか、なんなの?それ!
「皇は、それでいいの?」
「ん?」
「奥方様を身代わりにして、自分のことを生き返らせて欲しいとか、思うの?オレがお前だったら、そんなの絶対イヤだ!」
「余とて、そのようなこと、したいわけなかろう。だが、余が誠、嫁にと願う者を選ばねば、身代わりを受け入れかねぬと、占者殿はおっしゃるのだ」
「そんな!どんな人だって、身代わりなんて!」
「無論、余とて、万が一好かぬ相手であろうとも、身代わりなぞ望まぬと申した。しかし占者殿は、それでは甘いとおっしゃる」
「え?」
「御魂戻しの儀の決定を下すのは、余ではなく、家臣だ。余が、儀式をせぬために出来ることは、余自身の身を守ることのみ。そのためには、何としても、身代わりになぞさせぬと思える相手を嫁に娶らねばならぬと……その者の命を守るため、余自身の命をも、必死で守ると、そう思える嫁を娶らねばならぬと、占者殿はおっしゃった」
占者様の言いたいことは、なんとなく、わかる。
「しかし、余は家臣を気にするあまり、余自身の意向ではなく、家臣の意向に沿う者を嫁に選びかねぬと、占者殿は案じていらっしゃる。それでは、御魂戻しをする可能性が出てくると……。占者殿は、御魂戻しなどしたくないとおっしゃっておいでだ。儀式をすれば、占者殿の命をも頂くことになる。それゆえ、占者殿は、余の嫁決めに熱心なのだ」
皇は、『余はそれほどまでに家臣に気兼ねしておるつもりはないのだが』と、口をキュッと結んだ。
だけど、皇が、家臣さんたちを気にしてるって占者様の言葉、なんとなく、わかる。
母様の話だと、皇は、お館様のことがあって、家臣さんたちに対して、殿らしい殿になるようにって、育てられてきたわけだから、それなら、家臣さんたちを気にするのは、当たり前だ。
「皇は、殿様らしくって言われながら、育てられたんだろ?」
「あ?……ああ」
「だったら、家臣さんたちのことを気にするのは、当たり前じゃん。気にしたって良くない?気にし過ぎなきゃいいだけだろ?」
「……そなたは、顔に似合わず、思い切りの良い考え方をするのだな」
「はぁ?!」
顔に似合わずって何だよ!
「羨ましい」
皇は、そう言ってふっと吹き出した。
「なにそれ?!」
バカにされてる気がしてカチンときたのに、オレの髪を撫でた皇の指が、そのまま滑って頬を撫でるのを、されるがまま受け止めてしまった。
だって……皇が、楽しそうに、笑うから。
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